3度目の課長の家2
「は~、さっぱりした」
フワフワのタオルで濡れた髪を拭きながら、これまたフカフカのベッドに腰を下ろす。
「やっぱりすごかったな」
想像以上のお風呂だった。
テレビは付いてるし、ジャグジーは付いてるし、浴槽は大理石だったし。
とにかく凄かった。
「オマケにパジャマもシルク」
カタコトみたいに発音しながら、今着ているパジャマの裾を摘まむ。
さっき寄らせてもらったコンビニで下着類は買ったんだけど、さて寝る時には何を着たら良いだろう?と悩んだ。まさか人の家に来て下着姿で寝る訳にも行かず(べ、別に何かがあるかもなんて思ってないよ!?)、好きに使ってくれと言われたクローゼットを開けてみたら『来客用』と書かれたボックスがあって、その中にこのパジャマが入っていた。
なのでお言葉に甘えてこのパジャマを着たんだけど……。
「寝れるかな」
何もかもが違い過ぎて、カルチャーショックを受けている。
「喉、渇いたな……」
お風呂上りと言う事もあって喉が渇いて来た。でも、生憎ペットボトルを持っていない。
「お水貰ってもいいかな?一応課長に声掛けた方がいいよね?あ、でもさっきもう寝るって言ってたっけ」
ちょっと
部屋を出て、さっき課長が入って行った部屋の前に立つ。
リビングから人の気配はしないから、課長は自分の部屋にいるんだろう。
ちょっと緊張しながら、コンコンコン、と控えめにノックをした。もし寝ていたら起こさない程度の力加減で。
しかし課長はまだ寝ていなかった様で、中から「どうぞ」と言う声が聞こえた。
「失礼します……」
と言いながらドアを開ける。
課長はくつろいでいる様子はなく、机に座ってパソコンとにらめっこをしていた。
「どうした?」
振り向いた課長は黒縁のメガネをして、スーツではなくスウェットを着ていて、会社にいる時とは全然雰囲気が違った。どうやら普段はコンタクトだったらしい。
「あの、お水を頂いてもいいですか?」
「ああ、構わないよ。冷蔵庫に入ってるからなんでも好きに飲んでくれ」
そう言いながらメガネを外して、目頭を押さえながらあくびをしている。
「ありがとうございます。…お仕事中ですか?」
課長の前にあるパソコンにはグラフの様な物や数字が映し出されている。
「ん?ああ、いや。これは仕事じゃないよ。趣味で株をやっているんだ」
「へえ、株ですか……株っ!?」
課長がサラッと言ったので、私もサラッと受け流してしまう所だったけど、株なんてやってるの!?
「ああ。学生の頃からやっていてね。これでも結構儲けが出ているんだ」
課長はいたずらっこのように、ニッと笑った。
「す、凄いんですね」
なるほど、謎が解けた。
以前、課長職がこんなに儲かるのか?って思った事も、このマンションも、今ので納得。
「あ、あのじゃあ、お水頂いて私も寝ますね。あ、あと、パジャマ勝手に着させてもらいました」
ダメって言われたらどうしよう、とちょっとビクビクしていたんだけど、
「ああ、構わないよ。あの部屋にある物は好きに使ってくれ」
特に怒っている風でもなかったので、私はホッと胸を撫で下ろした。
「ありがとうございます。じゃあ、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
課長はもう一度メガネをかけ直してパソコンに向き直る。
静かにドアを閉め、私はリビングに向かった。
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