3度目の課長の家1
「どうぞ」
「お邪魔します……」
課長がドアを抑えて、中に入るように促してくれる。
玄関に足を一歩踏み入れると、初めてじゃないのになんだかドキドキして来た。
「こっちの客間は使っていないから、自由に使ってくれ。あと、風呂はこっち。自由に使ってくれ。あとは……」
色々説明してくれる課長に相槌を打ってはいるんだけど、なんか頭に入って来ない。
思いの外、緊張している。課長の家にお邪魔するのはこれで3度目だけど、改まって入ったのはこれが初めてだからかもしれない。
「……ょう……かじょう……中条!」
「はいいいっ!?」
急に肩をポンっと叩かれて、飛び上がるほどビックリした。
「ボーっとして、大丈夫か?」
「あ、は、はい!大丈夫です、すみません!」
心臓が口から飛び出すかと思った。
ドキドキうるさい心臓を、ギュッと押さえる。
「まあ、大体こんなもんかな。あとは、服をどうするかだなぁ」
課長が腕を組み、アゴに手を当てて考えてくれる。
「あ、その事なんですが」
私は小さく顔の位置くらいまで手を上げた。
「うん?」
「さっきは気が動転していて忘れていたんですが、今着ている服、リバーシブルなので大丈夫です」
「リバーシブル?」
「はい」
さっきここに来る途中に寄ったコンビニで気が付いた。
ジャケットとスカートがリバーシブルだった事を。
「なので、明日は裏返して行けば大丈夫です」
そう言ったら、課長がなるほど、と頷いた。
「そうか。まあ、状況が状況だから、説明すればみんな分かってくれるとは思うけどな」
「はい」
「じゃあ、解決したと言う事で……」
課長がニコッと笑い、スッと私に手を伸ばして来た。
(え、もうっ!?)
課長の家に行くと決めた時点で覚悟はしていたが、こんなソッコーで来られるとは!
肩をすぼめ、ギュッと目をつぶる。
しかし、そんな覚悟とは裏腹に、課長は私の頭を優しく撫でるだけで他には何にもして来なかった。
「……へ?」
「今日は疲れただろう?風呂に入ってサッパりして、もう寝てしまえ」
優しい手と、優しい笑顔。
「課長……」
「じゃあ俺はもう寝るから。おやすみ」
「あ、お、おやすみなさい!」
私は慌ててお辞儀をする。
課長は手をヒラヒラと振り、自室に入って行った。
私は頭を押さえ、一人廊下にポツンと取り残される。この展開は想像していなかったから、大分と拍子抜けしてしまった。
てっきり、ルイちゃんの代わりをするんだと思っていたから。
なんとなく、安心したような、ガッカリしたような、複雑な気持ちになる。
「……お風呂入ろ」
ボソッと呟いて、さっき説明されたばかりの浴室へと入った。
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