傷心アンドロイド

あめいろ

第1話

昨今、アスキニック社から開発されたアンドロイドは、人と見間違えるほどに精巧にできていた。




ーー三週間前。

テレビから流れるニュースを聞き流している。食卓に並べられたベーコンと目玉焼き。塩気が強く、失敗したと強く後悔した。

つい、ため息が漏れる。何となくで入れたコーヒーは案の定薄い。料理下手なのが自分でも分かる。

朝食をそこそこに、唯一ある部屋へと移動した。今やほぼ物置と化している中、小さな仏壇が目を引く。

無視するわけにもいかず、物静かに前に座った。僅かに香る線香が、冷え切った座布団の上が、否応なしに、これが現実であることを告げる。


「なぁ、あんず。どうにも俺は一人暮らしに向いてないらしい。どうしたら、いいかな。」


声をかけるのにあまりにも下手だと思った。初めて声をかけた時の方がもう少しまともな事を言った気がする。気恥しさと虚しさが同時に込み上げて来て、下を向く。


聞こえていたつまらないニュースが地元番組に切り替わった。8時を過ぎたのだ。

やたらと清楚に着飾ったニュースキャスターが原稿を読み始める。


「アスキニック社から開発されたアンドロイドの実験者募集が始まりました。今回開発されたアンドロイドはアスキニック社の中でも最良のものとなっており、今回の実験に成功すれば世界的に普及が始まるのと事です。」


流れるようにゲストに話を振る。


「凄いですよね。○○さん。どう思いますか?」


丁寧すぎるフリに頷き、ゲストと思われる人は話を始める。ただの地元番組だ。ゲストはそこまで有名な俳優では無い。


「いや〜、近未来かと思いましたよ。アンドロイド、まさか自分が生きてる間に完成するなんてね。私はてっきりリニアモーターカーの方が早いかと思ってましたよ。」


内容のないコメントに笑顔で会話を続けるキャスター。


「それでですね、今回アスキニック社が新企画に乗り出したんです。」


キャスターが話を進めた。その部分だけ妙にはっきり聞こえた。俺は引き込まれるようにテレビへと近づく。ほぼ無意識だった。


「アスキニック製アンドロイドの実験者に、玉日街たまひまちの住民が参加できるそうです!枠は三人だけ。以下のメールアドレスにメールを送信するだけで抽選に参加できるそうですよ。」


キャスターが示したのはアスキニック社のURLと抽選専用と思われるメールアドレス。「詳しいことはURL先に書いてあります。」と保管される。

一瞬、脳裏を明るく笑う杏の顔が過ぎった。


ここ、玉日街は多くの工業が活発に進む街だ。その中でも一際大きいのがアスキニック社と呼ばれる機械業を主とした会社。車やら新幹線やらロケットやら。専ら乗り物ばかりかと思っていたが、そうではなく、ロボット制作なども行っている会社だ。世界進出もしていて、日本の大企業といえば三番目以内には名前が上がるだろう。

そんな街で俺は、東京へ出て会社勤め。この街を仕事関係で利用したことはほとんどない。


「アンドロイド」と聞いて思い当たる節がいくつかある。杏がよく話していた内容だ。彼女もアスキニック社に勤めていて、開発部門だった。秘密事項が多く、あまり仕事内容は話してはくれなかったが、きっと驚く物ができるよ、とよく顔を綻ばせていた。


情けない男だと思う。いつまでも彼女の姿を夢見て、まるで遺品でも集めるように、実験参加のメールを送ってしまったのだから。

「はぁ、馬鹿か、俺は。」

自分を貶してもどこか空ぶった気がする。


でもまぁ、少しくらい気が紛れるならいい。どうせ一週間後には仕事があるんだ。仕事に手が付かないくらいなら、アンドロイドで気が紛れていた方がいい。

それに、実験参加できると決まったわけじゃない。そこそこ人口の多い玉日街で、実験参加したいという人間も多いだろう。外れる方がきっと高い。


そんな気休めを連ねて、テレビを消した。やることは何も無い。たまにはゆっくり本でも読もうか。


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