第28話

 「さて、次はどの店に行きましょうか!」

 「…………」


 その頃、満面の笑みのミーナは面倒くさそうなリアナの手を引っ張り、自身の行きつけであるお店を何軒も回っていた。


 ただその店はリアナが全く興味のない化粧品や女性服の店ばかり。

 しかしそれは男女共に視線を集める結果になる。


 いつもはジャージ姿でお洒落も何もない格好だが、白いスニーカーに紺のジーンズ、それに半袖の黒シャツと十字架のネックレス。

 そして、顔に軽くメイクを施し、長い髪をポニーテールに束ねたその姿は、格好良さと美しさを兼ね備えていた。


 (面倒臭い……あぁ何て面倒くさいんだ……)


 ただ本来であれば、リアナがこんな事には付き合いたくは無かった。

 居留守を使う気満々だった。

 だが。


 『あぁミーナは何て良い子なんだ……。 しかもあのセンス、きっと将来はファッション関係の職で大活躍だな!』


 自身の背後でうなづきながらそう呟くシスコンお兄ちゃんのラスティに『行かなきゃ快適な生活をぶち壊してやる』と脅された結果、リアナは本日、嫌々ながらミーナに付き合う事に決めたのだ。


 「あっ、そうだ! せっかくですし、あそこでお昼ご飯を食べましょう!」

 「…………」


 ただ今のリアナのやる気ゲージは65%。


 さてミーナはそろそろ昼ごはんの時間だと考え、とある店へ足を進めている。

 その店と言うのは勿論。


 「ショーモト店長〜」

 「おっ、ミーナちゃんじゃないの? もしかして新しい彼女とデート?」

 「あはは、違いますよ〜ショーモトさん〜! 店長こそ何で掃除を?」

 「いやー動けるデブって所をアピールしたくてさー」


 エドガーが働くいつもの酒場である。


 そんな軽口を入り口の掃除をしながらショーモトは、楽しそうなミーナにそう語りかけつつ、彼女の兄の精神に直接語りかけた。


 (憲兵さん、こっちです)

 『ちょっと酷いですよショーモトさん!?』

 (まぁラスティ君のリアクションはどうでも良いとして……)

 『どうでも良くないです!?』


 ショーモトは視線をラスティからミーナに移し、店内へ向け右手を伸ばした。


 「冗談はさておき、ミーナちゃんは食事しに来たんでしょ?」

 「分かります?」

 「まぁね! そうそう、今日は新作スイーツもあるから食べていくと良いよ〜」

 「良いんですか!? やったー!」


 そしてミーナ達は店の中へ入っていく。


 (……何者なんだ、この男は……?)


 ラスティが独り言を送ったショーモトを、リアナは静かに見つめつつ……。


 …………。


 「いらっしゃい」

 「アルタイルさん、こんにちは〜! ご飯食べにきました〜!」

 「そうか。 んじゃま、席に案内するぞ〜」


 酒場は昼ごはんの時間より早いはずなのに、客が大勢押しよせ、賑やかさが空間を包む。

 そんな中をアルタイルの案内で建物右角のテーブルへ案内されるのだが。


 「凄く綺麗だな……」

 「あの美人は一体……」

 「何あの人、カッコいい……」

 「女性だけどイケメン……」


 リアナの姿を見た大衆は、黄色い視線を送りながらその様なことを呟くのだ。

 そんな声に対しミーナは。


 (リアナ、良かったですね!)


 と喜びを表情として表に出すのであった。

 さて、嬉しそうなミーナとそんな声に興味もないリアナは席に着きメニューを見る。


 ただそのメニューは以前と違い、シンプルながらやや高級感漂う黒革のモノへと変えられている。

 メニューも以前に比べ格段に増えており、子供や女性をターゲットにしたメニューが半数を占めている。


 「リアナ、私は決めたけどアナタは?」

 「お前と同じで良い……」


 そんなメニューを見てミーナは直ぐにメニューを決め、ウェイターを呼ぶのである。


 「すみませ〜ん! 注文したいのですけど!」

 「お待たせしましたお客様、ご注文は何になさいますか?」

 「このヘルシーランチを二つお願いします」

 「かしこまりました、100カラーズになります」

 「えっと、はいどうぞ!」


 そして、呼ばれてやって来た女性店員に100カラーズを渡すと『確かに、少々お待ち下さい』とミーナ達に告げ去っていった。


 そこから先は、あっという間だった。

 先程去ったハズの店員が野菜スープと野菜と鶏肉の蒸し料理を持って直ぐに戻って戻ってくる。

 そしてそれを口に運んだミーナ達の感想はとても良いモノ。


 「ん〜、この蒸し料理美味しいですね! 今度エドガー君と来れたらなぁ〜……」

 (美味いな……。 今度、労いの意味でアレクを連れて行くか……)


 その為、美味しいと言わんばかりの笑顔を浮かべるミーナ、無表情ながらどんどん食べ進めるリアナ達だが、そんな二人を見つめる二つの視線が入り口から送られていた。


 『いやーミーナの笑顔、素敵だなぁ……』

 (いやーシスコン兄貴の笑顔、犯罪臭がするわ〜……)

 『……ショーモトさん、口が悪いって言われません?』

 (俺は貴族の様にお上品な言葉遣いと評判なんだよなぁ〜……)

 『庶民目線でですか?』

 (これ以上は気密事項なんだわ)


 ただ、そんなショーモトとラスティの二人のニヤニヤした表情は直ぐに真剣なモノへと変わった。


 (……ところで、ラドラインはやはり動きそう?)

 『動くでしょう、リンドブルムの進行が明らかになった以上……』

 (店長としては、この街が争いの中心地になるのは反対だけど、さてどうしたものか……。 調査に行ったアンデットが戻って来るまで時間がかかるだろうし……)


 それはショーモトが、生きている人間には見せない真面目な一面だった。

 彼は店長として、働く皆の生活を守る事を第一に考えている。


 その為、今彼は新たな策を考えているのだが、残念ながら彼に策は浮かばなかった。

 だから彼は、隣に浮かぶラスティにこう告げるのだ。


 (……ちょっと任せていい?)

 『良いですよ』

 (助かるわ……)


 そしてショーモトは何事もなかったかの様に掃除を再開する。

 自分よりも頭が良いと認識している元幽霊に、真剣にそう頼んで……。


 …………。


 その頃ラドラインでは……。


 「女王様、リンドブルムがカラカスへ向け出兵したとの報告が!?」

 

 一人の兵が、膝をついてベッドに眠る小柄な女性に慌てた様子でそう報告する。

 するとその女性は、耳をピクリと反応させ、スタイルの良い身体をムクリと起こした。


 見た目は思春期真っ只中の長い金髪の美少女と言う風貌。

 そんなは眠そうな顔を兵士に向け、八重歯を見せる様に大きくあくびすると、ボーッと兵士を見つめている。


 「女王様、もしかしてまだ眠いのですか?」

 「ち、違うから! あ、アンタばっかじゃないの!?」


 どうやらやっと目が覚めた様子。

 彼女の瞳が大きくパッチリしたモノへと変わり、顔を赤くした彼女は兵士に対し、そう必死に否定したのだが。


 「ナイル様、可愛いです……」

 「う、うるさいんだけど、アンタ!?」


 その姿はただ可愛らしく見えるだけ。


 そんな彼女ナイルは、この国の女王であると共にミーナの母親だ。

 しかしながらその容姿から、ミーナの妹と勘違いされる事が悩ましい40代の美女なのである。

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