第29話

 「それで、リンドブルムがカラカスに進行した訳よね? だから何なの?」

 「あ、いや、その……」


 さて、王座に偉そうに座ったナイルはそう兵士達に言い放ったのだが、それには訳があった。


 まず三ヶ国の大きさは変わらない、しかし兵士の割合がリンドブルムとラドラインがほぼ同じであるのに対し、カラカスは四分の一の兵力しか持たない。


 これが何を表すかだが、もしリンドブルムがカラカスを占領するにしても、防衛や反乱分子への対策に兵を割く必要がある。

 だがこれは(防衛戦主体になるとは言え)兵力分散の愚を図る事になってしまう。

 しかも、リンドブルムには敵対している国がラドラインの他にも存在している訳で……。


 つまり《リンドブルムの兵をカラカスに割き過ぎれば、リンドブルムの守備が危うくなり、かと言ってカラカスの守備を薄くすれば、反乱もしくは侵攻によって追い出され、出兵は無駄になってしまう》


 だからナイルは慌てる事はなかったのだが、彼女はそれ以前にリンドブルムの出兵理由が気になっていた。


 (しかし、あのヒゲが兵力分散の愚を図るほど、バカじゃないはずなのよね……)


 それは敵国の事にある程度精通しているからこその冷静な想像だろう。


 「あの、先程報告し忘れてしまっていましたが、ミリアーナ様がカラカスで目撃されたと……」

 「な、何ですって〜!? アンタ達、全軍出撃よ! きっとあの子を狙っているのよ!」

 「「は、はぁ……」」

 「ほら、ボケっとしてないで早く行きなさいよ! あ、あの子に何かあったら許さないんだからね! な、何よ、何ニヤニヤ見てるのよ!」


 だが、直ぐにその落ち着いた表情は崩れた。

 そして彼女は兵士達にそう騒ぎ、兵士達はその姿に愛らしさを感じ、満面の笑みを浮かべるのであった。


 …………。


 その頃、そのナイルの娘はと言うと。


 「もっきゅもっきゅもっきゅ……」


 まるでハムスターの様に料理を口に放り込み、満面の笑みを浮かべている。

 と言うのも二人が頼んだヘルシーランチは《安くてヘルシーで美味しい》をコンセプトに作られたメニューであるのだが、これはミーナにとって大変好みの味だったらしい。

 その為、彼女はつい美味しい料理を口にどんどん放り込み、ハムスターの様になっているのだ。


 (アレクがいないとつらい……)


 それとは対照的にリアナは物足りない表情を浮かべている。

 これは料理に不満がある訳ではなく、単に自分で食べなければならない事が苦痛に思っているからだ。


 それはアレクが来て、リアナがどれだけダメ人間に近づいたかよく分かる答えだろう。


 「はぁ美味しかった!」


 ミーナの食事は終わってしまったが、リアナのデザートのフルーツ盛りはまだ手もつけられていない状態だ。

 その為ミーナは。


 「じゅるり……」

 「…………」


 まるで獲物を狙うかの様に、ジーッとフルーツ盛りを見つめている。


 「食うか?」

 「い、良いんですか!? いやーすみませんね、何か催促したみたいで」


 そんな視線に直ぐに気がついたリアナは間髪入れずにそう告げ、ミーナは嬉しそうにフルーツ盛りの皿を自分へと引き寄せた。


 だが、これはリアナの策であった。


 と言うのも、彼女は自身で食事しなければならなかった為、やる気ゲージは30%に下がっている。

 にも関わらず、現在半分以上食べている蒸し料理の他にフルーツ盛りがある、これは場合によってはやる気ゲージが20%以上削られかねない。


 しかしここで、ミーナにフルーツ盛りを食べてもらえば、やる気ゲージの減少は抑えられる。

 更に言えば、ミーナの性格上『足が痛い』と言えば、おぶってもらえる可能性が高いだろう。


 それは、そんな思惑めいた一言だったのだ。


 「ミーナ、代わりと言っては何だが、私をおぶってくれないか? 足が痛くてだな……」

 「分かりました、リアナにはフルーツ盛りを貰いましたからね、それくらいお安いですよ! それに困った相手を助けるのは、メルシス神を崇める者として当然ですからね!」


 そう申し訳なさそうな声で告げられたミーナは満面の笑みでリアナの期待に応えた。


 その後、二人は食事へ意識を戻した。

 モグモグと食べ進める二人、ペースは違えど量の違いからか食べ終わるタイミングはほぼ同じであった。


 「あ〜おいしかったですね! さぁ行きましょうか!」


 ミーナは食べ終わると直ぐに行動に移す為、リアナの横に背中を見せてしゃがみ、直ぐにおぶれる態勢を取った。

 だが。


 「ぎゃっ!?」


 背中に乗り掛かったリアナの重さをミーナは持ち上げきれず、結果ミーナはリアナにのしかかられてしまい、残念ながらリアナの希望通りにはならなかった。


 …………。


 その頃、エドガーとアレク達はと言うと……。


 「ロリコンじゃないんでありますよ〜……。 誤解を解いて欲しいでありますよ〜……」

 「んん? いきなりどうしたんだいアレク?」

 「自分はロリコンでないでありますから、何とかして欲しいんでありますよ〜」

 「いや、誰にどうしろと言うんだい?」


 ネルブのもとを訪れ、テーブルに座るや否や、アレクはネルブに頭を下げてそうお願いすた。

 だが、ネルブはその訳を理解できなかった為困惑した表情を浮かべている。


 「エドガー、一体何が言いたいんだい?」

 「まぁその、アレクが誤解されたと言いますか……。 レッカー君達に……」

 「ちょっと詳しく話してくれないかい?」

 「その〜ですね……」


 だからネルブはエドガーは事の次第を尋ね、エドガーもそれにネルブに答えるように、事実を伝え始める。

 だがしかし。


 (いや、同性に反応して鼻血を出す方がマズイと思うんだけど……)


 話を聞いたネルブは当然ドン引きした。

 ただその表情にエドガーは。


 (そりゃそうだよね……)


 っと申し訳なさそうな表情。

 ただ、エドガーとしてはアレクの性格を理解してはいるので、それをフォローするかの様にこう告げる。


 「彼は幼い頃に母を亡くし、虐められていた。 だから彼は愛情に飢えていると言うか……」

 「なるほど……」


 エドガーの言葉に小刻みに頷くネルブ。

 ただ、それを納得したかと言われれば。


 (言いたい事は分かるけど、褒められて鼻血出すのは流石に異常だからね)


 そう言う訳ではないのだが……。

 しかしながら、エドガーの言いたい事はネルブに何となく伝わり、後にネルブは子供達にこう説明している。


 「二人とも。 アレクはね、エドガーに興奮しやすく、鼻血を出しやすい病気なんだよ。 だからロリコンじゃないし、悪い奴じゃないんだけど、大変残念な奴なんだ」

 「「分かった」」

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