第20話

 「じゃ、じゃあ説明を始めるよ!」

 「ネルブさんと二人で説明しますからね」


 さて、エドガーとネルブはテーブルの前に立ち、ミーナ達へ向けそう告げたのだが。


 (何で二人ともニコニコしてるんだい……)

 (ミーナさん、アレク……。 すごく説明しにくいのですが……)


 二人を見つめるミーナ達の表情は、大変にこやかなモノ、嬉しいと言う気持ちが伝わってくる。

 二人がにこやかなのは(ネルブを上手く誤魔化せた!)である為なのだが……。


 そんな様子にエドガー達の覚悟は折れ。


 (まさか、興味津々なのか〈なのかい〉!?)


 また少し恥ずかしい気持ちが増してしまった。


 「さ、さーて、子供がどうやって出来るのか説明しようかねぇ〜!」

 「そうですね〜」

 「「…………」」


 裏返った声を出す二人に、純粋そうな瞳が突き刺さる。

 そんな純粋さを汚す様な話をする様で、気が進まない。


 「お二人とも、どうしたのですか?」

 「早く話してほしいであります!」


 そんな二人に急かす様な言葉の追い討ちが襲いかかる。


 (やるしか無いのか?)


 今二人は崖側に追い詰められた様な感覚を味わっている。

 時間と言う圧力が徐々に迫り、離さなければいけないと言う崖下への道……。

 そして、追い詰められた二人は、遂に重い口を動かし始めた。


 「その、まずはアレをだねぇ……。 その、合体するというかだねぇ……」

 「その、ネルブさんが言いたいのは、その……。 愛の結晶と言いますか……」

 「難しいんだよ、説明するのが……」

 「確かに、難問ですよね……」


 だが結局、恥ずかしさに負けた二人は、はっきり伝える事が出来ない。

 そんな様子にミーナとアレクは。


 「……ホントに知っているんですか?」

 「……疑わしいであります」


 怪しいと疑う瞳で二人を見つめるのである。

 しかしその発言はネルブをカチンとさせ、彼女の羞恥心を吹き飛ばした。


 「あー、なら包み隠さず言ってやろうじゃないかい! 子供はね、野郎のナニを……」


 そこから語られたのは、恥ずかしさによる遠慮など無い、感情的な説明であった。

 初めは冗談だと言いたげな顔で見ていた二人だが、徐々に語られる生々しくも理論的な説明を聞くうちに、それが真実であると理解していった。


 また、その説明の生々しさは衝撃的なモノで、ネルブ自身の体験、卑猥な言葉などが容赦なく放たれ、それを聞いたミーナ達の顔は真っ赤に染まったのである。


 (し、しまった……。 つい感情的に……)


 話し終えたネルブが冷静に戻った時、その表情は真っ赤に染まっていく。

 部屋の中はただの沈黙が広がり、その空間には顔を赤くした四人の男女、まるで時間が止まったかの様。


 テーブル前に立つエドガーは、刺激の強すぎる内容を聞いた影響で、赤面した顔をテーブル下に隠し黙り込む。

 ミーナとアレクはそれぞれ。


 (わ、私は何て事をネルブさんに話させたのでしょう……。 あぁメルシス神様、愚かな私をお許し下さい……)

 (あわわわ、自分は何て事を聞いたでありますか……。 大変申し訳ないであります……)


 と考え、後悔を深いため息に変え、テーブルの上に湿った空気を吐きかけた、そんな時。


 「まったく何やってんのアンタら?」

 「「「「!?」」」」


 いつの間にかアルタイルが玄関の扉に背を預けて立っており、四人は驚いた表情を浮かべている。

 そんな四人に対しアルタイルは『はぁっ……』と小さくため息をつくと、真面目な表情を浮かべ、両手を小さく動かしながらこう告げた。


 「問題は解決したんだろ? なら解散すれば良いだろ?」


 本来であれば、その言葉の影響など微々たるモノだろう。

 しかし四人揃って冷静さを失い、この恥ずかしい状況から早く去りたいと考えている今は、例外なのかもしれない。


 「た、確かにそうかもしれないねぇ……」

 「そ、そうですよね! 私はそれで良いと思います!」

 「ぼ、僕も同意見です!」

 「じ、自分も賛成であります!」


 そんなアルタイルの言葉に賛同した四人は赤面した顔を浮かべつつ、冷静を装いながらこう思うのである。

 一言。


 (良かった……)


 っと……。

 

 …………。


 「それじゃアタシは帰るよ……」

 「俺も帰るわ」

 「なら自分も宿に帰るでありますよ」


 笑顔のネルブがそう告げ、アルタイルも去ろうとした流れでアレクも帰る事にしたのだが。


 「ミーナさん、アレクを宿まで送ってきますよ」


 そんなアレクを見つめた後、優しい笑顔をミーナに向けたエドガーはそう告げる。

 勿論、その提案はいい事と思ったミーナは。

 

 「はい、いってらっしゃい、エドガー君!」


 素敵な笑顔でエドガーを見送った。

 さて、そんなミーナの笑顔に(可愛い)と感じた後、エドガーはアレクと共に夜の街並みを歩いていく。


 裏通りは人気は少ない、しかしそれが大通りに出れば話は変わる。

 魔石輝く街灯が、暗闇の世界を行き交う人々を照らす。

 酒に酔う者、恋人とデートする者、仕事帰りの者。

 そんな人々が目に入る中、エドガーとアレクの二人は、やや抑えた声で互いの近況を話しながら歩いていくのだ。


 「やはり父上は僕を探しているか……。 皆は無事なのか?」

 「みんな元気でありますよ。 それにロレンスさん、クルシナさんも相変わらずでありますよ」

 「そうか、皆は元気なのか……。 ふふ、ロレンスさんも相変わらずクルシナさんに振り回されているか……」

 「それにクルシナさんの《呪いの言葉》も相変わらずであります。 今回は不発に終わったみたいでありますが……」

 「アレク、君が来たことが呪いの効果だったのかもしれないな」

 「あはは、相変わらず意地悪でありますな、兄上は〜……。 あっ……」

 「んっ? どうしたんだ、アレク?」


 アレクが急に立ち止まり、エドガーも足を止めた。

 周りが『何だろう?』そう言わんばかりの表情を道の真ん中で立ち止まった二人に送る中、アレクは自身の懐に手を突っ込んだ。


 「これは……」

 「兄上、皆からの手紙でありますよ。 すっかり忘れていたであります」


 そして手渡されたのは、託された子供達からの手紙、それは細長く折られた手紙の束。

 それを受け取ったエドガーはそれを静かに読んだ。


 『おにーちゃんにまた会いたい』

 『元気ですか、おにーちゃん、いつ帰ってきますか?』

 『最近、また身長が伸びたから見てほしいな!』


 それは遠回しだったり、ストレートな表情だったり様々であるが、どれもエドガーに会いたいと言う意思が感じられた。


 「みんな会いたがっているでありますよ……」


 手紙を読んでいるエドガーの耳に寂しげなアレクの声が届く。


 (みんな……)


 手紙を握りしめる手が震えている、顔が深刻な表情へと変わる、首を左右に動かした後ため息が一つ溢れる。


 (会いに戻るべきか? しかし、もし国に戻って連れ戻されたら……)


 その二択に対する意識が高まった結果、エドガーの気持ちは落ち着かなくなる。

 しかし、そんなエドガーに告げたアレクの言葉は、彼を落ち着かせるには十分な案であった。


 「兄上、手紙だけでも良いと思うでありますよ?」

 「あっ!?」


 その時、エドガーは(その通りだ!)と言わんばかりの表情を浮かべていた。

 そして。


 「自分はしばらく街の宿にいるでありますから、手紙が書けたら連絡してほしいであります。 あと、みんなに会う時は自分がしっかり計画を立てて、安全に会える様にするでありますから……。 兄上はミーナさんとの夫婦生活を大切にするであります」


 そうアレクが微笑んだ時、エドガーは抱きしめ『ありがとう、ありがとう……』

 何度も感謝を口にしながら頭を撫でた、その瞬間。


 (あ、兄上が自分をなでなでしてくれたであります……。 へへ、へへへへへ……。 こ、この時間をかけたナデナデ、たまらなく興奮するであります……)

 「あ、アレク……? アレク!?」


 アレクはあまりの嬉しさに鼻血を出し、満面の笑みを浮かべて倒れ込んだ。

 勿論、周りの通行人の注目を集める結果を生むのである。

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