第17話
「エドガー君を運んでもらってありがとうございます。 改めまして、エドガー君の妻のミーナ・ランダークです」
「これはご丁寧に……。 自分はアレクであります」(兄上、結婚していたでありますか……)
二階のベッドでエドガーが眠る中、アレクとミーナは一階のテーブルに向かい合って座り、話し出したのだが、アレクはそんな中、エドガーが倒れる前に放った言葉に引っかかっていた。
(……しかし兄上、奥様に見られて何が「終わった」のでありますかね?)
それはアレクの正体から自分が王族である事がバレてしまうから発した言葉だったが、事の次第を詳しく知らないアレクはその理由が分からずにいる。
(この子は一体何者でしょうか……? はっ、分かりました!)
そんなアレクとは逆に、ミーナはアレクの正体を推理し終わっていた。
だがそれは全く見当外れであるのだが……。
「おっと失礼、自己紹介が送れたであります。 自分は……」
「ふふ、言わずとも私には分かりますよ」
「えっ!?」
首を傾け、ニッコリ微笑んだミーナにアレクは小さく驚いた。
「つまり貴方は、エドガー君を執事として雇っていた家のおぼっちゃまですね!」
「えっ?」
だがそれは、一瞬であった。
ミーナの検討外れな推理を聞いた後のアレクの表情はやや困惑混じりのモノに代わり。
(あれ? 変な人でありますかな?)
っとアレクは思うのであった。
「分かりますよ、エドガー君素敵ですからね!」
「おお、兄上の素晴らしさが分かるでありますか!」
「勿論です、だってエドガー君の事、大好きですから!」
「自分もでありますよ、ミーナさん!」
だがそれも、一瞬であった。
そんなミーナの発言を聞いたアレクの表情は、満面の笑みへと代わり。
(おお、兄上は素晴らしい方を妻になさったのでありますな!)
とアレクは思うのであった。
さて、そんな共通する思いは、二人の仲を深めるには良い要素であり。
「仲間なのですね!」
「仲間であります!」
笑顔の二人はテーブルの中心で握手し、その共通の思いを深め。
「ふふ、せっかくですし、エドガー君トークを始めませんか?」
「了解であります!」
「あっ、早速気になる事が! 兄上との結婚生活についての話を聞きたいであります! 出来れば最近の!」
「ふふっ、ならお話しましょう! 私とエドガー君の素敵なお話を! お話を……」
さて、アレクのその様な言葉に対し、テンションが最高潮に達していたミーナは、突如トーンダウンしてしまった。
それはテンション任せにアレクのお願いを聞いたものの。
(最近のエドガー君との話を思い出していたら、私の失敗談が真っ先に浮かんできたのですが……)
ミーナの脳裏に真っ先に浮かんだのは、ここ最近の失敗談であった。
一番最近であれば、リアナがやって来た時に起こした勘違い。
それより前に戻るなら、仕事で疲れすぎて熟睡していたエドガーが起きないから「エドガー君が死んだ!」とご近所を巻き込んだ騒動を起こしたり……。
勿論、ミーナは両手で両頬をパンパン叩き、他のエピソードを思い出そうとするのだが。
(え、えーっと……、買い物に一緒に行ったのはいつもの事だし、その後一緒に食事したのもいつもの事だし……)
これだ!っと思えるエピソードが出てこない為、ミーナは困った表情を浮かべて沈黙してしまう。
「ははっ、もしや素敵な話が多すぎて浮かばないでありますか?」
そんな時、笑顔のアレクから無意識に助け船が出され、ミーナはそれに対し目を泳がせながらも。
「そ、そーなんですよね〜、あはははは……」
右頬をポリポリかき、作り笑顔を浮かべてそう答える。
(……兄上は幸せな結婚生活を送っているみたいでありますな……)
作り笑顔にアレクは微笑み、体の中を心地よい電流が駆け抜け、そしてミーナにこう告げた。
「ふふ、幸せで良い家庭を築いている様でありますな……。 そんなお二人には近いうちにきっと、コウノトリが赤ちゃんを授けにやって来るでありますよ」
「えっ!? 赤ちゃんはコウノトリが運んでくる訳ではないんですよ!?」
「えっ!?」
その瞬間、ミーナは驚きの表情がアレクの微笑みを驚きへと変えた。
そしてアレクは右手で口を隠す様にして考え始めるのである。
(こ、コウノトリが赤ちゃんを運んで来ないでありますか!? なら一体誰が……)
しかし、考えても答えは出ない。
その為、アレクはすぐに尋ねるのだが。
「ミーナさん、一体どうやって赤ちゃんがやって来るでありますか!?」
「え、えーっと……」
そう尋ねられた瞬間、ミーナの顔色が一気に悪くなり目線が激しく泳ぎ始めた。
と言うのもミーナは結局、ネルブから《赤ちゃんがどうやって来るのか?》教えてもらってないのである。
だからミーナは。
(れ、冷静に考えたらネルブさんから教わってませんでしたね……。 い、一体どうしましょう……)
そう思い考え始めるのである。
しかし、他人から聞いた事をさもよく知っている様にツッコミを入れておきながら、その実、何も知らないミーナは答えを考えようと必死に脳を動かすが、答えなど出ない。
「…………」
そして遂には、毒を飲んだかの様な苦々しい顔を浮かべてじった。
さて、そんな様子のミーナをアレクは初めは。
(あはは、どうやら自分を驚かそうとする為の嘘であったみたいでありますな)
っと思い、落ち着いた表情を浮かべていた。
だが時間が経つにつれ、ミーナがあまりに顔色を悪くして考えこんでいた為。
(えっ、もしや相当深刻な理由があるのでありますか!? 実は知ってはいけない知識だったりして……)
そう思い始め、不安そうな表情を浮かべてしまい。
「「…………」」
((ど、どうすれば……))
遂には顔色を悪くした二人がテーブルに向かい合って座り、ただ見つめ合うだけの状況が完成してしまった。
…………。
「……はっ!?」
そんなタイミングでエドガーは目覚め、ベッドからガバッと体を起こし、頭を回転させ始める。
夜の闇が広がる窓の外、灯が照らす二階、静けさが包む家の中。
(そうか、遂に僕はミーナさんに全てがバレたのだろうな……。 だからきっとミーナさんは家を飛び出して、今は僕以外誰も……)
そんな空間の様子を感じ取ったエドガーの瞳から涙がスーッと垂れた。
「ううっ……」
自分の愛するものを失った悲しみ、隠し続けて来た自分の愚かさ。
それらがエドガーの涙を止まらなくし、心臓が締め付けられるかの様な感覚を味わわせる。
「……飲もう……」
傷ついたエドガーは酒に癒しを求め、フラフラと一階へと足を進めていく。
階段の床が小さく音を立て、エドガーの足取りはゆっくりと進んでいく。
そして彼が階段から降りきり、目線を自分の足元からテーブルへと向けた時。
(み、ミーナさん!? ……けど、ミーナさんが青ざめてる!? しかも何でアレクと見つめ合ってるんだ!?)
一瞬の喜びの後、エドガーはガタンと音を立て、階段の壁に素早く隠れた。
(一体何がどうなって……。 もしや丁度今、アレクから真実が告げられてショックを受けているのでは……。 ね、念の為に確認するか……)
そしてエドガーはそう思い、壁から顔を出し、チラリと様子見。
「「…………」」
「あ、どうも……」
だが再び覗いた時、エドガーを向く青ざめた二人の表情に見つめられ、そう呟いてしまうのであった。
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