第15話
「ふむふむ、なるほどね〜……。 はっ、私良いアイディアを思いついた! 非常に良いアイディアを思いついた!」
((まずい……))
結局クルシナの威圧感に屈し、話の内容を白状してしまった二人だが、クルシナの笑顔に嫌な予感を感じた結果、二人の足は自然と後退を始めていた。
それは当然、例の言葉を吐いたクルシナの呪いから逃れる為であったが。
「……どこに行くの?」
「……トイレだ……」
「……っであります……」
「……嘘はダメよ?」
「すまん……」
「……っであります……」
それに気づいたクルシナが右手にあった家の壁をドンっと音を立てて叩いた時、彼らの足は止まった。
それは彼女が放った一撃が、壁にヒビを入れたからに他ならない。
だから二人の顔からは今、冷や汗が流れている訳だ。
「さてと……」
そう呟いたクルシナはゆっくりアレクに迫り、そしてアレクの両肩に両手をポンと置くと、優しく微笑みながら囁いてきた。
「アレク君、君はエドガルド君の居場所を探してちょうだい、そして手紙を届けて欲しいの! 私は君がエドガー君を探す間に、子供達からのメッセージを集めるからさ!」
「えっ?」
それは、何かトラブルの種を告げられると構えていたアレクの想像から大きく外れた一言だった。
そしてクルシナが続けて囁いた内容は、アレクの思考に浸透していくのである。
「ほら、子供達の気持ちを手紙で届けたら、もしかしたらエドガルド君がこっそり顔を見せにきてくれるかもしれないし」
「た、確かに……」
「それにアレク君、大好きなエドガルド君に会う大義名分を得る事が出来るでしょ?」
「た、確かにそうでありますよね!」
「私としては、そうお願いしたいのだけど、どうかな?」
「やるであります! 自分に仕える兵士達と共に調べるであります!」
「ふふっ、では早速ゴーだよアレク君!」
「了解であります!」
そしてアレクは城へと戻り、エドガーの行方を探し始めたのであった。
そんなアレクを見送ったロレンスは、自身の経験を元に、こう考えるのであった。
(エドガルド……。 どうやら今回の呪いは、お前に向くかもしれないな……)
…………。
そして現在。
ここに来るまでの事を思い出していたアレクは、無意識に預かった手紙の束を、懐から取り出し眺めていた。
「エドガルドおにーちゃんへ……! っでありますか……」
そんな兄へ書かれた手紙の束を眺め、二ヶ月前の事を思い出していたからだろうか?
「……やはり、兄上に早く会って渡したいでありますな!」
アレクが手紙を早く渡そうと部屋を飛び出したのは……。
…………
その頃、そんな兄はと言うと……。
「エドガー、無理はするなよ?」
「問題ないさアルタイル、いつも通り働けるよ」
そんな事などすっかり忘れ、いつも通り労働に勤しんでいる。
勿論、前日の調子の悪さから心配する声が周りからあったが、エドガーがいざ働き出すと昨日の様なミスもない、いつものエドガーの姿に、そんな周りの不安は消え去った。
そして昼の山場を超え、客足が少なくなった昼下がりになり、エドガーとアルタイルは店の奥にある倉庫という名の休憩所で、一時ウェイターの仕事から解放されたのだが。
「エドガー、結局お前、何悩んでたんだ?」
昨日の悩みが何なのか気になっていたアルタイルは、酒樽の上で
それは、同僚に対する気遣いであったのだが。
「いやーその……、何が何だかよく分からないんだよね」
「何で本人が理解できてないんだよ……」
目の前の樽に行儀良く座り、頬をポリポリかくエドガーの言葉に、アルタイルは(コイツ大丈夫か?)と冷ややかな目線を送るのである。
「うん、その……。 気持ちは分かる、分かるつもりさ……」
そんな目線の理由は流石のエドガーも理解したのか、やや恥ずかしげに語り出す。
だがしかし。
「だけど、何が原因で悩んでいたのか思い出せないんだよ……」
「お前、ホント大丈夫か?」
「多分、大丈夫だと思うが……」
「何で本人が不安げなんだよ……」
それはアルタイルに余計な不安を感じさせるだけであった。
「う〜いお前ら〜、倉庫でいちゃついてんじゃね〜ぞ〜!」
そんな二人が話す空間の扉をバタンと強い音を立てて開いたと思えば、眼鏡をかけた肥満体型の天然パーマ、ショーモト店長が二人を茶化す様にそうダミ声を放つ。
そんなニヤニヤ笑顔の店長を目にしたアルタイルは早速、エドガーを指差し、真顔でこう告げた。
「店長、コイツ変だぞ」
「あ、アルタイル!? 失礼じゃないか!?」
それは、二人の信頼関係があるからこそ放たれた毒舌だろう。
ただ、エドガーと信頼関係があるのは店長であるショーモトも一緒な為。
「今更気づいたん? 遅すぎじゃね?」
「店長も酷いですよ。 ホント意地悪なんですから」
そんな悪ふざけに混じる訳で……。
「まぁそんな冗談は置いといて……。 詳しく話してみ!」
さて悪ふざけの時間は終わり、ショーモトは樽に足を開いて座ると、ニタニタした表情でそうエドガーに尋ねる。
「実は……」
エドガーはショーモトに話の経緯を丁寧に伝え始めた。
真剣に、手を動かしながら、全てを告げるかの様に……。
そして全てを聞き終わった時、ショーモトはアルタイルに衝撃を受けたかの様な表情を向けた。
「アルタイル、コイツ変じゃね……?」
「店長、今更気づいたの?」
「何で二人してからかうんですか!?」
どうやら悪ふざけの時間が戻ってきた様。
二人は不敵な笑みを浮かべながらエドガーをからかい、エドガーもその雰囲気が満更でもないのか、笑顔で二人に抗議した。
「さてと冗談はさておいて、忘れる様な事なら気にしなくても良いんじゃね? 俺も、たまーにクールビズしてしまうしさ〜」
「いやいや店長、それはただズボンのチャックが開いてるだけだろ。 つーかデブなんだから痩せれば?」
「よーし、アルタイル! デブの暴力を行使してやろうか!?」
「いや店長、もう暴力する気満々じゃ……いだだだだだだ!?」
そして、アルタイルを捕まえたショーモトは右腕を力一杯つねり出し、アルタイルは痛そうな顔を浮かべていた。
「ふっ!?」
そんな二人の姿に笑みを溢しながら、エドガーはこの様に思う。
(あぁ、初めて働いた店がこの店で良かったな……)
そんな思いは、エドガーに幸福を感じさせると共に、アレクとの約束を記憶の果てへと追いやるのであった。
…………。
「エドガー、あっちのテーブルを頼む! 俺はもう片方の席を担当するから」
「アルタイル、任せてくれ!」
休憩は終わり、彼らはまたウェイターへと戻った。
時間は夕方へ近づく頃、その為空腹前の客が続々と押し寄せ、一日で最も忙しい時間帯を迎える。
メニューを尋ね、皿を運び、皿を洗い……。
たったそれだけの作業であるが、休みなくハイペースでそれを行うとなると、精神的にも肉体的にも疲労が溜まる。
ただその反面、時間が経つのはあっという間に感じられ、エドガーがふと窓の外を見ると、建物に差し込む日差しは消え、逆に建物内のランプの光が外の闇へと伸びていた。
「夜か……」
そして、店を埋め尽くしていた客も落ち着き、今や数える程。
だからエドガーは今、余裕を持って行動出来ている。
「あっ、いらっしゃいま……」
「あ、兄上……」
っと言うのは過去形になってしまった、アレクが店を訪れた為に……。
そして、視線にアレクの姿が入った時、エドガーの表情はやらかしたと言わんばかりの表情を浮かべ。
(あ……思い出した……。 完全に思い出した……)
脳裏の奥へと追いやられていた記憶が今、蘇るのであった。
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