第32話 瞬殺
「くそっ!! ケルベロスにオルトロスだと……!?」
パルミーロとエフィージオの活躍によって、サイクロプスゾンビやブラックウルフなどの魔物を倒し、ようやくこの戦いを終息に導けると思っていた。
王城から手薄な場所へと兵を動かす指示を出していたのだが、パルミーロとエフィージオの所に突如ケルベロスとオルトロスが現れたことに、セヴェーロは歯噛みした。
これまでの魔物とは桁が違う。
まだ全てのサイクロプスゾンビやブラックウルフたちを倒しきれていないというのに、パルミーロたちの援護のために兵を向かわせるべきか難しい。
「敵はどれだけの手札を持っているんだ!?」
敵はサイクロプスゾンビ、ブラックウルフ、スケルトン、更にはケルベロスにオルトロスまで次々と出してきている。
もしかしたら、まだ他にも出してくるのかもしれない。
そうなったら、とてもではないがこの場にいるわけにはいかない。
「ひとまずはここまでだ」
「っっっ!?」
この元大和王国の王都から、兵を撤退させることを考えなければならないかもしれない。
そのことを考えていたセヴェーロは、突然聞こえた声に反応する。
王城から周囲を見渡して、戦闘がおこなわれている所に兵を動かしていたため、この部屋にはもう誰もいなくなっているはずだった。
人がいるとは思わずにいた所にいきなり声をかけられたから驚いたのだ。
「な、何者だっ!?」
突然背後に現れた者は黒いマントのような物を纏い、何かの骨を仮面のようにして被っているため、顔が目の動き以外分からない。
こんな格好をした人間を、セヴェーロは当然知らない。
そのため、咄嗟に腰に差している剣の柄に手をかけ、何者かを問いかけた。
「答える必要はない……が、答えてやろう。送故司という者だ」
「送故……」
セヴェーロの前に現れた司は、わざわざセヴェーロの問いに答える。
その名前を聞いて、セヴェーロは大和の人間だと理解する。
しかし、大和の人間で送故という苗字の家は知らないため、首を傾げるしかなかった。
「外の魔物を召喚した者だ」
「っ!? き、貴様が!?」
送故なんて家の者は知らないが、続いて司から発せられた言葉にセヴェーロは目を見開く。
今、多くの帝国兵が戦っている魔物たちを呼び出した張本人が、自分の目の前にいるというのだから仕方がない。
この者を始末すれば、最悪これ以上の魔物が出現することはない。
それを理解したセヴェーロは、手をかけていた柄を握り、剣を鞘から抜き出した。
「帝国将軍のセヴェーロだな?」
「そうだ!」
知っていて魔物を呼び寄せたのだから、確認するまでもない。
しかし、念のための確認という意味で司は問いかけ、セヴェーロは睨みつけながら返答した。
「この国のために死んでもらう」
元々帝国が勝手に侵略してきたのだ。
なので、どんな手を使って奪い返しても文句を言われる筋合いはない。
王都と王城は自分の手で取り返そうと、司は腰に差した刀を抜いて、セヴェーロへと向けた。
「……くっ!!」
刀を抜いてセヴェーロへと構え、司は殺気を放つ。
その殺気に当てられたセヴェーロは、顔を青くして汗をダラダラと流し始めた。
冷たい汗が全身に流れる。
刀を構えただけで、目の前にいる相手の強さがなんとなくだが理解できた。
とてもではないが、自分が勝てる相手ではない。
「……お、俺を殺したところで無駄だ。他の将軍たちが大量の兵を率いて率いてまたこの国に上陸してくる」
まともに立ったかった所で、恐らく勝てない。
そう判断したセヴェーロは、時間を稼いで兵が援護に来てくれることを期待した。
そのために、自分を殺したところで、この国の奪還はできないことを司に分からせようとした。
「フフッ!! それは良い情報が聞けた」
「……なんだと?」
時間稼ぎと、恐れさせて手を引かせるために言ったのだが、司は全く恐れる様子はない。
それどころか、どこか嬉しそうな雰囲気を出している。
「お前たち王国の者たちは、帝国相手に勝てると思っているのか?」
「余裕だな」
このようなことをして、皇帝が黙っていない。
ほぼ手中に収めたというのにこのような悪あがき、独占欲の強い皇帝は将軍だけでなくこれまで以上の兵を送り込んでくるはずだ。
数の暴力は、ここまでの戦いで王国の者たちは味わっているはずだ。
王国が勝てるわけがないと分からせるためにセヴェーロは伝えたのだが、司は間を開けることなく返答してきた。
「将軍と言っても、皇帝陛下と帝国に残ったグエルリーノは別格だ。あの方たちに比べれば、俺やエレウテリオ、それに今向かって来ている将軍を殺したとしても何の意味もない」
帝国は強い者が評価される。
司はヴァンパイアのファウストを使ってエレウテリオを殺したが、将軍にまで上り詰めた人間は本来かなりの実力者だ。
司にとっては差なんて感じないが、実力的にセヴェーロはエレウテリオよりも上だ。
今帝国からここに向かっている将軍たちも、かなりの実力を有している。
しかし、将軍の中で1人だけ帝国に残ったグエルリーノは、将軍の中でトップに立つ者だ。
更に、国のトップである皇帝はグエルリーノよりも強い。
帝国は数だけで強いわけではないのだ。
「皇帝にグエルリーノか。どんな風に殺すか楽しみだ……」
「っ!!」
セヴェーロとしては司を恐れさせるために言ったことなのだが、2人のことを言った途端、司の殺気は更に膨れ上がった。
その殺気に、セヴェーロはグエルリーノを前にした時のような感覚に陥り、声も出せなくなった。
ここまでの殺気を出せるということは、たしかにこの送故司という者は口だけではないようだ。
「さて、無駄話は終わりだ。……そう言えば、時間を稼いでも仲間なんか来ないぞ」
「……くっ!! おのれ!!」
どうやら自分の淡い期待を見抜かれていたようだ。
そのことを理解したセヴェーロは、悔しそうに司を睨みつけた。
「諦めが付いたらかかってこい」
「調子に乗るな!!」
話しを終わりにした司は、空いている左手でセヴェーロを挑発するように手招きをする。
殺気も抑え込まれ、完全に舐めた態度だ。
その挑発にまんまとハマったセヴェーロは、地を蹴り、司へと襲い掛かっていった。
「フッ!」
「がっ!!」
セヴェーロの剣が司へと迫るが、その剣が司に当たることはなく空を切る。
剣を振り下ろしたセヴェーロは、固まったように動かなくなる。
その体にはいつの間に首から上がなくなっていた。
「まるで紙だな……」
髪を掴むようにしてセヴェーロの頭を手にした司が呟く。
襲い掛かってきたセヴェーロの剣を躱し、刀を一閃したのだ。
あまりにも手応えのなさに、司は若干つまらない思いだ。
しかし、目的のセヴェーロの首を手に入れたことで良しとした。
「残りの掃除を始めるか……」
セヴェーロを殺したあとは、王都にいる帝国兵たちの始末だ。
城下に見える景色を眺めながら、司は用意していた最後の魔法陣を発動させたのだった。
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