第31話 ケルベロスとオルトロス
「フゥ~……、これでこの辺の魔物は始末できたようだな」
「さすがパルミーロ様!」
サイクロプスゾンビとスケルトンを倒し、セヴェーロの副将軍であるパルミーロは一息吐く。
両方の魔物とも、動きが鈍かった。
危険なのは、スケルトンに掴まれてサイクロプスゾンビの一撃を受けることだ。
それを理解したパルミーロは、距離を取って先に動きの速いブラックウルフたちを始末することにした。
ブラックウルフを倒せればあとは楽。
サイクロプスゾンビの攻撃とスケルトンに捕まらないように立ち回り、順次倒していくだけだった。
冷静になれば気付くようなことだが、続々と魔物が現れ、仲間がアンデッドの魔物へと変えられたことで兵たちは正常な思考ができなかったようだ。
それが、パルミーロが現れたことで冷静になることができたのか、軽傷者が数人出るだけで倒すことができた。
存在だけで流れを変えたことが誰の目にも明らかだったため、兵たちはパルミーロのことを褒め称えた。
「じゃあ、次の……」
“ドンッ!!”
サイクロプスゾンビにスケルトン、ブラックウルフはまだ他の場所にも存在している。
他の兵たちを助けるために、パルミーロは兵と共にこの場から移動をしようと考えた。
しかし、それが言い終わる前に爆音が響き渡った。
「「「「「っっっ!?」」」」」
その音がした方向に目を向けると、そこには尾が蛇の頭をした3つの頭を持つ巨大な怪物が姿を現していた。
その姿に、兵だけでなくパルミーロまでもが声を出さずに驚いた。
「…………ケル…ベロスだと?」
その怪物の姿には見覚えがある。
1体で村1つ簡単に落とせるといわれているケルベロスだ。
危険生物の出現に、誰もが信じられずに固まった。
「ガーーーッ!!」
“ドンッ!!”
「「「「「っっっ!?」」」」」
固まっている兵たちを余所に、ケルベロスは右前足を上げて薙ぎ払う。
たったそれだけのことで、王都の建物が吹き飛ばされる。
その吹き飛んだ建物の瓦礫を浴びて、大量の帝国兵たちが悲鳴を上げる間もなく怪我を負った。
「「「グルルル……」」」
「なっ!?」
瓦礫に潰れた兵たちを見て、ケルベロスの3つの頭が笑みを浮かべた。
そして、ケルべロスは殺した兵たちを食べ始めた。
肉と皮を剥がされてスケルトンにされる姿もおぞましいが、先程まで生きていた仲間がバリバリと音を立てて食べられる様には、パルミーロですら顔を青くするしかなかった。
「パルミーロ様!! ケルベロスの攻撃により被害甚大です!!」
「クッ!!」
ケルベロスの攻撃により起きた被害を、いち早く正常な精神に戻った兵がパルミーロに報告してきた。
前足をたった一振りしただけで多くの兵が死傷した。
兵の報告を受けたパルミーロは、仲間をやられた怒りで拳を握りしめる。
「さっきのような攻撃が来るかもしれない。ひとまず距離を取れ!!」
「「「「「ハッ!!」」」」」
周囲の建物を破壊し、その瓦礫を利用しての範囲攻撃。
同じ攻撃を受けて、これ以上死傷者を出すわけにはいかない。
そう考えたパルミーロは、一旦ケルベロスから距離を取ることを指示し、それに従った兵たちはケルベロスから距離を取った。
「よしっ! 離れた位置から攻撃を……」
「ガーーーッ!!」
“ズドンッ!!”
「「「「「っっっ!?」」」」」
指示通り兵たちが距離を取ったのを確認したパルミーロは、魔法や遠距離攻撃でダメージを与えていくことを命令しようとした。
しかし、それを言いきる前に、ケルベロスが行動を起こした。
ケルベロスの頭の1つが、口に魔力を集めて魔法を放って来たのだ。
集められた魔力が、1つの巨大な球体となって距離を取った兵たちへと迫る。
地面へと着弾した巨大魔力球により、大爆発が巻き起こり土煙が舞い上がった。
「……、なんてことだ……」
土煙が巻き起こり、それが治まった状態を見たパルミーロが驚きの言葉を呟く。
「100人近くが一撃で……」
兵たちがいた場所には巨大なクレーターができており、建物だけでなくその場にいた兵たちの姿がどこにもなくなっていた。
先程の魔力球の爆発で、跡形もなく吹き飛んでしまったようだ。
「なんて攻撃だ……」
たった一撃で大量の仲間が死んでしまった。
あまりの出来事に、兵たちは恐ろしさからか体を震わせていた。
「お、怖気づくな!! ダメージを与え続ければケルベロスも倒せる!!」
「りょ、了解しました!!」
何もしなければ、先程の巨大魔力球によりさらに多くの被害が生まれるだけだ。
いくらケルベロスでも、数で攻め立てれば倒せない敵ではない。
そのため、パルミーロは兵たちを鼓舞した。
パルミーロの言葉で気持ちを立て直したのか、ケルベロスから離れた位置から魔法や弓による攻撃を開始した。
『ケルベロスを相手にするなんてさすがにきつい。エフィージオの援軍を期待するか……』
あちこちから飛んでくる魔法に、ケルベロスも傷を負い始めた。
しかし、小さい傷ばかりで、なかなか戦闘不能にまで追い込める様子はない。
このまま攻め続ければ倒せるかもしれないが、どれほどの時間と被害が及ぶか分からない。
自分が動けば深手を負わせられるかもしれないが、あまりにも危険すぎる。
別の場所で魔物を倒しているであろう、同じ副将軍のエフィージオが来ればなんとかなるかもしれない。
『しかし、エフィージオがいつ来てくれるか分からない。危険を承知で突っ込むか?』
セヴェーロが占領した大和王国の王都。
そこに現れた魔物は数多い。
それらを倒すために、自分とエフィージオが二手に分かれた。
エフィージオがケルベロスに気付いてくれない限り、こちらに来てくれる可能性は低い。
そのため、エフィージオが来てくれることを期待するのはやめ、危険でも自分が動くしかないのかもしれない。
どうするべきか悩みつつ、パルミーロは兵たちを動かしケルベロスへと攻撃を続けるしかなかった。
「なんてこった……」
パルミーロの反対側を請け負ったエフィージオ。
実は彼も窮地に陥っていた。
パルミーロと同様に、サイクロプスゾンビとスケルトン、それにブラックウルフを始末したエフィージオの方にも巨大な魔物が出現していたのだ。
「オルトロス……」
2つの犬の頭に尻尾が蛇。
オルトロスと呼ばれる双頭の犬だ。
『パルミーロの奴が来てくれるか?』
パルミーロと同様にオルトロスとの戦闘を開始したエフィージオだが、同じく援軍を期待していた。
戦う相手に僅かな違いはあるものの、パルミーロもエフィージオも、互いが援軍に来てくれることを期待しつつ戦うことしかできなかった。
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