第30話 パルミーロとエフィージオ
「ワオォーー!!」
「……遠吠え?」
サイクロプスゾンビにスケルトン。
それに巨大アントゾンビの集団が、王都に集まった帝国兵たちを苦しめていた。
そんななか、将軍であるセヴェーロの耳に何かの遠吠えが聞こえてきた。
「ガアッ!!」
「ブラックウルフ!?」
遠吠えが止んで現れたのは、黒い狼の集団だった。
ブラックウルフと呼ばれる魔物で、単体の強さだけで言うのなら大したことはない。
しかし、群れで行動する傾向にあり、集団で獲物に襲い掛かってくる攻撃が面倒で知られている魔物だ。
そのブラックウルフたちが突如として現れ、側にいた兵に向かって襲い掛かっていった。
「何でっ!?」
どこから現れたのかも分からないうえに、今度はアンデッドではなく普通の魔物が出現した。
それが何を意味するのか分からず、兵たちは次々と怪我人を増やしていった。
「くそっ!? 次から次へと魔物が増えて、被害が広がるばかりだ」
王城から王都内を眺めるセヴェーロは、この現状にイラ立ちを募らせていた。
まさか、この王都へ襲撃してくるなんてことは想定していなかった。
そのため、対応が後手後手に回り、被害が広がっていくばかりだ。
「グルル……!!」
「チッ! ここにも……」
王城から状況を打開しようと部下たちに指示を出していたセヴェーロだったが、王都各地でおこなわれている戦いはなかなか収まらないでいた。
そんな王城にもブラックウルフが入り込んで来た。
自分まで戦わなければならない状況に、セヴェーロは思わず舌打をして腰に差していた剣を抜いた。
「っ!?」
「ハッ!!」「フンッ!!」
「ギャウ!!」「キャン!!」
セヴェーロが戦おうとしたところで、2人の人間が先にブラックウルフへと攻撃を繰り出した。
1人は槍による刺突、もう1人は剣でブラックウルフを仕留めた。
「「セヴェーロ様!」」
「パルミーロ!! エフィージオ!!」
周辺にいたブラックウルフを仕留めた2人は、片膝をついてセヴェーロへと頭を下げた。
その2人を見たセヴェーロは、笑顔で名前を呼んだ。
パルミーロとエフィージオ。
この2人は、セヴェーロの右腕と左腕というべき副将軍たちだ。
明日の進軍に備えて休暇を与えていた2人だったが、魔物の出現によりこの場へと駆けつけてくれたようだ。
「セヴェーロ様はこの城を中心として指示をお出しください!」
「我々が城周辺の魔物の討伐をおこないます!」
パルミーロとエフィージオが、この状況を分析したうえでこの場に来た理由は、セヴェーロの援護のためだ。
セヴェーロは、エレウテリオの所の副将軍だったビアージョたちよりも、この2人の副将軍の方が優秀だと思っている。
その考えは、正しいと確信するような発言だった。
思い通りに行っていない現状で、自分の考えることを理解して動いてくれる存在が欲しかった。
そして、それを体現するのがこの2人だ。
「2人とも任せたぞ!!」
「「ハッ!!」」
この2人がいれば、ここから状況を改善することができる。
そう考えたセヴェーロは、2人が提案したように、ここから指示を出して2人に行動してもらうことにした。
セヴェーロに許可を得た2人は、立ち上がると共にすぐさま城の外へと向かって走り出したのだった。
「どけ! お前ら!!」
「っ!? パルミーロ様!!」
ブラックウルフと戦っていた兵たちのところに、突如声がかけられる。
誰の声かと思って声の下方向に目を向けると、パルミーロが魔物へ向かって一気に突っ込んで行った。
「キャウン!!」
パルミーロの槍による突きが刺さり、ブラックウルフは悲鳴を上げて倒れた。
そして、パルミーロが突き刺した槍を抜くと、大量の出血と共にブラックウルフは段々動かなくなっていった。
「さすがパルミーロ様!!」
自分たちが手こずっていたブラックウルフを、たった一突きで仕留めたその技術に、兵たちは感嘆の声を上げる。
「感心してないで、他を助けろ!!」
「エフィージオ様!!」
現在の状況では、ブラックウルフ1体倒しただけでパルミーロのことを褒めている場合ではない。
それよりも仲間の援護にすぐ向かえと、エフィージオは指示を出す。
その指示にすぐに反応した兵たちは、申し訳なさそうに視線を俯かせた。
「エフィージオ! 俺は北と東だ!」
「分かった! 俺は南と西だな!」
城周辺の魔物を連携して倒したパルミーロとエフィージオは、短いやり取りを交わす。
たったそれだけで理解し合い、自分の担当する方角を決めた。
「お前らは俺の援護に回れ!!」
「畏まりました!!」
共に魔物を倒して兵たちに向かいパルミーロが指示を出す。
そのまま彼らを引き連れて、先程エフィージオと確認し合った方角の魔物を倒しに向かうことにした。
「お前たちは俺の方だ!!」
「了解しました!!」
パルミーロが連れて行ったのとは反対側にいた兵たちに対し、エフィージオが声をかける。
そして、その兵たちと共に、パルミーロとは反対方向へと向かって動き出したのだった。
◆◆◆◆◆
「ブラックウルフか……」
「申し訳ありません。数を揃えるとなるとあの程度の魔物しか見つかりませんでした」
上空から戦場を眺める司は、ファウストが呼び寄せたブラックウルフを見て小さく呟く。
司からすると、ブラックウルフなんて遊びにもならないような魔物でしかない。
そんな魔物しか集められなかった自分のことを、失望させてしまったのだと感じ取ってしまった。
そのため、ファウストは主人である司へ、虫分けなさそうに頭を下げたのだ。
「いや、気にするな。目的のセヴェーロの配下の副将軍たちが出てきたんだ」
「寛大なお言葉ありがとうございます」
この王都にいる人間で特に始末すべき人間は、セヴェーロとその副将軍たちだ。
セヴェーロの位置はすぐに分かったが、パルミーロとエフィージオの2人がなかなか見つからなかった。
しかし、ファウストの呼び出したブラックウルフたちによって、姿を確認することができた。
目的が達成されれば特に文句を言うつもりはなかったため、司はファウストの謝罪をすぐに受け入れた。
「奴らには消えてもらわないとな」
烏合の衆を混乱させるには、大将首を取るのが手っ取り早い。
セヴェーロとその副将軍2人。
まだまだ大量にいる帝国兵を慌てさせるために、司はパルミーロとエフィージオを始末することを企んだ。
そして姿を確認できた司は、ブラックウルフたちを確実に減らしていっている副将軍2人に対し、またも配下の者を仕向けるよう、召喚の魔法陣を発動させたのだった。
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