第29話 続々召喚

“ベリベリッ!!”


「「「「「っっっ!?」」」」」


 突然魔法陣から現れたサイクロプスゾンビたち。

 そのサイクロプスゾンビによって殺された人間たちに異変が起きる。

 小さい魔力球が死体の中に吸収されると、おかしな音を立て始めたのだ。

 何が起きたのかと思っていると、死体の肉と皮が破けて、骨だけが起き上がってきた。


「スケルトン!?」


「何で死んだ人間がアンデッドに……」


 サイクロプスゾンビたちの相手をするだけでも面倒だというのに、死んだ人間たちがスケルトンとして動き出すなんて想像もしていなかった兵たちは慌てふためく。


「くっ! 離せ!!」


 起き上がったスケルトンは、どういう訳だか兵へと抱き着いてくる。

 抱き着かれた兵は何とか振り解こうとするが、なかなか離れない。


「っ!?」


 スケルトンに抱き着かれた兵が振り解こうとしている間に、サイクロプスゾンビが側に寄ってきた。

 しかも、完全に自分を標的としてとらえているような視線を向けている。


「ギャッ!!」


 スケルトンに捕まれているため、逃げることも抵抗することもできず、その兵はスケルトン共々棍棒による攻撃で吹き飛ばされた。

 兵は即死したが、スケルトンも行動不能の状態へと陥る。

 しかし、その死んだ兵に小さな魔力が飛んでくると、またスケルトンが生みだされた。


「同士討ちはワザとか!?」


「どういうことだ!?」


 サイクロプスゾンビが、仲間であるはずのスケルトンごと兵を殺した。

 そのやり取りを見ていた兵の一人が、どうしてそんな風なことをしたのか理解した。

 しかし、そのことを理解できていないため、他の兵は何を意味しているのか問いかけてた。


「スケルトンによって足止めさせた者をスケルトンごと殺し、その殺した人間を新たなスケルトンとして生み出す。それによって、スケルトンの数はプラスマイナスゼロになるってことだ」


「……何だよそれ」


 スケルトンが減ったとしても、代わりになるもの(死体)がすぐにできる。

 それを分かってサイクロプスゾンビが攻撃してくる。

 他の場所でも、スケルトンに抱き着かれて攻撃を受けている者がいる。

 恐らく、その考えは正解のようだ。

 そうなると、1つの考えが浮かんでくる。


「サイクロプスゾンビがそんなこと考えているなんて考えられない。もしかしてアンデッド使いがこの近くに来ているのか!?」


「あぁ! 恐らくこの町の中に……」


 青垣砦を攻めたエレウテリオ将軍とその副将軍たちが、アンデッドを使いこなす人間にやられたということは、兵たちも報告として聞いている。

 しかし、青垣砦から何者かが出てきたという斥候からの報告は入っていない。

 そのため、ここで奇襲を受けるなんて考えもしなかった。

 これほどの魔物の数を召喚し、生み出しているのだから、アンデッド使いがそれほど離れた距離にいるとは思えない。

 警戒が薄れていたところを狙って、この町の中に侵入していたのだと考えらえれる。

 まさかと思いつつも、兵たちは周囲に不審人物がいないか反射的に周囲を見渡した。


「見つけ出している時間などない。魔物を倒すことに集中するんだ」


「あ、あぁ……」


 アンデッド使いが誰かなんて、当然そう簡単に分かる訳もない。

 不審に思えば、自分以外の者たちまで不審に思えてくる始末だ。

 仲間の中から犯人を捜すようなことをしているよりも、まずはアンデッドの魔物を倒すことの方が先決だ。

 そのため、犯人探しは後回しにして、兵たちはスケルトンとサイクロプスゾンビを倒すことへと集中することにした。


「フッ! じゃあ、次だな……」


 スケルトンに注意しつつ戦うことで、死体が生まれなくなりつつあった。

 そうなると、兵たちはサイクロプスゾンビたちに群がり始める。

 生前と同様に、サイクロプスゾンビの1撃は強力だが鈍重のため、兵たちが囲んで戦えばなんてことない相手といえる。

 次第にサイクロプスゾンビたちも攻撃を受け始めた。

 それを見た司は、次の策に出ることにした。


「なっ!? また魔法陣が……」


 サイクロプスゾンビたちを相手にしていた兵たちは、突然地面が光りだしたことに驚く。

 その光が、サイクロプスゾンビたちを生み出したのと同じ召喚の魔法陣によるものだったからだ。


「きょ、巨大アント!?」


「この臭い……、こいつらもゾンビ化しているのか?」


 魔法陣から、ぞろぞろと魔物が飛び出してくる。

 巨大な蟻の魔物たちだ。

 この魔物たちも、サイクロプスゾンビたちと同様に腐敗臭を放っている。


「うわー!! た、助け……」


 召喚された蟻たちは、近くにいた兵を目指して集中する。

 蟻の群れにたかられた兵は、悲鳴を上げながら蟻たちの中に埋もれていった。

 すると、少しして蟻たちが次を標的に動くと、骨だけが残されていた。

 その骨にまたもどこからともなく飛んできた魔力の球が吸い込まれ、スケルトンとして動き出す。

 その光景に、他の兵たちは青い顔をして唖然とするしかできなかった。


「クッ! 数が……」


 サイクロプスゾンビたちは他の兵に任せ、数人の兵が巨大アントに攻めかかる。

 しかし、集団で襲い掛かってくる巨大アントたちに、兵たちは押されて行く。


「魔法師部隊!! 巨大アントを始末してくれ!!」


 武器で相手にしていたのでは、巨大アントの数を減らすことがなかなか進まない。

 これではまたも被害者を生み出し、スケルトンが増えてしまう。

 ならば、一斉に始末してもらおうと、魔法師部隊に助力を求める。


「無茶を言うな!! こっちはこっちで手いっぱいだ!!」


 巨大アントの相手を死体のも山々だが、サイクロプスゾンビたちの始末が済んでいない。

 いまこっちから離れれば、また兵たちに多くの被害が及びかねない。

 そのため、魔法師部隊の者たちは、焦った様子で返答をした。


「うわー!」


「くっ!!」


 兵たちは必死に対抗するが、ゾンビ故か巨大アントたちは1撃で仕留めないと、攻撃を受けてもお構いなしに向かってくる。

 仕留めることに失敗した者は、巨大アントたちの餌食となり、その後スケルトンと化す。

 死んでいく仲間を横目に、他の兵たちは自分もそうならないよう巨大アントへの攻撃を繰り返した。


「司様。私の眷属も呼び寄せて宜しいでしょうか?」


「あぁ、いいぞ。じっくり殲滅するのもいいが、奴らの数だとなかなか減らないからな」


「畏まりました」


 王都に集まった帝国兵を殲滅するため、司はまだ駒となるアンデッドたちを用意をしている。

 全部の策を披露して一気に殲滅するのもいいが、少しでも恐怖を与えるためにジワジワと追い詰めるように策を披露していっている。

 このまま司1人でもどうにかできるだろうが、部下であるファウストとしては何もせずに終わってしまいかねない。

 そのため、自分もこの日のために用意していた眷属たちを投入することの許可を司に求めた。

 自分一人だけでなくファウストにも楽しんでもらおうと、司はその提案を受け入れた。

 司の策の準備だけでなく、自分の眷属を呼び寄せる準備をしていたファウストは、召喚の魔法陣を起動させることにしたのだった。


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