第28話 王都襲撃
「おぉ! 本当にウジャウジャといるな……」
上空から王都を眺めると、大量の兵が王都内でひしめき合っていた。
エレウテリオとビアージョたちが全滅したこともあり、それ以上の大群で攻め入るつもりのようだ。
司が魔力次第でいくらでもスケルトンを作り出せるとは言っても、眼下に広がる数を相手にできるほどのスケルトンを用意するのには時間がない。
青垣砦にこれだけの数が攻め込んでいたら、司でもきつかっただろう。
「準備は?」
「整っております」
「そうか」
セヴェーロが王国内の兵をギリギリまで集めている間、司はファウストに指示を出して色々と準備を整えさせていた。
ここにいる兵が青垣砦へと向かう前に整ったようで、有能な部下を持ったと司は笑みを浮かべた。
「じゃあ、始めるぞ」
「はい」
これだけの数を相手にするとなると、さすがに緊張してくる。
しかし、それ以上に、この数を消し去ったら帝国はどう反応するのか楽しみでもある。
そんな感情が交じり合うなか、司は行動を開始することにした。
◆◆◆◆◆
「セヴェーロ様! 王国中から兵たちが集まりました。いつでも青垣砦へ攻め込むことが可能です」
「そうか。分かった」
セヴェーロは、青垣砦へ攻め込むために兵たちの召集に力を入れていた。
同じ将軍であるエレウテリオや、その部下の副将軍であるビアージョたちがアンデッドにやられたのを教訓にし、今集められるだけの全勢力を持って今度こそ砦攻略を果たすつもりだ。
何の警戒もしていない背後からアンデッドたちの奇襲が来ると分かっているため、それに対抗するため万全を期す。
そのために、兵の数だけでなく質も選んで集めたつもりだ。
「では、明日にでも青垣砦へ向けて出立すると全兵に伝えておけ」
「畏まりました」
集められた兵は、娼館で女遊びをするか、奴隷たちで剣の試し斬りをしたりして暇をつぶしているようだ。
エレウテリオのことは伝えられているため、自分たちもアンデッドと戦うことになる。
もしかしたら死ぬかもしれないという思いからなのか、大和人を使ってのストレスを発散するくらいしか思いつかないのかもしれない。
そのことに関して、セヴェーロは文句を言うつもりはない。
しかし、戦闘に支障をきたすようなことにならない程度にするよう、軽く忠告をするくらいで留めていた。
連絡を入れた帝国からは、2人の将軍が大和王国に入国している。
明日にでも王都へ着くよう移動しているということだ。
彼らの到着を受け、それに合わせてセヴェーロは軍を率いて青垣砦へと出発するつもりだ。
そのことを告げると、部下の男は了承してその場から去っていった。
“ゴゴゴゴ……!!”
「……何だ? 地震か……?」
大和王国は島国で、多くの火山が存在している。
そのため、活火山による地震が頻繁に起きる。
大陸出身の人間なら驚き戸惑うこともあるだろうが、セヴェーロは数年この国で過ごしているため、多少の地震くらいでは驚かなくなってきた。
軽い地震を感じたセヴェーロは、確認程度の気持ちで王都にいる兵たちの様子を見ることにした。
「……何だ?」
セヴェーロが王城の窓から王都を眺めると、そこには無数の光が浮き上がっていた。
王都の至る所から浮き上がる光。
その光から推測するに、なにかの魔法陣によるものだと思われる。
王都を手に入れてから、このような現象が起きたことなどこれまでなかった。
何が起きているのか分からないため、セヴェーロは戸惑いつつ事の成り行きを見守った。
「…………サ、サイクロプス?」
浮き上がった魔法陣から出てきたのは、一つ目巨人の魔物であるサイクロプスだった。
最低でも3m以上の巨体をしており、片手には棍棒を持ったサイクロプスが王都の至る所に出現したのだ。
“ズズンッ!!”
「サイクロプスだーー!!」「逃げろーー!!」
魔法陣から出現したサイクロプスは、周辺にいる人間へ向けて動き出す。
サイクロプスの姿を確認した者たちは、すぐに大きな声を上げて注意を促した。
強さで言えば、サイクロプス1体で数十人の兵が必要になるだろう。
明日に備えて気持ちの緩んで来た兵たちでは、すぐに対応することはできない。
「グアッ!!」「ギャア!!」
サイクロプスが持つ棍棒により、たった一振りで多くの人間が骸と化す。
王都には帝国の兵だけでなく、多くの大和国民が存在している。
帝国の兵たちに薬師や医者、料理人などが奴隷として生かされている。
そんな彼らもお構いなしに、サイクロプスは屠っていった。
「この臭い……腐ってる?」
「こいつらサイクロプスゾンビなのか?」
突然の出現で動揺していたせいか、ある者がサイクロプスたちは腐臭を漂わせていることに気付く。
僅かだがサイクロプスの肉体の一部が腐っているのが見て取れる。
それにより、このサイクロプスたちがゾンビであるということが理解できた。
「何で大量のサイクロプスゾンビが……」
建物を破壊し、王都にいる人間を片っ端から殺し回っているサイクロプスたち。
王城の窓から眺める景色に、セヴェーロは思考が追い付かない。
「いや、そんな事はどうでもいい! 総員武器を持って駆除に当たれ!!」
「「「「「は、はい!!」」」」」
サイクロプスが何故急に現れたのか分からないが、今はそんな事を言っている暇はない。
この状況を打破しようと、城内で使えている部下たちに指示を飛ばす。
その指示を受けた者たちは、仲間たちと共に王都で暴れるサイクロプス目指して動き出した。
「兵舎へ戻れ! 帝国兵なら魔物どもを討ち倒せ!!」
「「「「「お、おぉ!!」」」」」
城から出てきた兵たちにより、逃げ惑う兵たちに指示が飛ぶ。
明日に備えて私服だった兵たちは、その指示を受けて武器や防具を取りに兵舎へと戻っていった。
彼らが戻るまでの間時間を稼ぐため、城から出てきた兵はサイクロプスたちの足止めへと向かっていった。
「フッ! サイクロプスなんて、まだまだ序の口だぞ」
骨だけで動くワイバーンことスケルトンワイバーンの背に乗り、上空から王都の騒ぎを眺める司は、サイクロプスを相手に戦い始めた兵たちを見て呟く。
王都に集まった帝国兵を全滅させるためには、サイクロプスゾンビが数十体いる程度では不可能だと分かっていたため、当然他にも準備は整えている。
「次の策と行くか……」
サイクロプスゾンビを倒そうと、兵舎からぞろぞろと武器と防具を手に入れた者たちが飛び出してきている。
その兵たちをみた司は、次の策を発動させることにした。
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