第33話 勝利の後に

「ぐあっ!!」


「っ!! くそっ!!」


 ケルベロスの前足が振られ、直撃を受けた兵が猛烈な勢いで吹き飛んで行く。

 そのまま町の建物に直撃した兵は、大量の血をまき散らし動かなくなった。

 その一部始終を見ていた副将軍のパルミーロは、また兵が減ったことに歯噛みする。


『エフィージオの奴、どうしたんだ?』


 多くの兵と共にケルベロスを取り囲み、少しずつ攻撃を与えている。

 しかし、なかなか大きなダメージを与えられないため、ケルベロスは弱る様子を見せない。

 それに引きかえ、ケルベロスの1撃は確実に兵を減らしている。

 数が減れば攻撃を与えることもなかなかできず、更なる被害者が生まれるという悪循環に入っている。

 反対方向に出た魔物を倒しに向かった、同じ副将軍のエフィージオの援軍を期待しているのだが、全然来る気配がない。

 このままでは自分もケルベロスにやられてしまいかねないため、焦る気持ちを隠しつつ到着を待つしかなかった。


「パルミーロ様!」


「おぉ! エフィージオはいつ来る?」


 距離を取りつつ、ケルベロスへ魔法攻撃をしていたところで、1人の兵がパルミーロへと駆け寄ってくる。

 こちらにケルベロスが出ていると知らないエフィージオが、他の魔物を倒しに行ってしまいこちらへ来るのが遅れているのではないかと考えたため、パルミーロはエフィージオに来てもらうために兵を送ったのだ。

 その送った兵が戻ってきたため、パルミーロはエフィージオがどれほどでここに来るのかを尋ねた。


「それが……」


「……どうした?」


 問いかけられた兵が答えに言い淀む。

 その様子に嫌な予感をしつつも、パルミーロは問いかけた。


「エフィージオ様の所にはオルトロスが……」


「なっ!?」


 兵からの返答に、パルミーロは目を見開く。

 ケルベロスの出現で、パルミーロは自分たちの所が一番危険だと思っていた。

 ところが、まさかエフィージオの所にまで強力な魔物が出現しているとは思わなかった。


「……道理で援護に来られない訳だ」


 エフィージオが援軍に来ない訳を理解した。

 オルトロスなんて、ケルベロスと大差ない危険生物だ。

 もしかしたら、エフィージオも自分が援軍に来てくれることを期待しているのかもしれない。

 そんな状況で援軍に来れるわけがないため、パルミーロはエフィージオの援軍を諦めるしかなかった。


「仕方ない……」


 援軍が期待できないと分かったパルミーロは、何かを決意したようにケルベロスへを睨みつけた。

 そして、両手を前へと突き出し、精神を整え始めた。


「……パルミーロ様?」


「今から俺が全力の魔法をケルベロスへ食らわす。しかし、体内の魔力を集めきるまで時間がかかるから、それまでの時間を稼いでくれ」


「か、畏まりました!」


 何をする気なのか分からず、兵は思わずパルミーロへと問いかける。

 その問いに対し、パルミーロは答えを返す。

 ケルベロスのこのままチマチマとダメージを与えても、長引くばかりで被害がどれほどまで広がるか分かったものではない。

 なので、強力な1撃を食らわせて、弱った所を仕留めることにした。

 そうすれば、少しは兵に被害が及ばないで済むはずだ。

 そのためには、この魔法が完成するまでの間の時間を稼いでもらうしかない。

 その説明を受けた兵は、他の兵に伝え、ケルベロスの注意を自分たちに向けるようにして戦い始めた。


「よし! 全員ケルベロスから離れろ!!」


 少しの間兵たちがケルベロスと戦って時間を稼いでくれたことで、パルミーロの魔法が完成した。

 それと同時に、兵たちにケルベロスから離れるように指示を出す。


「ハーーー!!」


「グルッ!?」


 兵たちがケルベロスから距離を取ったのを見て、パルミーロは完成させた魔法を発射させる。

 突如人間たちが周囲からいなくなったことを不思議に思っていたケルベロスに、巨大な火球が迫る。


「ギャアァァーーー!!」


 火球に気付いた時はもう回避する間もなく、魔法が脇腹へと直撃して全身が燃え広がり、ケルベロスは悲鳴の声を上げて、火を消すために地面を転がり始めた。


「グ、グル…ル……」


 地面を転がることで全身に広がった火が消えると、ケルベロスは所々火傷を負った状況で立ち上がった。

 特に、火球が直撃した脇腹は、抉れるような怪我を負っている。

 相当なダメージを負ったらしく、唸り声も弱々しくなった。


「グッ! い、今…だ。一気に……攻めるんだ!」


 巨大火球を放ったパルミーロは、魔力切れ寸前で立っているのもギリギリといった状況だ。

 しかし、弱ったケルベロスへの始末が先だ。

 ふらつく足に喝を入れ、兵たちにケルベロスの討伐を指示したのだった。


「「「「「オオォォーー!!」」」」」


 パルミーロの指示を受けた兵たちは、大きな声を上げてケルベロスへと襲い掛かった。

 巨大火球を受けたことによるダメージにより、ケルベロスも動けなくなっているようだ。

 この機を逃すまいと、兵たちは我先にとケルベロスの傷口へ武器を差し込む


「ギュオォォーー!!」


 槍や剣が次々と刺さり、ケルベロスは悲鳴を上げて、迫り来る兵たちを振り飛ばそうと体を動かす。

 しかし、火傷による痛みからか、体の動きが鈍いため、兵たちはたいした被害を受けない。


「ガ、ガアァーー……」


 剣や槍が刺さる度、段々と動きが鈍くなっていき、とうとうケルベロスは動かなくなった。

 そして、大怪我を負っている脇腹にも攻撃を受けるようになり、ケルベロスは悲鳴と共にその場へと崩れ落ちて行った。


“ドスーーンッ!!”


「やった!!」「我々の勝利だ!!」「ケルベロスを退治したぞ!!」


 ケルベロスの巨体が倒れて動かなくなったのを確認すると、兵たちは歓声を上げ始めた。

 多くの兵の命を失うことになったが、これだけの魔物を退治したのだから仕方がない。


「フゥ~……、良かった……」


 兵たちの歓声を聞いて、パルミーロは安堵したようにその場へとしゃがみ込んだ。

 もういつ意識を失っても仕方がない状況だ。

 しかし、まだエフィージオの方のオルトロスが残っているかもしれない。

 そのため、一息ついたらそちらへ援軍に向かうつもりでいた。


“ドスッ!!”


「っ!! ……何だ…と……?」


 しゃがみ込んだパルミーロは、突如背中から衝撃を受ける。

 何が起きたのかと思っていると、腹から刃が突き出ていた。

 背中から刺され、腹まで貫かれたのだ。

 何者に攻撃されたのかと背後を見てみると、帝国の鎧を着た骸骨兵が何体も立っていた。

 その姿を見たすぐ後、パルミーロはその骸骨兵たちの槍によって全身を貫かれて絶命した。


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