アイドルに首ったけ

高山小石

アイドルに首ったけ

 教室で、友達のケイコを見つけた私はかけよった。


「昨日の新作動画見た~? キッズ、もー最高!」


 ケイコはあきれ顔になった。


「アイラ、あんた、この前まで『キッズなんてお子様じゃん。やっぱ大人の魅力でしょ』とか言ってなかった?」


 それは間違ってない。確かに言った。でも、


「結婚とか考えると、あんまり歳が離れてないほうがよくない?」

「考えないって、普通」

「あはは。冗談だって。今ごろキッズの魅力に気づいちゃっただけ」

「ま、キッズ好きになってくれて嬉しいけど。それより今日は、男子の転入生がいるんでしょ? 楽しみじゃない?」

「一般人はどうでもいいよ」

「見たら気が変わるかもよ?」

「それはそうと英語の予習してきた? 答え合わせしとく?」

「するする!」


 話題を変えたのは、実は私、本気でアイドルと結婚することを考えているから。


 だって結婚すれば、キレイな顔で見つめられて、イケボで「アイラ、好きだよ」とか毎日ささやいてもらえるんじゃん。きゃあぁ。もう、想像するだけでうっとりしちゃう。


 でもそんなことはケイコにも内緒。ファンはみんなライバルだ。ライバルは少ないほうがいいもんね。


「はい。席に着いて。まず転入生を紹介します」


 先生は、地味な男の子を連れてきた。

 前の席のケイコに、私は囁いた。


「どうよ?」

「ハズれ」


 ほら、やっぱりこんな普通の学校には素敵な男の子はいないんだって。


「……シンドウカズヤです。……よろしくお願いします」


 あ、でも声はなかなかいいかも。


 隣の席になったので教科書を見せてあげた。

 進藤君は顔も向けてくれなかったけど、ぼそぼそとお礼は言ってくれた。


   ※


 下校途中、ケイコと二人きりになると、さっそくケイコが眉をひそめて囁いた。


「あのコ、暗くない?」

「うん。男子にもウケが悪かったみたい」

「アイラ、ずーっと面倒みなくちゃいけないかもよ?」

「えぇー」


 私は嫌そうな声を出したけれど、実は内心、楽しんでいた。

 いい声だと思ったのは間違いじゃなかったし、後ろの席に座れるということは背も高いってことだ。残る問題は一つ。


「やっぱ顔だよね」

「またアイドルの話? ほんとアイラ好きだね」


 呆れ顔のケイコに、もちろんとうなずいた。


   ※


 翌日、ケイコはカゼで休みだったので、私は存分に進藤君を観察することができた。でも、顔がまだわからないんだよね。いつもうつむき加減だから目や口がはっきり見えないし、適当に伸びた髪が邪魔をしているから、顔の形すらわからない。


「そうだ!」


 すでに男子から仲間外れっぽくなっちゃってる進藤君を、一緒に帰ろうと誘うと、あっさりOKされた。


「今日は大声出したいんだ。カラオケ行かない?」


 歌いたかったのは本当だし、歌う時くらい素の自分を出してくれるかも、と思ったからだ。


   ※


 最初は遠慮していたのか、なかなか顔も上げてくれなかったけれど、私がノリノリでアイドルソングやアニソンを歌っていたら、ようやく進藤君も予約曲を入れて、歌ってくれた。


 その瞬間、これはいける! と確信した。


 私だって無駄にアイドルの追っかけばかりしてるわけじゃない。見る目にはけっこう自信がある。

 進藤君は歌う時にガラッと雰囲気が変わるのだ。

 マイクを持つと人格が変わるというか、色気が出るっていうの?

 オーラが違う。


   ※


 それからは、まるで嘘のように話が進んだ。


 雑誌の「カッコイイ同級生」で「街で見かけたイケメン君」で、「私の学校の素敵な先輩」で取り上げられた。


 もちろん、最初のもさもさした髪型は変えたし、姿勢も矯正し、私服にも気を配っている。その変身につきあったのが、なにをかくそう、この私なのだ。


 そしてなんと、ついに進藤君のアイドルデビューが決まった!

 声が良くて歌がうまく、真面目なのにどこか抜けていて、マイペースなところが良かったらしい。今のところ、人気はうなぎ上りだ。


   ※


「で?」

「で?」


 進藤君のいなくなった教室で、私は興味津々そうなケイコに聞き返した。


「だからぁ。約束くらいしたんでしょ? 『卒業するころ迎えに来るよ』とかさ」

「なんで?」

「なんでって……。進藤君がデビューできたのはアイラのおかげだし。アイラはアイドルと結婚したかったんでしょ」


 あらー。バレてたのね。


「進藤君からは最近さっぱり連絡ないよ。アイドルってやっぱ忙しいんじゃない?」

「え~? あれだけお世話したのに?」

「ケイコは大げさだよ。私はちょっとアドバイスしただけ。今の人気は進藤君の力」

「そうかなぁ」

「そうだよ。それに私、最近アイドルどうでもよくなっちゃった」

「え、追っかけアイラが? 熱でもあるの?」

「失礼な! 大人になったって言ってよ」


 だってアイドルだったら、甘いセリフも色んな人に言わなくちゃいけないでしょ?

 私は私だけに、笑って言って欲しいんだもん。



END






進藤君がアイラに執着していた場合

→今さら俺を捨てるなんてゆるさない! 忘れられなくしてやるよ。

(執着溺愛END)


進藤君がアイドル活動に真摯に取り組んでいた場合

→俺のアイカツは始まったばかり。やるからにはトップを目指す!

(アイドルの花道END)


アイラがそんなつもりなくどんどん新人を発掘していた場合

→アイラに喜んでもらおうと頑張っていた男子全員が、ある日アイラの元をおとずれる。

(逆ハーレムEND)



→執着溺愛END、少女漫画やラノベですでにいっぱいある気がする。

→アイドルの花道END、他のアイドルとの戦いが熱い青春ものかもしれない。アイドル育成ゲーム系? これもいっぱいある気がする。

→逆ハーEND、伝説のスカウトマンアイラとしてのぼりつめるかもしれない。アイドル育成ラブコメ系? これもあるなぁ。


自分が読むならきっと執着溺愛ENDだけど(テンプレとわかっていてもきゅんきゅんして好きだから)、色々考えてたら妄想だけでお腹いっぱいになってしまいました。






20030830に書いたものを加筆修正したものです。

小説家になろう様の「短い小説まとめてみました」に修正前の「アイドル」があります。

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アイドルに首ったけ 高山小石 @takayama_koishi

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