第23話 おつかい完了!


「ただいま~っ。」


「おぉ、帰ったかルアや。ありがとのぉ~…………む?」


 おつかいを頼まれた本を抱えて、いざ家へと帰るといつものように由良がルアの事を出迎えてくれた。

 のだが、流石今までずっとルアと過ごしてきた由良は、すぐに彼の体の異変を感じ取った。


「ルアや、本屋の店主に何か異常はなかったか?」


「あ、う、うん……発情期って言ってた。」


「はぁ……やはりか。お主の体から淫魔特有のの甘ったるい匂いがぷんぷんしておったので、もしやとは思ったが……。」


「そ、そんなに匂うかな……。」


 くんくん……と自分の衣服の匂いを嗅いでみると、確かにあのとき鼻腔を刺激した甘ったるい匂いがこびりついている。


「まぁ、発情期だった淫魔がリリルで良かったのじゃ。あやつは、淫魔の中でも理性を保てるやつじゃからな。」


「もし……リリルさんじゃない淫魔に会ってたら……。」


「まぁ、今のあやつらはオスメス構わずに自身の性欲を抑えようとするからな。100%間違いなく美味しく食べられておったな。」


 由良の言葉を聞いて、改めて淫魔という種族の恐ろしさを刻み込んだルア。


 それと同時に、彼の中にある疑問が浮かんできた。


「でもさ、ボク今の今まで淫魔にあったことなかったけど……リリルさん以外にこの町に淫魔っているの?」


 そう、今の今までルアは淫魔と出会ったことがなかったのだ。


「おるぞ?昼間は姿を現さんだけじゃ。夜の町にはそこかしこに淫魔が出歩いておるぞ?」


「ふぇ~……。もしかして、夜外にでないようにって何回も言ってたのはそれのせいなの?」


「そういうことじゃ。」


 そもそも淫魔というのは、もともとはオスから精気を搾り取って、自分の腹を満たす種族だ。

 だが、オスという存在が消えてしまったこの世界では同性から少しずつ溜まった性欲を分けてもらってなんとか生きている。

 つまり、今の淫魔達のお客さんは発情期を迎えたこの町の女性達なのだ。


「っと、さてルアや頼んだ本を渡してくれるかの?」


「あ、うんっ。」


 ルアは由良におつかいを頼まれていた本を手渡した。


「そういえば、その本って……何の本なの?」


「天使についての文献じゃ。敵を知っておくに越したことはないからのぉ~。」


「天使……って前に来たときは男の人をみんな連れてっちゃったんだよね?みんな戦ったりとか……しなかったの?」


「もちろん戦ったぞ?ただ……わしらの魔法や攻撃はあやつらには一切効かなかったのじゃ。」


 ペラペラと本のページを捲りながら由良は言った。


「無敵ってこと?」


「うむ。じゃが、やつらにも命という概念は存在する。命がある以上、それを奪う手段はあるはずなのじゃ。」


 そして、驚きの速度で本を読み終えると由良は本棚の一角にその本を丁寧にしまった。


「もう全部読んだの!?」


「うむ、ちなみにこれも魔法じゃぞ?クロロが使っておる強化系の魔法の応用じゃ。魔力を目に集めて動体視力を強化しておる。」


「ふぇ~……すご。そ、それで天使について何かわかったの?」


 ルアがそう問いかけると、由良はゆっくりと大きく首を横に振った。


「いいや、書いてあったのは今まであやつらについてわかっておることばかり……。目新しいものは何も書いてはおらん。」


 ひどく残念そうに由良は言った。


「最新の文献じゃから……と少しは期待したのじゃが、残念じゃの。」


「そ、そっか……。」


 気分を変えるため、由良はテーブルの上に置かれていたお茶菓子を口にした。

 すると、いつもとは違う味のお菓子にふと首をかしげた。


「お?これは……いつも買っておる茶菓子とは違うものじゃな?」


「あ、それボクが作ったんだよ。どう?美味しいでしょ?」


 あっけらかんとした表情でルアは言った。


「な、なんと!?」


「ほら、昨日鬼の人が沢山野菜持ってきてくれたでしょ?その中に沢山小豆が入ってたから……お母さん餡子あんこ好きだし~と思って作ったんだ。」


「ふ、ふむ……こ、これはなんともなんとも。」


 ルアの言葉に驚きながらも、由良はもう一つ茶菓子を口にした。

 すると、餡子のねっとりとした甘さが口いっぱいに広がり、いつも飲んでいる苦味の強いお茶と良く合う。


「前にわしが倒れたときに作った料理といい、この茶菓子といい、ルアやお主いったい……どこでこんなものを覚えてくるのじゃ?」


「えへへ~、それは内緒~。」


 まさか自分が別世界から来た人間だと、話すわけにもいかず悪戯な笑みを浮かべながら、ルアは唇に人差し指を当てた。


「むぅ、気になるのぉ~。……あむっ……ん~美味じゃ。」


 一時いっときルアの事を不思議に思った由良だったが、再び美味しい茶菓子を口にしたときには、その事を忘れその味に舌鼓を打っていたのだった。

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