第19話 匂い
一行が町へと帰っている道中……。
「おっと、町に入る前にルアに魔法をかけておかねばならんのぉ~。」
「匂いに敏感な娘もいますからね~。」
そう、ルア達が暮らすあの町には様々な種類の女性がすんでいる。それこそ、由良やクロロ達のような獣人や、魔物が姿形を変えて女性の姿を象っているような魔物娘と呼ばれる女性まで、多種多様だ。
そのなかには、もちろん嗅覚が優れている女性も少なくはない。例えば、犬の獣人やオスの匂いに敏感な淫魔達があげられる。
「うむ、ルアがオスじゃとバレるわけにはいかんからの。……ほいほいっと!!」
由良がルアに向かってくるくると指を回すと、その指先から魔力の波動が放たれた。それがルアの体に当たると弾け飛び、彼の体の周りを少し甘い香りが包んだ。
「スンスン……?なんだか甘い匂い?(でもなんか町で何回か嗅いだことがあるような……。)」
ルアが自分の周りに漂う甘い香りに首をかしげていると、クロロが言った。
「うわ、由良さん……よりにもよって、その匂いにするんですか?」
「うむ、コレが一番匂いを上書きできるじゃろうからな。」
「町の娘達が嗅いだらビックリしちゃうと思いますよぉ~?」
そう三人が口々に言っているが、肝心のルアはこの甘ったるい匂いがなんなのかさっぱりわかっていない。
「それで……これって何の匂いなの?」
ルアが由良に問いかける。
すると……思いもよらない答えが帰って来た。
「メスの発情期の匂いじゃ。甘ったるい匂いじゃろ?」
「メスの発情期の匂い……って!?女の人の……その……。」
ルアはまごまごとして、最後の部分の言葉がつまったが、その意図を察した由良は、大きくうなずいた。
「うむ、お主が思っておる通りじゃ。メスがオスを誘惑するために出す甘い甘~い匂いじゃ。」
さらに続けて由良は言う。
「淫魔の奴等が出す匂いは、オスならば近付くだけで即理性が吹き飛んだ獣になってしまう強力なものじゃが……今回は獣人の優しいヤツにしといたのじゃ。」
「淫魔の匂いってこっちまでムラムラしてくるんですよね~。」
さぞかし迷惑そうにクロロが言う。
「まぁ、それがあやつらの専売特許じゃからな。といってもここ数十年は町にそんな匂いは漂っておらんな。」
「そうですねぇ~、でもあの匂いを嗅いだルアちゃんがどうなっちゃうのか……ちょっと興味はありますねぇ~。」
にんまりと笑いながらエナは言った。そんな彼女の言葉につられたのか、由良もこう言い放った。
「わしらにも襲いかかってくるかのぉ~?(わしとしては大歓迎じゃがな。……いや待つのじゃ?親と子が×××をするのは理に反しておるか?いやいやいや、あくまでもわしはルアの育ての親に過ぎん。ならば仮にルアと×××をしても…………うむ!!全然問題ない!!)」
「襲いかかってくるなら、私はミノタウロスのオスに変身して襲ってきてほしいです~。(その方が虐め甲斐がありますし~……ねっ♪)」
「私はこのまんまのルアちゃんでいいかな~。(……いや、でも待ってよ?ケットシーに変身してもらってもいいかも?妖狐のルアちゃんでもいいなぁ~。由良さんを×××してるみたいでこれまた背徳感が……。)」
三人は各々の妄想を膨らませている。
そしてすっかりと置いてけぼりにされているルアは、大きくため息を吐き出しながら三人に言った。
「も~……早く行くよみんな。日が暮れちゃうよ。」
妄想に耽っている三人を置いて、ルアは一人先に町への道を歩き出す。
「むっ!?しまった……つい物思いに耽ってしまっておった。今行くのじゃ~。」
「待ってよルアちゃ~ん!!」
「置いてかないでください~。」
ルアの言葉で我に返った三人は慌ててルアの後を追った。
そして一行が町につくと……ルアの姿を見るためにたくさんの女性達が彼らのもとに集まり始めた。
「きゃ~っ!!ルアちゃ~…………ん?……くんくん……くんくん。」
しかし、ルアのもとに集まった女性達は、彼の周りを漂う匂いをしきりに嗅ぎ始めた。
「あ、あはは……ご、ごめんねルアちゃん。私たちこれで失礼するから~っ!!」
ルアに向かって軽く手を振って、彼を取り囲んでいた女性達は皆いなくなってしまった。
なにがなんだかわからずにルアが首をかしげていると……彼女達の姿をみて由良がくつくつと笑っていることに気がついた。
「ねぇ、何で皆逃げちゃったの?」
「くっくく……それはお主から発情期の匂いがするからじゃ。」
ルアが後に聞いた話によると、発情期に入ったらむやみやたらに近付かず、そっとしておく……という暗黙のルールがこの町にはそんざいしていたらしい。
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