第18話 妖狐ルア②

 

「あいたたた……も~頭痛~いっ!!」


 盛大に由良の石頭と、頭をぶつけてしまったクロロはその衝撃と痛みで目を覚ました。


 黒く尖った二対の猫耳の間にはぽっこりと大きなたんこぶができてしまっている。

 そして目を覚ました彼女と、妖狐の姿になったルアは目があった。


「ん?……んん!?もしかして……ルアちゃん!?」


「はいっ、ボクです。」


 ルアはクロロの質問にコクリと頷く。


「何で由良さんと同じ妖狐の姿に?(ヤバ……可愛すぎ。目に入れても絶対痛くないやつ。)」


「私がお願いしたんです~。ルアちゃんの妖狐の姿が見たくてぇ~。」


「ふぅ~ん?」


 クロロはピョンとエナの言葉に腕の中から飛び出すと、ルアの方に近づいていく。

 そして彼女がルアの目の前に立つと、ルアの緊張を示すように彼の頭についている耳や、腰についているもふもふの尻尾が忙しなく揺れ動き始める。


「な、何ですか?」


「いやぁ~……すんごい可愛いな~と思ってさ。こうやって近くで見たかったんだ~。」


 クロロがしゃがんで、ルアと至近距離で向かい合う形になると、彼の耳と尻尾がさらに激しく動き始める。


 そんな仕草を見せるルアに、クロロがあることを問いかけた。


「ねぇルアちゃん、耳……触ってもいい?」


「耳ですか?」


「うん、なんでかな……他の獣人の娘とか見てもこんな気持ちにならないんだけど~。ルアちゃんの耳とか尻尾は凄い触りたくなるんだよね~。」


「うぅ……クロロさん手の動きがなんか……ちょっと変です。」


 わきわきと両手を動かしながら迫ってくるクロロに、ルアは思わず一歩退いた。


 ルアが一歩下がると、クロロが一歩前に出る。その繰り返し……。


 そんな繰り返しをしていると、ついにルアの背中がドン……と木にぶつかった。


「ふふふ~ん♪もう逃げられないねぇ~ルアちゃ~ん?」


「あぅぅ……。」


 ルアが逃げ道を探して、辺りをキョロキョロとしている間にクロロがいつの間にか目の前にまで迫ってきていた。


 そしてクロロの手が耳に触れようとしたその時……。


「お主が気軽に触れてよいものでは……ないっ!!」


「あに゛ゃああっ!?」


 ルアの前に現れた救世主は由良だった。クロロの腰から伸びている尻尾を無造作に掴んでいる。


「躾のなっておらん猫はきっちり躾てやらねばの。ほれほれ。」


「にゃっ!?にゃっ……にゃっ……。」


 トントン……とリズム良く、由良がクロロの尻尾の付け根を手のひらで叩く。

 すると叩くリズムに合わせてクロロの腰がクイックイッと上がっていき、上半身がべた~っと地面についてしまう。


 まるで飼い猫をあやすように由良はクロロを手玉にとる。


「ふにゃあぁ~……。」


 由良が手を離すと、クロロは余韻に浸っているようで、表情を緩めながら気持ち良さそうにしている。

 そんな彼女を放っておいて、由良はルアの近くに歩み寄った。


「大丈夫だったかのルアや?」


「うん……ちょっと怖かったけど大丈夫。」


「うむうむ、もうわしが来たから大丈夫じゃあ~。」


 由良はルアのことを優しく抱きしめ、背中に回した手をさりげなく頭に乗せた。


 なでなで……なでなで……。


 一見端から見れば、子供をあやしている母親のようにも見えるが……詳細は少し違う。


 というのも、頭を撫でている……というよりも三角形の耳を感触を確かめるように揉んだり、撫でたりしているのだ。


(くふふふ……役得じゃあ~。この触り心地……いつまでも触りたくなるのぉ~。)


 悦に入った由良の視界に、ふと……目の前でまるで誘惑するかのようにゆらゆらと揺れる、もふもふの尻尾が目に入った。


(……!!この尻尾……わしを誘惑しておるのか!?)


「…………??」


 当の本人のルアにはそんなつもりは一切無いようだが……。


 由良の手は徐々にルアの尻尾へと、誘われるように……近づいていった。

 そして…………。


 もふっ……!


「ひぅっ!?お、お母さ……どこ触って…………あぅぅ。」


 由良の手がルアの尻尾に沈みこんだ瞬間、ルアの体から一気に力が抜け脱力状態になってしまう。


(こ、これはっ!!なんなのじゃ、この魔性の触り心地はッ!!耳もふわふわで心地のよい触り心地じゃったが……尻尾こっちは比べ物にならん!!)


 へなへなと腰が抜けそうになっているルアを強く抱きしめながら、尻尾の感触に溺れる由良だったが……。


 遂に終わりの時が訪れた。


 ポン!!


「お?」


「や、やっと戻れた~……。」


 妖狐の姿から人間の姿に戻ったルア。そんな彼から由良はそっと手を離した。


(むぅ~……もう少し愛でておきたかったのじゃが、もう効果時間になってしもうたのか。)


 名残惜しそうにしながらも、由良はルアの手をとった。


「さて、では帰ろうかの。」


「あ、うん!!」


「ほれ、クロロもいつまで寝ておるのじゃ?さっさと起きんと置いて帰るぞ~!!」


 そして一行は町へと帰るのだった。

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