第17話 妖狐ルア①

 由良とエナの壮絶なしごきに耐え抜いたクロロは、なんとか強化系の魔法を取得することに成功した。

 そして、毎度毎度重度の筋肉痛を患うクロロを治しているうちにルアの回復魔法の熟練度も大きく上昇していた。


「うにゃあぁぁ……もう……むりぃ……。」


 フラフラと倒れ込みそうになったクロロをエナが受け止める。そのままクロロはエナの胸の中でぐっすりと眠りについてしまった。


「あらあら……ぐっすり寝ちゃいましたねぇ~。」


「ま、今日のしごきに着いてこれたのじゃ。よほど疲れておるに違いない。魔力もすっからかんじゃろうしの。」


「ぼ、ボクももう疲れちゃった……。」


 へたりとルアも地べたに座り込む。そんな彼のもとに由良は歩み寄ると、両手でいとおしそうにわしゃわしゃと頭を撫で始めた。


「うむうむ、ルアも良く頑張ったの~。」


「えへへへ……。」


 頭を撫でられながら誉められご満悦のルア。そんな二人にエナが言った。


「それにしても~ホントにルアちゃんは凄いですね~。普通回復魔法を覚えるってなったら……数年位かかるものなんですけど。」


「まぁわしの指導のおかげじゃな!!…………と、胸を張って言ってやりたいところじゃが……今回ルアの覚えが早かったのは、間違いなく一度妖狐の力を手にしたからじゃな。」


 疑問に思って、そう口にしたエナに由良は答えを告げた。すると、予想外の答えにエナは首をかしげる。


「ルアちゃんが由良さんと同じ妖狐の力を?」


「うむ。昨日どうやらわしが家にいない間にメタモルフォーゼを使って妖狐の姿に化けておったのじゃ…………ぶふっ!!」


「由良さん!?」


 昨日のルアの姿を思い出した由良が、突然鼻血を吹き出した。


 目の前で勢いよく鼻血を吹き出している由良にエナが心配そうに近寄った。


「だ、大丈夫ですかぁ~?」


「う、うむ……問題ない。ちとあのときのルアの姿があんまり愛おしいかったものでの……。」


 自分で回復魔法をかけて鼻血を塞き止め、ふぅ……と大きく息を吐き出した。


「ふぇ~……気になっちゃいますねぇ~。妖狐の姿のルアちゃんって……。」


「もうそれは、それは……ただただ愛おしい姿じゃった。金色で、もふもふの尻尾に耳に…………。」


 あのときのルアのことを熱くエナに向けて語る由良。彼女の話がどんどんヒートアップするにつれて、つつ~……と再び由良の鼻から鼻血が垂れる。


「~~でじゃな。」


「ゆ、由良さんまた鼻血がぁ~……。」


「むっ……むむっ……いかんな。どうしてもあの時のことを思い出すと興奮してしまう。」


「そんなに由良さんが可愛い~って言う位なら私も見たいです~。」


 エナの言葉にルアの背中がビクリと震えた。


「え、エナさん……えっと、その……お母さんにむやみに人前であれをやるのは禁止されてて……。」


「許可するのじゃ!!」


「えぇっ!?」


 ルアが以前由良が言ったことを思い出して、断ろうとした時、由良が突然そう言った。


 思わぬ由良の言葉に思わずルアはすっとんきょうな声をあげて驚いてしまう。


「い、いや……だ、だってあれでしょ?メタモルフォーゼ使ったらオスの匂いが濃くなっちゃうんでしょ?」


「そんなものはわしの魔法でどうにでもなるのじゃ。やる気になれば……ルアをメスの姿に変えることもできるのじゃぞ~?」


 人差し指をルアの方に向けて、くるくると回しながら由良は言う。


「姿を変える魔法に比べれば匂いを変える魔法なんぞ、わしにかかれば朝飯前なのじゃ!!」


 みんなの前でそう高々に宣言しながら由良は大きく胸を張った。


「う~……ホントにやるの?」


「やるといったらやるのじゃ!!今こそ、お主のあの伝説級の可愛さをエナに見せつけてやるのじゃっ!!」


 乗り気ではないルアと対照的に、早くやってくれとせがむ由良とワクワクしている様子のエナ。


 ルアも彼女と暮らして8年……彼女がこういう時は絶対に言葉を曲げないことは良く知っている。

 今どうあがこうが、結局やる羽目になるのだから……と内心割り切ってルアは目を閉じた。


「うぅ~…………メタモルフォーゼ(ボソッ)。」


 ボソリとルアがメタモルフォーゼと変身に必要な言葉を呟くと、ルアの体がまばゆい光で覆われた。


 そして光が収まってくると、先ほどまでルアの体には無かった尖った耳と尻尾が輪郭として現れ始める。光が人の形を象ると、一気に弾け、光の中からは妖狐の姿に変貌を遂げたルアが現れた。


「う~……これでいいの?」


 少し恥じらいを見せながらも、ルアは二人に問いかけた。一方、妖狐の姿になったルアの姿を見た二人は……というと。


「ふわぁ~、すっ……ごく可愛いです~!!」


「ぶふっ!!が、眼福じゃが……刺激が強すぎるのぉ~…………。」


 鼻血を吹き出しながら後ろへと倒れこんだ由良。そんな彼女の後ろには、ちょうど寝ているクロロの頭があった。

 

 ゴーンッ!!


「あいにゃあ゛あ゛ぁぁぁぁッ!?!?」


 鈍い音が辺りに響き、森の隅々まで行き渡るようなクロロの悲鳴が木霊したのだった。

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