第16話 合格

 由良に回復魔法の危険性というものを目の前で見せられたルアは、それをしっかりと記憶に刻み込みながら修練を始めた。


 今回の修練の内容は至極簡単なもので、体外に放出した魔力で植物を成長させる……というものだった。


「…………あっ!?」


 ルアが植物へと向かって魔力を飛ばしていると、突然元気だった植物が萎びて茶色く枯れ始めてしまった。


「うむ、最初はそんなものじゃ。与える魔力が多すぎる。あと魔力の質が悪い。」


「魔力の質?」


「わしが回復魔法を使うときは、魔力の色が緑色だったじゃろ?今ルアが放った魔力は無色透明……つまり質が悪いなの魔力じゃ。」


 由良の言葉にルアは首をかしげた。


「う~ん、でも魔力の質……ってどうやって良くすればいいの?」


「簡単じゃ、体内の魔力を動かして練るようにしてみよ。」


「うん……わかった。」


 由良に言われた通りに、ルアが体内で魔力を動かして練るようにしてみると……その練った魔力と練っていない魔力が明らかに違うことを彼は感じた。


「…………!!」


「感じたかの?それが質を良くした魔力じゃ。それを放出してみよ。」


 そしてルアがその練った魔力を放出してみると……僅かに緑の色がついた魔力がルアの手の先から現れた。


 その魔力が目先の植物を包み込むと、僅かに植物がミキミキと音をたてて成長した。


「~~~っ!!できたっ!!」


「うむ、その調子じゃ。次はもう少し体内で魔力を練ってみよ、まだ少し回復させるには質が低い。」


「わかった!」


 そして何度も何度もそれを繰り返している内に、ルアは体内で魔力を練るコツを掴み始めていた。


 そんな時…………。


「ただいまです~。」


「うにゃあぁぁ~……。」


 ルア達のもとにクロロを抱えたエナが戻ってきた。


「おっ?もう戻ったか。クロロの様子を見るに……しっかりとこなしてきたみたいじゃな。」


「はいです~。それじゃあルアちゃんお願いしますねぇ~。」


「えっ?」


 エナはクロロのことをルアの前に寝かせた。クロロはここに来たときと同様に体をピクピクとさせて動けずにいる。

 どうやらこの短時間でまた筋肉痛を発症してしまったらしい。


「さぁルア、お主の修練の成果を見せる時じゃ。クロロの筋肉痛を治してみよ。」


「う……うん……。」


 ルアはクロロに手をかざすが、その手はふるふると小刻みに震えていた。彼の脳内には、先ほど由良が見せた治療の失敗例のゴブリンがフラッシュバックしていたのだ。

 それを察してか、由良がポン……と優しくルアの頭に手を置いた。


「心配するでない、さっきと同じようにやれば大丈夫じゃ。ほれ、魔力を練ってみよ。」


「うん。」


 由良に励まされたルアは、さっきと同じように体内で魔力を練り始めた。そしてある一定のラインで練るのを止めてクロロに向かって放出する。


 すると、淡い緑色の光がクロロの体を包んだ。


「…………!!ふっか~っつ!!」


 最初にここに来たとき同様にクロロは元気を取り戻した。起き上がったクロロはルアの方を向いてお礼を言った。


「ルアちゃん凄いね~、ありがと。私も負けてらんないな~。」


「えへへ……良かった……できた。」


 ちゃんとクロロのことを治せて安心したのか、ルアは体に溜まっていた空気を大きく吐き出しながら、胸を撫で下ろした。


「うむ!!合格じゃ。」


「ルアちゃん凄いです~!!」


 ルアの回復魔法に由良が合格点を出した。それはつまり、ルアの修行の終わりを指し示していた。


「さて、これでクロロの修練をもっと過酷にできるのぉ~。」


「はいです~もっと遠慮なくやれますねぇ~。」


「え゛っ??」


 由良とエナの言葉にクロロは一気に顔を青くした。そして恐る恐るクロロは二人に問いかける。


「え、えっと~?つ、つまりさっきのって……前座だったってことです?」


「もちろんじゃ。さぁ……ルアに回復魔法を慣れさせるために、もっともっと過酷にいくのじゃ!!」


「今日はクロロちゃんが強化魔法を覚えるまでやりますからねぇ~。」


「ひうぅぅっ!?る、ルアちゃん助けてよ~!!」


 悪魔のような笑みを浮かべる由良とエナの視線から逃げるようにルアに助けを求めて抱きついたクロロ。


「クロロさん大丈夫です!絶対治しますから!」


「そういう問題じゃにゃあぁぁぁいっ!!」


「さぁ観念してお縄につくのじゃ~。」


 その日、この森にクロロの悲鳴が何度も何度も木霊した。


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