第20話 成長した二人
ルアとクロロが魔法を会得してから、数日の時が経った。
「せいっ!!」
クロロの気の籠った掛け声と共に繰り出された鋭い蹴り技が、オーガの丸太のように太い首を捉えた。
すると、華奢なクロロに蹴られたとは思えないほど、巨大な体躯のオーガが数メートル宙を舞い大きく吹き飛ばされる。
なぜ今現在オーガと戦闘になっているのかというと、それは少し前に遡る。
町のギルドにてクロロとルアは、いつものように日銭を稼ぐため依頼を受けようとしていた。
「あ、クロロさんゴブリンの討伐依頼が出てますよ?」
壁に貼り付けられた依頼書を指差してルアが言う。
「ホント?どれどれ~……ゴブリン5体の討伐で銀貨6枚。ふぅん、普通の単価より一枚多いね、わるくないかも。」
依頼書を吟味していると、ギルドにある一報が飛び込んできた。
「た、助けてくれッ!!」
バン!!とギルドの扉を勢いよく開けて入ってきたのは、額に大きく、立派な角が生えた
ちなみに彼女達の中では角の形や大きさを競うコンテストがあるのだとか……。
ぜ~ぜ~と息を切らしている彼女に、メルルアが駆け寄った。
「だ、大丈夫ですか?いったい何があったんです?」
「オーガが俺の畑に何匹も現れやがったんだ!!」
「なっ……!!オーガが何体も!?」
そんな二人の会話に聞き耳をたてていたクロロは、にんまりと笑みを浮かべてルアの方を向いた。
「にししし……ねぇルアちゃん、オーガが何匹も現れたって?」
「……はぁ、言いたいことはわかってます。リベンジしたいんですよね?」
「せいか~いっ!!さっすがルアちゃん私のことわかってるねぇ~。いい子いい子してあげる~♪」
自分のやりたいことをきっちりとわかっていたルアに、気を良くしたクロロは彼の頭を撫でまわす。
彼の髪の毛をくしゃくしゃにすると、クロロはメルルア達のもとへと歩み寄った。
「メル~、その依頼私達がやるよ~。」
「クロロさんに……ルアちゃん……討伐経験のある二人なら任せれるかもしれないですけど。でも、今回は複数いるんですよ?」
「大丈夫~、ちょうど私もリベンジしたかったしね~。それで~場所は?」
「町の東の農場だ……。」
「オッケー、それじゃ行ってくるよ~ん。」
「あ、ちょっと!!クロロさん!?」
メルルアの呼び止めも聞かずにクロロはギルドを飛び出していった。
クロロの後を追うようにルアもギルドの出口へと向かう。その途中……ルアはメルルアに声をかけた。
「クロロさんなら大丈夫です。ボクのお母さんにみっちり鍛えてもらいましたから。」
ルアはそれだけをメルルアに伝えると急いでクロロの後を追った。
「あぁっ!?ルアちゃんまでっ…………も~っ!!」
飛び出していった二人にメルルアは頭を抱えた。そんな彼女に鬼の魔物娘は不安そうに問いかけた。
「あ、あいつらに任せて大丈夫なのか?」
「大丈夫……です。…………多分。」
「多分!?」
◇
そういった経緯を踏んで今へと至る。
「さぁ~て?次はどいつが相手?」
クロロは、自分を取り囲む複数のオーガへと向かって、腰に差していた短刀を抜いて突きつけた。
オーガは魔物としては珍しく、ある程度の知能がある。故に先ほど仲間を蹴り飛ばしたクロロを警戒し、なかなか飛びかかれずにいた。
「来ないなら……こっちから行くよーッ!!」
タン……とクロロは軽く地面を蹴った。すると、オーガとクロロの距離が一気に縮まる。次の瞬間にはクロロの短刀がオーガの首にめり込んだ。
「ふんっ!!」
さらにクロロが力を入れると、オーガの首が体を離れて宙を舞う。
「まず一匹……。」
オーガを一匹屠り去ったクロロが地面に着地すると、後ろから怒りに身を任せたもう一体が襲いかかってくる。
「ガアァァァッ!!」
「ほいっ!!」
スコン……ッ。
後ろから襲いかかってきたオーガに向かって、クロロは手にしていた短刀を投げた。
すると、スコン……と音を立てて短刀がオーガの額に軽く刺さる。
「グガッ……。」
刺さった短刀を引き抜こうとオーガが額に手を伸ばす。
しかし、その手の上からクロロの蹴りが覆い被さり、結果的には自身の手で短刀を深くまでめり込ませてしまう形となってしまった。
絶命し、地面に倒れたオーガの額から短刀を引っこ抜くと、クロロはまだ残っているオーガ達へと向かって飛びかかっていく。
そこで、ようやくその場にルアがやって来た。
「はぁ……はぁ……やっと追い付いた。……ってもう倒しちゃってるし。」
目の前でオーガ達を蹂躙するクロロの姿をみて、ルアはゴブリン達を蹂躙するクロロの姿を思い出した。
「もうオーガでも相手になってないや……。」
遠目でクロロのことを見守っていたルアだったが、そんな彼の後ろに近付く不穏な影が一つ。
「ガアァァァッ!!」
「……えっ?」
突然後ろから聞こえた怒号にルアが驚いて振り返ると、彼の後ろには手に持った棍棒を天高く振り上げているオーガがいた。
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