第14話 ルアの特技

 それから数時間後……。


「…………ハッ!?」


 由良はベッドの上で目を覚ました。


「わ、わしは……なぜベッドに…………。」


 自分がどうしてベッドで寝ていたのか、曖昧な記憶を辿ってみるがどうにも、大事なところに靄がかかっているようで思い出せない。


 そんな時、ガチャリと扉が開き、ルアが中に入ってきた。


「あ、お母さん起きたんだ。急に倒れちゃったから心配したんだよ?」


「う、うむ……すまんかった…………の!?」


 ルアと向かい合ったとき、由良は靄がかかっていた記憶が一気に鮮明になり、頭の中で再生された。


「ぶふっ……。」


「お、お母さん!?」


 倒れる前の記憶が蘇った由良は、再び軽く鼻血を吹き出してしまう。


「す、すまぬ……だ、大丈夫じゃ。」


 由良は手元にあったタオルで鼻血を拭うと、ルアの方を向き直った。


「し、して……ルアや?わしが帰ってきたとき、お主が妖狐の姿をしておったように見えたのじゃが……。」


「あ、うん……どうしても魔力を動かせなくて……お母さんの真似してみてたんだ。」


「なるほど、つまりわしを思い浮かべてメタモルフォーゼをした……という認識で良いかの?」


「うん……。」


 あの状況を理解した由良は、大きく頷いた。そしてルアに問いかける。


「それで、魔力は動かせるようになったかの?」


「うん!!もうバッチリ、コツを掴んだよ。」


 ルアは自分の体内で魔力を血流のように全身に巡らせてみせた。


「おぉ!!もうそんなに魔力を動かせるようになったか。(これは……予想外じゃ。下手すればクロロよりも早く極めるやもしれんのぉ。)」


 素直にルアの成長の速さに驚く由良。


「そこまでできるようになったのならば……明日からはいよいよ魔力を使する段階に入れるの。」


「ホント!?」


「うむ。」


 喜ぶルアの頭を撫でる由良。


「っと……さて、まだ昼飯を食べておらぬじゃろう?今から作るから少し待っておれ。」


「あっ!!お母さんは横になっててよ。ボクが作ってくるからさ……ちょっと待っててね~!!」


「あっ!?る、ルアちょっとま…………あぁ、行ってしもうたか。」


 由良の制止の声を聞かずにルアは部屋を飛び出していった。


「むぅ……む?ちょっと待つのじゃ!?ルアは料理ができるのかの!?包丁は!?火は!?使えるのか!?」


 思い返してみれば、ルアに包丁や火などを扱わせたことがなかったことを思いだし、不安と焦燥感にかられる由良。

 そして居ても立ってもいられずにベッドから抜け出そうとしたときだった。


「お待たせ!!」


「むおっ!?」


 バン!!と勢いよく扉を開けてお盆を持ったルアが部屋に入ってきた。


「あ!!寝てなきゃダメって言ったでしょ?」


「む、す、すまなかったのじゃ。じゃが……時にルアや、お主料理はできたのかの?」


「あれ……ボク作ったことなかったっけ?ボク料理得意だよ?」


「なんとな!?」


 そう、生前からルアは料理やお菓子作り、裁縫等々がかなり得意だったのだ。もちろん、過去の記憶が失われていない今もその腕は健在である。


「一応ありもので色々作ってきたけど……たくさん鼻血出してたからお肉メインにしたよ。」


 そう言ってルアは、由良に料理が乗せられたお盆を渡した。そして、お盆に乗せられた料理を見て由良は驚愕する。


「なっ……あ、ありものでこれを作ったのかの!?」


「え?うん……そうだよ?」


 ちなみに、ルアが作った料理は……というと。


・ほぐし鮭と卵のお粥

・鶏の照り焼き

・小松菜のおひたし

・あさりと油揚げのお味噌汁


 この4品である。


「な、なんと……。」


「冷める前に食べてね。」


 にこにこと笑いながらルアはベッドの横におかれている椅子に腰かけた。


「う、うむ……ではいただこうかの。」


 由良は箸で照り焼きを一切れつまんで口に運んでみた。そして味にも驚愕することとなる。


「むっ!?う、美味いのじゃ…………。」


「でしょ?ボク料理は自信あるんだよね~。」


 えっへんと胸を張るルア。得意分野を披露できて嬉しいらしい。


 そしてペロリと全ての料理を平らげてしまった由良は満足そうな表情を浮かべた。


「ふぅ……ごちそうさまなのじゃ~。」


「はい、お粗末さまでしたっ。」


「よもや、ルアが料理が得意じゃったとはのぉ~。(息子の特技を知らぬとは……この由良一生の不覚なのじゃ。)」


 母親としての至らずさを痛感する由良だった。

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