第13話 修行二日目

 修行開始二日目の朝……。由良宅では早速ルアの修行が始まっていた。


「う~…………。」


 唸りながらもルアは、昨日の夜と同じように目を閉じて心臓に意識を集中させていた。その額には軽く汗が浮かんでいる。


「うむ、その調子じゃ。だんだん自分で魔力を動かせるようになってきたの。」


(……全然そんな感じしないんだけどなぁ。)


 由良の言葉に反して、ルアは全然魔力を動かせている実感がないようだ。


 そんなルアの思いを知ってか、由良は言った。


「ちなみに数十分ほど前から、わしの手を借りずに自分で魔力を鼓動させておるぞ?」


「ふえっ!?」


 バッとルアが後ろを振り返ると、少し離れたところから由良がこちらに手を振っていた。


「くふふ、驚いたかの?ずいぶん集中しておったようじゃからの、気がつかなかったのも無理はないのじゃ。」


 微笑みながらルアの方に歩み寄った由良は、優しく彼の頭を撫でた。


「さぁ、次は鼓動させられるようになった魔力を、自由自在に動かせるようになるのじゃ。」


 次の課題をルアに示すと、由良は出掛ける仕度を始めた。


「どこかに行くの?」


「ちとエナの家に行ってくるのじゃ。クロロの様子を見てくる。兎に角、無理はしないようにするのじゃぞ?」


「は~い。」


 無理はしないように……と釘を刺して、由良はエナの家へと向かっていった。


「…………よし、頑張るぞ~っ!!」


 一人、家に残ったルアは再び魔力を動かす練習を始めるのだった。











 その頃エナの家に着いた由良はというと……。


「ふむ、こやつの状態を見る限り……しっかりと基礎を叩き込んでやったようじゃな。」


「もちろんです~。」


 ビシッと由良に向かって敬礼するエナ。そんな彼女の足元には、全身をピクピクと震わせているクロロが横たわっていた。


「くっふふふ……ずいぶんしごかれたようじゃの~クロロ?」


 クスリと妖艶に笑いながら、ピクピクと震えているクロロの体をツンっと由良はつついた。


 すると、大きくクロロの体が跳ねる。


「んにゃあぁぁぁっ!?!?ふぐぅぅ…………。」


「くっくっくっくっ、すまんすまん全身筋肉痛じゃったな?ついつい手が滑ってしもうたのじゃ。」


 腹を抱えて笑いながら由良は言った。


 今のクロロは、昨日さんざんエナにしごかれたせいで全身が筋肉痛になってしまい、動けなくなっていたのだ。


「ゆ、由良さんひどいですっ!!そんなに意地悪して……凄い筋肉痛なんですよ!?」


「わかっておる。そうなるように、わしがエナに言いつけたのじゃからな。むしろそうなっておらねば困る。」


 そう言った後、由良はクロロに向かって手をかざした。すると、クロロの体を淡い緑色の光が包む。


「ほれ、これでもう動けるじゃろ?」


「っ!!動けますっ!!」


「流石由良さんの回復魔法ですねぇ~。クロロちゃんの、ひどい筋肉痛もバッチリ完治~。」


「さて、筋肉痛も治ったことじゃ。今日の修練を始めるぞ。」


「え゛っ…………。」


 由良の言葉にクロロは、絶望の色が浮かんだ表情を浮かべた。


「今日のは昨日よりキツイからの~?くくくっ……壊れんように集中するのじゃぞ~?」


「逃げちゃダメですからねぇ~……まぁ逃がしませんけどっ♪」


「ひいぃぃぃぃっ!?」


 残酷な笑みを浮かべながら近付いてくる由良とエナに、本能的に死を直感してしまったクロロだった。


 もちろん、死ぬほど二人にしごかれた。













「ふぅ、少し遅くなってしまったのぉ。帰ったらすぐにルアに昼飯を作らねば……。」


 小走りで自宅へと向かう由良。自宅の付近に近づくと、家の方から大きな魔力を感じた。


「むっ?この魔力は……いったい…………っ!!まさか!?」


 悪い予感を感じ取った由良は急いで家へと向かう。そして家の前にたどり着くと、やはり思っていた通りこの大きな魔力は家の中から溢れだしていた。


「ルアっ!!無事か…………の?」


「あ…………お、お帰りお母さん。」


 勢い良く家の扉を開けて中に入った由良の目に飛び込んできたのは、頭から自分と同じような狐耳が生えており、腰から生えたもふもふの尻尾を揺らしていたルアだった。


 お互いに目と目が合った二人だったが、その次の瞬間……由良が鼻から盛大に鼻血を吹き出して倒れこんだ。


「お、お母さん!?」


 鼻血を吹き出しながら倒れた由良のもとに駆け寄ったルア。そんな彼の姿を間近で目に捉えた彼女は、更に鼻血の勢いを加速させながら言った。


「が……眼福じゃぁ……ガクッ…………。」


 その言葉を最後に由良の意識は闇の中へと沈んでいった。気絶した由良の表情は、ルア曰くひどく幸せそうだったとか……。

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