2021/01/25

「私」は小説を書かない

 ――私は、小説を書かない。


 そう言ったら、友人や家族が「どうして?」と首を傾げた。

 いつもパソコンに向き合って、カタカタ文章を書いてるじゃないの、と。何度も小説を読ませてくれたじゃない、と。


 ――分からないんだよな、見た目では。


 物語を紡いでいる私は、私じゃない。

 物語と自分の名前が結びつかないから。作者名が自分の名前になることがないから。


 ――私はそのとき、名前が変わってしまう。


 創作をする自分自身に、名をつけた。

 物語を紡ぐ自分が名乗れるように。創作界隈で人と語るとき、小説を投稿するとき、困らないように。


 ――ときどき、自分が分からなくなる。


 ある日のオフ会の後、私はしばらく本名に戻れなかった。呼ばれれば反応はするけれど、なにか違和感を感じてしまったのだ。

 ああ、本名が遠い。「私は誰?」と自分に問うと、ペンネームで私は名乗った。


 ――「私」は、小説を書かない。


 本名の「私」は小説を書かない。

 ペンネームの「私」が、普段とは違う「私」が物語を紡ぐ。

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