第51話 二人

息が詰まりそうなほど重苦しすぎる空気の中、ゆっくりとゴンドラが動き、やっとの思いで一周を終えていた。


健太君が率先してゴンドラを降り、それに続くように井口君が降りたんだけど…


私がゴンドラを降りようとすると、健太君は出口に向かって歩いていて、井口君は邪魔にならない位置で立ち止まり、私を待っているようだった。


なんとも言えない感情に襲われながらゴンドラを降り、井口君と肩を並べて出口に向かったんだけど、先に降りたはずの結衣子ちゃんと鈴本君、そして乗っていないはずの愛子の姿がない。


井口君はそのことに気が付いたのか、健太君に向かって口を開いた。


「俺ら、弘樹たち探してくるわ」


「は? 何言ってんの?」


「あいつ、一人で乗ってんだろ? 待っててやれよ。 じゃな」


井口君はそう言いきると、私の腕をつかんでその場を後に。


「待てよ!!」


健太君の叫び声も聞かないままに、井口君は小走りでその場を後にしていた。


しばらく小走りで歩き、出口に近づくと、遊園地の外に鈴本君と結衣子ちゃんがしっかりと手をつないで待っていた。


井口君に腕を引かれるままに遊園地を出ると、井口君が鈴本君に声をかける。


「悪い! 待たせた!!」


「おう。 早く逃げようぜ」


井口君と鈴本君は『打合せしてました』と言わんばかりの会話をした後、急ぎ足で駅のほうへ。


「え? 待ち合わせしてたの?」


「隙があったら逃げようって話してたんだよ。 意味わかんねーのが二人もいたし」


「けどさ… あの二人…」


「何? 戻りたい?」


「嫌。 絶対に嫌」


「んじゃ行こうぜ」


そのまま4人で電車に揺られ、自宅最寄り駅に向かっていた。


電車の中で、何度もスマホが震え、愛子と健太君の名前が交互に表示されていたんだけど、出ることもなく、電源を切っていた。


すると、それに気が付いたのか、鈴本君が笑いながら切り出してくる。


「そういや、さっきの観覧車、渡辺が係員に怒られながら一人で乗ってるところ見ちゃって、マジウケたんだけど!」


「え? 怒られてたの?」


「結衣子が気付いて見てたんだけど、係員が止めてるのに無理やり乗ろうとするなんて、普通に危ねーじゃん。 めっちゃ怒られて、逃げるように観覧車に乗ってたよ? 自業自得だと思うけどな」


鈴本君が笑いながら言い切ると、井口君がボソッと呟くように告げてきた。


「それで横に並んでたのか…」


それを聞いた途端、結衣子ちゃんは顔を真っ赤にし、赤い顔がばれないようにしているのか、俯き始めていた。


そんなことはお構いなしに、鈴本君は井口君と話し続け、何度か乗り換えをした後、私の自宅最寄り駅へ。


駅につくと同時に、井口君が切り出してきた。


「送るよ」


「え? 歩いて帰るからいいよ」


「良くない。 バイク持ってくるからちょっと待ってて」


井口君の言葉をきっかけに、井口君と鈴本君は駅の裏に向かってしまい、結衣子ちゃんと二人、駅前に取り残されていた。


「結衣子ちゃん…」


「うん… わかってる… 今度、電話するね」



『何故今度?』と思いつつも、顔を真っ赤にしている結衣子ちゃんに切り出せるわけもなく、笑顔で頷くことしかできなかった。



その少し後、結衣子ちゃんは鈴本君の後ろに、私は井口くんの後ろに乗せられ…


すぐ近くにあるはずの、私の自宅に帰るまでに、井口君は道を間違え続けてしまい、鈴本君たちともはぐれていた。


やっとの思いで自宅前に着いたときは夕方を過ぎたころ。


バイクを降りると、玄関の近くで座っていたマルが、尻尾をピンと立てながら近づいてくる。


足元に寄ってきたマルを抱きかかえると、井口君は手を伸ばし、マルの頭をなで始めていた。


「マル、今日はおやつ抜きだから明日な」


井口君はマルに話しかけた後、私の頭に手をのせてくる。


「また明日な」


優しい笑顔で見つめられ、息が詰まり何も言えない。


黙ったまま頷くと、井口君はバイクのエンジンをかけ、颯爽とその場を後にしていたんだけど、その後姿を見ているだけで、胸の鼓動が早くなるのを感じていた。

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