第42話 バイト
毎日のようにお弁当の準備をしていたせいで、せっかく貯めていたバイト代も大幅に減っていた。
試験休みにバイトをさせてもらえないか、マリおばさんに電話をしたんだけど、「たまには女子高生らしいことをしなさい!」と言われてしまい、ますます頭を抱える始末。
『短期間のバイトかぁ… 夏は向こうに住み込みだから働けないし、そんな好条件のバイトなんてないよなぁ…』
放課後、そんなことを考えながら自転車を漕いでいると、千絵のお姉さんである美里さんとバッタリ。
美里さんは私を見るなり「バイトしない?」と声をかけてきた。
「私の先輩が美容師のアシスタントやってるんだけど、今度、スタイリストに昇格するから、その練習モデルを探してるんだって。 カットモデルってやつ。 千絵に話が来たんだけど、嫌だって言われちゃってさぁ。 好きな髪形にはできない代わりに、報酬は弾むっていうんだけど、どうだろ?」
「やる! やりたい!!」
「マジ? んじゃ話しておくわ! また連絡するね」
その後も少し話をし、少しだけウキウキした気持ちで帰宅した。
その日の夜に美里さんからラインが来て、詳細を聞いたんだけど、カットだけで、カラーとパーマはしない方向だから、校則的にも問題がない。
ただ、「なるべく早めに」とのことだったので、週末の閉店後、美容院に行くことが決まっていた。
週末、美里さんと閉店後の時間に美容院へ行き、美里さんの先輩を紹介されたんだけど、その先輩がまさかの男性。
一通りの説明を聞き、カットを始めたんだけど、カットをしている最中、井口君の元カノが言ってた言葉が頭をよぎる。
…康太は長い黒髪だったら誰でもいいんだもんね…
『長い黒髪じゃなくなるか… こんなに短くするの、いつぶりだろ…』
ボーっと考えながら、鏡に映る自分の髪を眺めていた。
数時間後、肩甲骨の辺りまであった長い髪は、肩すれすれの長さまで短くなっていたんだけど、初めてのカットで先輩が緊張していたせいか、左右の長さが違い、イメージしていた髪型と違う。
すると、ずっと横で見ていたスタイリストの方が手直しをしてくれたんだけど、仕上がりがまさかのショートボブ。
前髪は眉毛の高さに切りそろえられ、鏡に映る自分に呆然としていた。
『絶対切りすぎ… こんなに短いの初めてなんですけど…』
そんなことを思っても、「好きな髪形にできない」って条件だったから、何かを言う発言権すらない状態。
カットをし終えた後、バイト代の入った封筒を受け取り、美里さんと二人で話しながら帰宅していた。
家に入ると、玄関まで迎えに来たマルが「誰だこいつ」と言わんばかりの顔で睨みつけてくる。
「マル、ただいま」
そう声をかけても、マルはじっと私を睨みつけ、さっさと私の部屋に向かっていた。
『うわ… 寂しい…』
そう思いながら部屋に入り、スマホを見ると、健太君から何度も着信が来ている。
『また… いい加減にしてよ…』
思わずため息をつき、スマホを机の上に置いた後、すぐ浴室に向かっていた。
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