第25話 秘密
怒り狂った綾乃の勢いで、『健太君が私のことを好きだった』という爆弾発言を聞いたんだけど、頭の中には『なんで?』『どうして?』という言葉しか浮かばない。
頭の中に浮かぶ疑問に、答えなんか出るはずもなく、3人はそのままうちに泊まることに。
そのおかげで、結衣子ちゃんと綾乃、千絵の3人は仲良くなり、グループラインも作っていたんだけど、頭の中に浮かぶ疑問をぶつけることも、結衣子ちゃんの話を聞くこともなく、3人は翌日の夕方に帰宅していた。
数日後には始業式が始まり、自転車に乗って学校へ。
駐輪所に自転車を止めると、背後から愛子の声が聞こえ、耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいになっていた。
が、愛子がそんな気持ちを汲み取ってくれるわけもなく、私に話しかけてくる。
「若菜~、夏休み中どっか行った?」
「…おばさんの家だけだよ。 …愛子はどっか行ったの?」
「行ったよ~。 友達のお兄ちゃんがバンド組んでて、そのライブ見に行った」
「…ライブ?」
「うん。 あと、プールも行った。 日焼け止め塗ったのに、軽く焼けちゃってさぁ~~~」
愛子の言葉に耳を疑いつつも、カバンを握りしめながら切り出した。
「…友達って?」
「あ、遅刻するから先に行くわ」
愛子は急ぎ足で校舎に向かい、駐輪場に取り残されていた。
健太君とは別れたんだし、もしかしたら違う友達のことを言ってるのかもしれない。
けど、愛子が行った場所は、休み中に健太君に誘われた場所と、ピッタリすぎるくらいに一致している。
『愛子と健太君が二人でどっかに行ったって良いじゃん… 私には関係ないことなんだし、二人は付き合ってたんだし… もしかしたら、よりを戻したってことなのかもしれないし… なんで、私に電話したんだろ?』
考えながら教室に入ると、教室内には無期限停学から解放された、クラスメイトの人数が復活。
数名の生徒は退学してしまったようで、クラスメイトは36人になっていた。
賑やかな教室の中、当たり前のように井口君が私の席に座り、鈴本君と中尾君、佐伯君の4人で話をしている。
『あ、なんかこの光景、ちょっと懐かしい…』
自分の席に近づくと、井口君が切り出してきた。
「顔色悪いけど大丈夫か?」
「気のせいだよ」
「気のせいじゃねぇだろ? 疲れてるんじゃないのか?」
「あ、あの事、誰にも言わないでね? 鈴本君と中尾君も…」
「あの事? あの事って?」
3人は『全く分かりません』といった感じで話を続けていると、佐伯君が閃いたように声を上げた。
「あ! あれじゃね!? 若菜ちゃんのおばさんが民宿やってるってやつ!!」
『だから言うな!!』
そう思っていたんだけど、4人は花が咲いたように、民宿の話を続けてしまった。
「康太と弘樹はバイクで行ったんだろ?」
「そそ。 ボードを車に積んでたから、中尾しか乗れなくてさぁ… 初めて高速乗ったんだけど、海沿いで風に煽られて、マジで死ぬかと思ったわ」
「俺もバイトがなかったら行きたかったなぁ…」
4人が会話を弾ませる中、背中に視線が突き刺さる。
カバンを机にかけながらチラッと見ると、日に焼けて黒くなった朋美ちゃんと美穂ちゃんが、睨むように私を見続けていた。
『終わった… 絶対言われるわ…』
そんな風に思いながら半日が過ぎ、お昼休みになると同時に結衣子ちゃんが私のもとへ。
「お弁当行こ」
結衣子ちゃんと二人で屋上の手前に行くと、朋美ちゃんと美穂ちゃんが先に陣取り、お弁当を食べていたんだけど、朋美ちゃんは私を見るなり切り出してきた。
「おばさんが民宿って何?」
美穂ちゃんに切り出され、ため息しか出なかったんだけど、朋美ちゃんは美穂ちゃんの言葉も聞かず、私に食らいつくように切り出してくる。
「その民宿って海沿いなんでしょ? 駅から近いの?」
「…遠いよ」
「送迎ってしてたりする?」
「しないよ。 バス停も遠いから、タクシーか、歩いて行くしかないよ」
「ふーん。 それは一般のお客さんだからでしょ? 若菜の友達だったら、送迎してくれたり、タダで泊めてくれたりしないの?」
「そんなのしてくれるわけないじゃん。 18歳未満が宿泊する場合、20歳以上の人が同伴しなきゃだし… 友達割引もないよ」
「割引ないのかぁ… ケチクサ。 保護者は若菜がいれば良いんでしょ? 保護者代わり的な? 井口君たちもそうしたんでしょ?」
「違うって。 井口君たちは鈴本君のお兄さんが20歳以上で、保護者代わりになったから泊まれたってだけで…」
「だったら若菜のおばさんが保護者代わりになってくれれば良くない? 友達なんだし」
『メンドクサ… こうなりそうだから内緒にしたかったんだけどなぁ… 井口君のバカ…』
激しい鬱陶しさを感じながら、朋美ちゃんと美穂ちゃんの質問を躱していたんだけど、二人は『なんとしてもタダで、高校生だけで泊まらせろ』と言わんばかりに食らいつき続け、お弁当を食べることすら嫌になってくる。
「…ごめん。 先に戻るわ」
ため息をつきながらその場から離れると、結衣子ちゃんが私の後を追いかけてきた。
「教室で食べる?」
「ううん。 食欲なくなっちゃった…」
「確かに… あれは食欲無くすよね…」
話しながら教室に戻ると、私の席には井口君ではなく、停学開けの磯野さんが座り、鈴本君と井口君、青山さんの4人で話していた。
『ここでも質問攻めっすか…』
ため息をつきながら席に近づくと、磯野さんが私に切り出してきた。
「ねね、若菜ちゃんって料理得意なんだよね? 来週の調理実習、同じ班にしない?」
「へ? 調理実習?」
「うん。 調理実習の時って、自由に班決めできるじゃん? だから一緒の班になろうよ。 結衣子ちゃんと一緒にさぁ。 私と青っち、料理全然ダメで、そうめんが炎上したことあんのよ。 なのにハンバーグって絶望的じゃね?」
『そうめんが炎上って、どうしたらそうなる?』
素朴な疑問を抱きながら了承をすると、二人は小さくガッツポーズをとっていた。
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