第24話 ショック

結衣子ちゃんとラインをした翌朝。


朝食の準備を手伝っていると、マリおばさんが思い出したように『宿題』の話を切り出し、急遽、お盆明けに帰宅することが決まっていた。


この日は井口君たちが帰る日だったんだけど、私が買い出しに行っている間に、井口君たちはチェックアウトをしていたようで、挨拶も何もないままに、普段通りの時間を過ごしていた。


ほんの少しだけ寂しさを感じていると、次のお客さんが到着。



この日から、連泊のお客さんが少なくなってしまい、慌ただしい時間だけが過ぎ、そのままお盆に突入。


お盆になると同時に、お母さんが手伝いに来たんだけど、毎日慌ただしく動き回っているせいか、スマホを見る体力すらないままに眠ってしまい、あっと言う間にお盆休みが明けていた。



バイト代を受け取った後、久々の自宅に帰り、ベッドの上で横になっていると、マルが不貞腐れた感じで添い寝。


ウトウトしていると、結衣子ちゃんからのラインを受信し、結衣子ちゃんがうちに泊まりに来る約束をしていた。



数日後。


駅前で待ち合わせした結衣子ちゃんを、迎えに行く準備をしていると、スマホが震え、見覚えのある番号から着信。


『…健太君だ』


少し躊躇しながらも、大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせ、電話に出ていた。


「あ、若菜ちゃん? 健太だけど、今大丈夫?」


「あ、ごめん。 ちょっと忙しくてさ…」


「もしかして、まだおばさんのところでバイト中?」


「う、うん。 そんな感じ。 どうかした?」


「知り合いからプールのタダ券貰ったから、一緒にどうかなって思ったんだけど、 期限が今月いっぱいまでなんだよね」


「ごめん。 ずっとおばさんの家にいるんだよね。 帰るのが始業式前日の夜なんだ。 呼ばれちゃったからじゃあね!」


慌てて電話を切った後、家を飛び出していた。



『また嘘ついちゃった… プールのタダ券か… 別れてなかったら、愛子と行ってたのかな…』



大きくため息をつきながら駅に向かい、結衣子ちゃんの姿を見るなり、結衣子ちゃんのもとに駆け出した。


話しながら家に向かい、結衣子ちゃんを部屋に招き入れたんだけど、結衣子ちゃんはマルを見るなり目を輝かせる。


「うわぁ! おっきい猫ちゃんだねぇ!!」


「人見知りしないから触っても大丈夫だよ。 口臭きついから、それだけ気を付けてね」


「わかったぁ! かわいい!!」


結衣子ちゃんとマルが戯れる中、宿題を写させてもらい続け、やっとの思いで写し終えると、1階から綾乃と千絵の声が聞こえてくる。


その後すぐ、二人の足音は私の部屋に近づき、ノックもしないままに入ってきた。


「お土産買ってきたよぉ~」


二人に結衣子ちゃんを紹介し、それぞれが買ってきたお土産を食べながら話していると、千絵が思いつめた表情で切り出してきた。


「…実はさ、愛子から手紙が届いたんだよね」


「手紙?」


「うん… ほら、私、ラインも着信も全部ブロックしてるじゃん? だから手紙にしたんじゃないかな? 切手も貼ってなかったから、多分家まで来たんだと思うんだよね…」


「なんて書いてあったの?」


「また4人で仲良くしたいって…」


千絵の言葉に反応するように、綾乃が声を上げる。


「絶っっ対無理!! ありえない!! つーか、うちらはまだ我慢すればいいよ? けど、若菜は絶対無理っしょ!」


「嫌だね。 できる限り近づきたくないし、話したくないね」


そのまま3人で話していたんだけど、何も知らない結衣子ちゃんは、頭の上にハテナマークが飛び交う。


が、あの時の怒りを思い出したのか、綾乃の勢いは衰えることを知らず、マシンガンのように話始めていた。


「ってかさ、マジであり得なくない? あいつ、若菜が健太君のことを好きだって知ってたんだよ? 若菜が頑張って呼び出したのに、告白横取りして、健太君と付き合い始めるとかおかしいでしょ!? つーか! 健太君もおかしいじゃん! ずっと若菜のことが好きだったのにさぁ」


「はぁ!? なにその話?」


「え? 知らない? 中学の修学旅行の時、男子たちがうちらの部屋に来たんだけど、その時、健太君に『好きな人いる?』って聞いたら『若菜』って答えてたんだよ? なのに愛子と付き合うとか意味わかんなくない?」


綾乃の言葉を聞き、いろいろな記憶が頭をよぎり、言葉が出せずにいた。


『私を好きだった? じゃあなんで愛子と付き合ったの? なんであの時、OKしたの?』


綾乃の言葉に耳を疑い、体が固まり、身動きが取れないままでいた。

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