第23話 宿題

数時間後。


夕食の準備を終え、食堂に食事を並べていると、食堂に常連の海野さんと竹中さんが入ってきた。


挨拶をしながら食事を並べ、少しだけ釣りの話をした後、調理場に戻り、井口君たちの食事の準備を始める。


海野さんたちが部屋に戻った後、大急ぎで後片付けをし、井口君たちの食事をテーブルに並べたんだけど、海野さんたちとはメニューが違っていた。


「あれ? メニュー違う?」


「井口君がアジをたくさん釣ってきてくれたからね。 イカはバジルソテーにしたの」


「なるほど…」


「そういえば、お父さんが『後でつまみ作ってくれ』って言ってたわよ? アジが残ってるし、なめろうとサンガ焼で良いんじゃないかな?」


「ほ~い」


気のない返事をした後、マリおばさんと一緒に食事を取り、おじさん用になめろうとサンガ焼きを作り始めた。


おじさんのつまみを作った後、普段、晩酌をしているロビーに行くと、おじさんの周囲には井口君たちの姿…


高校生と大学生に囲まれ、笑いながら話している赤ら顔のおじさんを見ると、異物感しか感じない。


『出来上がってませんように…』


そう思いながらつまみを運ぶと、おじさんが声を上げた。


「お! 若葉!!」


「若葉じゃない! 若菜! もう出来上がってんの?」


そう言いながらテーブルの上に料理を並べると、井口君が目を光らせ、声を上げた。


「やべぇ! サンガ焼きだ! めっちゃ懐かしい!!」


「ん? お前サンガ焼きなんて知ってんの?」


「さっき『じいちゃんが漁師で、よく漁師飯作ってくれた』って話したじゃないっすか!」


「知らね」


おじさんはそれだけ言うと、サンガ焼きを箸でつまみ、井口君に見せつけながら口に入れる。


『子供だ… 精神年齢が近いから話が合うのかな…』


素朴な疑問を抱きながらその場を後にしようとすると、おじさんが切り出してきた。


「若葉、ちゃんと宿題やってるのか?」


「…宿題?」


「学校から出てるんだろ? 持ってきてやってるのか?」


「・・・・・・あ」


「え? 持ってきてねぇの?」


「テスト休みのノリできたし」


「はぁ!? バッカじゃねぇの? だからバカナって呼ばれんだろ?」


「そう呼ぶのはおじさんだけ」


そのままおじさんと話していると、みちるさんがおじさんの箸をシレっと取り、サンガ焼きを一口。


みちるさんはサンガ焼きを食べると、隣に座る鈴本君のお兄さんに箸を回し、鈴本君のお兄さんが一口。


おじさんが気づかないまま、箸はどんどん回っていき、井口君が箸を受け取った途端、おじさんとばっちり目が合い、結局、井口君はサンガ焼きをたべられないまま、おじさんに箸を奪われ、あっという間に完食。


「若菜、サンガ焼きなくなったぞ」


「アジがないから無理。 疲れたからもう寝る」


おじさんが引き留めてきたんだけど、相手にすることもなく倉庫へ戻る。


シャワーを浴びた後、ラインを見ると、結衣子ちゃんからメッセージが届いていた。


“お久しぶり! お土産買ってきたから、戻ったら渡しに行ってもいい?”


〈うん! いつ帰るかわかんないけど… そういえば宿題やった?〉


“別荘でやったよ! 若菜ちゃんは?”


〈完全に忘れてて何もしてないんだよね… 写させて欲しいなぁ~〉


“いいよ。 お土産渡すときに、宿題も持って行ってあげる”


〈ありがと~! ホント助かる!!〉


結衣子ちゃんのラインに、ほっと胸を撫でおろし、ラインを続けていると、タイムラインに投稿通知が。


何気なくタイムラインを開くと、そこには朋美ちゃんが美穂ちゃんと二人の写真付きでメッセージを載せていた。


『親友の美穂ちゃんとプール! やっぱ二人が楽しいね!! 二人が一番!!』


あまりにも『二人』を強調したメッセージを見ていると、案の定というかなんというか、結衣子ちゃんからメッセージが…


“いっぱい話ししようね! いろいろと!!”


『意味深…』と思いながらも、〈了解〉のスタンプを押し、結衣子ちゃんとラインを続けていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る