第9話 最低

悠々自適で忙しい日々を過ごしたゴールデンウィーク明け。


今までは黒髪だった生徒の数名が茶髪になり、ピアスをしている生徒の姿もチラホラ。


見るからに、やんちゃそうな山田君と藤村君は、金髪になっていた。


この頃になると、生徒たちの間で先生の『格付け』が定まってきたのか、静かな授業もあれば、騒がしすぎるくらい騒がしい授業もあり…


特に、科学の授業中は、周囲がうるさすぎて、先生の声が聞こえない状態たったんだけど、注意する人もおらず、騒がしい中で授業を受けるばかりだった。


隣の席に座る鈴本君は、1時間目からずっと寝てるし、酷いときは朝から放課後まで爆睡することも…


『E組とG組が学級崩壊してるって話だし、伝染したのかなぁ?』


そんな風に思いながら、授業を受け続けていた。



ある日のこと。


3時間目の科学の授業中、騒がしすぎるくらい騒がしい中で、科学の授業を受けていると、先生がいきなり大声を上げた。


「お前! 今ライター持ってたろ!?」


「はぁ? 持ってねぇし」


山田君は悪びれる様子もなく、平然と答える。


「ポケットの中身を全部出せ!」


「なんでだよ! 持ってねぇって言ってんだろ!?」


「持ってないなら出せるだろ! 藤村! 動くな!!」


山田君と先生が口論となる中、朝からずっと寝ていた鈴本君がゆっくり起き上がる。


「…何の騒ぎ?」


眠そうな声で聞かれ、簡単に説明をした。


「ライター? 持ってたん?」


「さぁ? そこまでは…」


そう言いかけると、先生が意を決したように声を上げる。


「全員、カバンと机の中のものを全部出せ! 持ち物チェックするぞ!」


「はぁ!? ふざけんじゃねぇよ!!」


山田君と藤村君の声を無視し、先生は端から順に、抜き打ちの持ち物検査を行う。


すると、鈴本君が少し青い顔をしながら呟いた。


「…マジか …やべぇ」


「え? やばいもの持ってるの?」


「あ、いや… どうしよ…」


青ざめた顔をする鈴本君をよそに、先生は着々と持ち物をチェックし続け、鈴本君の前で足を止めた。


「鈴本、カバン開けろ」


先生がはっきりとした口調で言い切ると、鈴本君はうろたえながらも口を開く。


「いやいや、俺、朝からずっと寝てたじゃん? ライターなんて持ってないし…」


「いいから出せ」


先生が怒鳴りつけるように言うと、鈴本君は大きくため息をつき、カバンを机の上に置いた後、ゆっくりとカバンを開ける。


すると、先生はカバンの中に手を伸ばし、絶対にR指定のつくであろう、見出し文の目立つく雑誌を取り出した。


「…お前、学校に何もってきてんだ?」


「違ぇって! これは康太がさ…」


「康太? 井口がどうした?」


先生の言葉をきっかけに、鈴本君は雑誌を奪い返し、角の折れているページ開いた。


「これこれ、この子。 『若菜ちゃんに似ててマジ使える』って、康太が…」


「はぁ!? 最低!!」


思わず大声を出してしまうと、鈴本君は私を見た後、シレっと雑誌をカバンの中に入れようとするも、すぐに先生に取り上げられる。



結局、ライターは見つからないまま授業が終わってしまい、イライラしたまま結衣子ちゃんの元へ。


結衣子ちゃんはかける言葉を探すように、小声で切り出してきた。


「…若菜ちゃん、雑誌に載ってる人ってみんな綺麗だったり、可愛かったりするじゃん? だからあんまり気にしないほうが… ね?」


軽く不貞腐れたままふと視線を向けると、井口君とばっちり目が合う。


『…最低!』


態度で示すように視線をそらし、次の授業が始まるのを待っていた。

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