第5話 お弁当
数日後のお昼休み。
4人で屋上前の踊り場に向かいながら話していた。
「若菜ちゃん、今日のお弁当何?」
「今日は唐揚げだよ。 昨日、無性に唐揚げが食べたくなって、早起きして作ってきた」
「え? 自分で?」
「うん。 気が向いたときは自分で作るんだよ」
4人で話しながら歩いていると、通りかかった教師が切り出してきた。
「そこの4人、どこ行くんだ?」
「屋上手前の踊り場ですけど」
「あ~、いつもあそこで食ってるのお前らかぁ。 今、屋上に業者が入ってるから教室で食え」
仕方なく教室へ向かったんだけど、教室内には他のクラスの子たちも大勢いて、結衣子ちゃんと美穂ちゃん、朋美ちゃんの席は、使われている状態。
仕方なく、私の席でと思ったんだけど、井口君は当たり前のように、私の席でパンを食べていた。
『なんなんすかマジで… みんな、自分の教室で食べてよ…』
「教室は無理そうだから、階段にしよっか」
朋美ちゃんの言葉に同意し、階段に座って食べていると、教室から井口君と鈴本君が現れ、階段のほうへ向かってきた。
完全に見て見ぬ振りをしながら4人で話し、お弁当を食べていると、鈴本君が切り出してくる。
「なんでこんなとこで食ってんの?」
「教室いっぱいじゃん」
美穂ちゃんがお弁当を食べながら言うと、鈴本君は納得したような声を上げる。
「あ~、他のクラス、かなり荒れてて、おとなしめの奴らはうちのクラスに避難してきてるもんなぁ…」
「荒れてるの?」
「E組とG組は学級崩壊してるらしいぜ? 両方とも担任が女じゃん? ビビッて生徒に何も言えないんだってさ。 つーか、みんな親が作ってんの?」
「うん。 あ、でも若菜は自分で作ったんだっけ?」
『話を振るな』
黙ったまま食べ続けていると、当たり前のように鈴本君の手が伸び、私のお弁当に入っていた唐揚げを摘まんでかじりついた。
私が声を上げる間もなく、井口君は鈴本君の手をつかみ、必死に食べかけの唐揚げを食べようとしている。
「半分寄こせ!!」
「康太! 離せよ! パクったんだから俺んだ!!」
「若菜ちゃんの手作りだろ!? お前の食いかけで我慢してやるって言ってんだから、素直に寄こせ!!」
二人はもみ合うように食べかけの唐揚げを取り合っていたんだけど、食べかけの小さな唐揚げは指から転げ落ちた途端、鈴本君が踏んでしまい、見るも無残な姿に…
「あ~!! 俺の唐揚げ!!」
「お前んじゃねぇだろが!!」
二人はどうしようもないくらいに低レベルな言い争いを繰り返し、それを見ているだけで食欲がなくなっていく。
黙ったままお弁当を残し、片付けようとしていると、井口君が切り出してきた。
「あれ? まだ残ってたんじゃね?」
「・・・・」
「残すなら俺、食うよ?」
井口君の言葉に何の反応も示さないまま、お弁当箱を片付け、その場を後にしようとすると、井口君は当たり前のように私のお弁当箱を取り上げ、逃げ出すように自分の教室に向かって駆け出した。
それと同時に、鈴本君も井口君を追いかけ、辺りに静けさが訪れる。
「ガキクサ…」
朋美ちゃんの呆れた呟きにため息をつき、階段に座り込んでいた。
お弁当を食べ終えた後、教室に移動し、朋美ちゃんの席で4人で話していると、井口君が教室に入ってきたんだけど、井口君は当たり前のように私の席に座る。
『あそこの席、誰の席なのかわかんなくなってきた…」
そんな風に思いながら昼休みを終え、お弁当箱をカバンの中に押し込んだ。
帰宅後、お弁当箱を出そうとポーチを開けると、小さく雑に折りたたまれたメモが視界に飛び込む。
“マジうまかった! お礼言いたいから、これ見たら連絡して”
慌てて描いたような手書きのメッセージの後には、携帯番号とメアド、ラインIDまでもが書かれている。
『汚い字… 誰がその手に乗るかバーカ。 つーか、ここに捨ててお母さんにバレたらめんどくさいことになりそうだよな…』
軽く不貞腐れながらも、雑に畳まれた紙をポケットに入れ、自室に向かっていた。
自室に入り、着替えた後にベッドで横になると、キャットタワーで寝ていた猫が、ベッドの上に移動してくる。
『マルはお気楽でいいよなぁ…』
ブヒブヒと鼻を鳴らしながらゴロゴロ言うマルに、羨ましさを感じながら撫で続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます