第4話 ライン

同じクラスの女子4人で話すようになって以降、井口君が話しかけてくることはなくなったんだけど、当たり前のように私の席に座り、鈴本君や同じクラスの佐伯君、A組の中尾君たちと話をし始めるように。


軽いうっとうしさを感じながらも、なるべく視界に入れないようにし続けていた。



そんなある日のこと。


選択授業のために、結衣子ちゃんと美術室へ行くと、そこには井口君のグループが…



結衣子ちゃんと二人で並び、井口君たちとは真反対の、空いている席に座ると、井口君のグループは、なぜか私の隣に移動してきた。



「若菜ちゃん、ラインやってる?」


何気なく切り出してきた結衣子ちゃんの言葉に、井口君たちの会話が途切れる。


嫌な気配をヒシヒシと感じながらも、小声で結衣子ちゃんに答えた。


「…まぁ、一応」


「ID交換しようよ!」


結衣子ちゃんがポケットからスマホを取り出し、私の目の前に差し出すように向けてきたんだけど、目の前には5台のスマホが…


どう考えても、目の前に差し出されたスマホの数がおかしいことに、ため息が零れ落ちた。


「どさくさに紛れて交換しようとするのやめてください」


はっきりと言い切ると、井口君は悪びれる様子もなく、ごくごく普通に答える。


「別によくね? 知らない仲じゃないじゃん」


「良くないです!」


「んじゃさ、俺と佐伯はいいよね? 同じクラスだし、俺は隣の席じゃん?」


鈴本君は当たり前のように言い切り、完全に聞こえないふりをしていると、井口君が切り出した。


「んじゃ、後で鈴本から聞くわ」


「絶対嫌。 絶対教えません」


「なんでだって!」


「なんでそこまでして知りたいのか、全然意味わかんないし…」


「いろいろ知りたいから」


なぜかドヤ顔で言い切る井口君にため息をつき、あまりのしつこさにうんざりしていた。


「…わかった。 教える」


「マジで!? よっしゃ!」


「ただし! 4人とも速攻でブロックさせてもらいます」


「は? なんで?」


「ナンパ師グループと話すことなんてありません!」


「ナンパ師じゃねぇし! つーか、ナンパなんてしたことねぇし!」


「したじゃん! 入学式の帰り、しつこく番号聞いてきたじゃん!」


「あんなのナンパに入んないだろ!?」


「入ります。 見ず知らずの人に声かけて、しかも番号まで聞いてくるとか… 最低のナンパ野郎じゃん」


「あれは…」


井口君が言いかけると、チャイムが鳴り響き、井口君は苛立ったように口を閉ざす。



『ムカつく… ほんとムカつく…』



苛立ったまま授業が始まってしまい、教師の話を聞き流し続けていた。



授業を終えるチャイムが鳴り響くと同時に、井口君が切り出してきた。


「ちょっと付き合って」


「嫌です」


「なんでだって! ちょっとだけだって!」


「絶対嫌。 クズが移る」


はっきりとそう言い切った後、荷物を持って美術室を後にすると、結衣子ちゃんが駆け寄り、切り出してきた。


「若菜ちゃん… ちょっと言いすぎじゃない?」


「だってさ…」


「私、井口君たちと同じ中学だから知ってるんだけど、みんなナンパするような人じゃないよ? それに、あんな積極的に女の子と話してるところ、初めて見たから驚いてるんだよね…」


「嘘だぁ」


「ホントホント。 井口君、中学の時に結構モテて、何人も振ってたんだよね。 中3の2学期に初めて彼女ができたんだけど、1週間も経たないうちに、ラインで井口君から振ったって話だよ。 二人でいたことすらなかったって話だったなぁ… ま、私は話したことがないから、本当かどうかはわかんないけどね」


結衣子ちゃんの話を聞き、何も言えないままに教室へ戻っていた。



教室に戻り、次の授業の準備をしていると、スマホが震え、綾乃からのラインを受信していたんだけど…


突然、手に持っていたはずのスマホがスッとなくなり、すぐ近くにいた中尾君が声を上げた。


「ロック解除して」


「なんで?」


「康ちゃんがライン知りたいって言ってるから」


「嫌だ」


「はぁ? 何ケチケチしてんの? 別によくね?」


「良くない。 絶っっ対教えない!」


はっきりと言い切りながら、スマホを奪い返すと、中尾君はブーブーと文句を言うばかり。


「んだよ… せっかくラーメン奢ってもらうチャンスだったのに…」


「は? 人のラインIDで取引するつもりだったの!?」


「そうじゃなきゃお前のIDなんて興味ねぇし」


「…最低!」


綾乃からのラインを見ないままに、かなり苛立ったまま結衣子ちゃんの元に駆け出していた。

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