第2話 ナンパ
退屈すぎる入学式を終え、教室を後にしようとすると、隣の席の男の子が話しかけてきた。
「三浦若菜ちゃんでいいんだよね?」
「はぁ…」
「俺、鈴本っていうんだ。 鈴本弘樹。 よろしくね」
そう言いながら右手を差し出され、条件反射的に握手をしていた。
「なんか困ったことがあったらいつでも言ってね!」
鈴本君は握手をした後にそう言い、教室を後に。
『…変な人』
そう思いながら教室を後にし、玄関を出てすぐに男子生徒の大声が聞こえてきた。
「ねぇ! どこ中?」
男子生徒はこっちを見ながら大声でそう言い、周囲にいた大勢の女子生徒が足を止める中、男子生徒は近くにいた鈴本君と話し始める。
『…ま、私じゃないからいっか』
声をかけてきた男の子を気にしないまま、駐輪場のほうへ向かっていた。
自転車の籠にカバンを入れると同時に、ポケットの中に入っていたスマホが震える。
スマホの液晶を見ると、『綾乃』と表示されていた。
「もしもし? 若菜? 終わった?」
「今終わったとこだよ~」
「千絵から聞いたけど、ごはんどこ行く?」
「いつものファミレスでよくない? ドリンクバーあるし」
話しながら自転車を押して歩いていると、急にさっきの男子生徒が私の前に立ち塞がる。
何も気にせず、少しバックした後に男子生徒を避けて進もうとするも、男子生徒は進路を塞ぐように移動してしまい、その場から動けないでいた。
『なんか用ですか?』
そう聞こうと思っても、綾乃が話し続けていたから言うことができず。
綾乃と話しながら、どうにかして男子生徒を避けて通ろうとすると、その子は自転車の籠をつかみはじめた。
ハンドルを左右に勢いよく振り、なんとか振り払おうとしたんだけど、その子は手を離してくれない。
綾乃との会話を終え、ポケットの中にスマホを入れると、男子生徒が声をかけてきた。
「番号教えて」
「は?」
「ラインでもいいよ。 教えて」
初対面でいきなり言われた言葉を、聞こえないふりをしたまま何とか逃げ出そうとしたんだけど、籠をぎゅっとつかまれてしまい、逃げ出すことができない。
「番号教えてって言ってるじゃん。 つーか聞いてる?」
「なんでですか?」
「なんでってなんで?」
「なんでってなんでってなんでですか?」
真顔で聞き返すと、男子生徒は勢いよく吹き出し、嬉しそうに聞いてきた。
「やべぇ… 三浦若菜ちゃん、めっちゃ面白いね?」
完全に聞こえないふりをし、その場を去ろうとすると、今度は両手で自転車の籠をつかんでくる。
「離してください」
「番号教えたら離してあげる」
「嫌です」
「だからなんでって聞いてんじゃん?」
「知らない人に教えられるわけないじゃないですか」
「同じ学校じゃん。 知ってる人になるじゃん」
「嫌です。 知りたくないです。 帰らせてください」
「嫌です。 教えるまで離しません」
周囲の男子生徒は笑うばかりで、助けてくれようとはしないし、近くを通る生徒たちはクスクスと笑いながら通り過ぎるばかり。
「もぉ! 初対面でいきなりなんなの!?」
「教えてくれたら離すって言ってるじゃん!」
「名前も知らない人に教えられるわけないでしょ!?」
「1-Dの井口康太。 これでいいだろ? 教えて」
「嫌だ! 離して!!」
「約束が違うじゃねぇかよ!!」
「約束なんてしてない!! いいから離して!!」
必死に自転車を振りながら口論になっていると、校舎から教師の一人が飛び出してきた。
「井口! 何してんだ!!」
教師の怒鳴り声と同時に手が離れた瞬間、勢いよく走りだし、その場を後に。
『あの人マジでなんなの? 初対面でいきなり番号聞いてくるとか… あれってナンパじゃん! 今日、高校生になったばっかなのに、慣れてる感じがしたし、ホント最低…』
苛立ちを抑えることができず、自転車を漕ぐ速度が速いまま、自宅に向かっていた。
自宅についた後も、イライラが募るばかり。
『ホントなんなの? 初対面で番号教えろって… もしかして軽く見られた? 最悪! 今まで彼氏すらいたことがないっつーの!』
苛立ちながら自室に入ると、ベッドの上でペットの猫が仰向けになって寝ている。
『もー!!!』
苛立ちをごまかすように、猫のお腹に顔を埋めていた。
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