マイナスからの恋

のの

第1話 苦い思い出

「若菜さ、明日の入学式の後って暇?」


「特になんもないよ~」


「綾乃誘ってゴハン行こうよ」


「ん~ いいよ~」


「んじゃ、入学式終わったら電話するわぁ~」


「は~い」


千絵との電話を切った後、時計を見ると23時を過ぎたところ。


大きく息を吐き、ベッドに潜り込んでいた。



つい数週間前に卒業式を終えたばかりなせいか、正直、『高校生になる』ってことが信じられない。


『千絵と綾乃がいない高校生活かぁ… どんな感じなんだろうなぁ…』


期待と不安を胸に、目を瞑っていた。



翌朝、普段と変わらない時間に起床し、朝の準備を終えた後、自転車にまたがる。



中学の時は徒歩通学だったけど、高校になってからは自転車通学。


電車通学も少し憧れていたけど、学校が駅と自宅の中間地点にあったため、自転車か徒歩通学の選択肢を迫られ、自転車通学にしていた。



学校につき、駐輪場に自転車を止めると、背後から女の子の声が聞こえる。


「若菜、おはよ!」


振り返ると、自転車を押す愛子の姿が視界に飛び込んだ。


嫌な記憶を思い出さないよう、小声で挨拶を返す。


「おはよ…」


「何? 元気ないの?」


「…寝不足なだけ」


「ふーん。 早くしないと遅刻するよ!」


愛子はそれだけ言うと、さっさと駐輪場を後にしていた。



『愛子に会うまでは元気だったんだけどね…』


周囲にばれないように小さくため息をつき、玄関に向かっていた。




愛子は中学が一緒で、部活も同じ軟式テニス部。


ダブルスの時はペアを組むこともあった。


別の学校に通う千絵と綾乃の4人、クラスは別々になっても、いつも一緒にいた。


中学生活最後の試合の時、私は綾乃とペアを組み、愛子と千絵がペアを組んでいた。


愛子と千絵は一進一退の攻防を繰り返していたんだけど、前衛の愛子が取り損ねたボールがラインギリギリに落ち、千絵が対応しきれないままに、愛子と千絵のペアは初戦敗退。


そのことが気に入らなかったようで、愛子は千絵の目の前で文句を言いまくり。


『愛子が反応できなかっただけじゃん』


そう言いたいのをぐっと抑え、初戦敗退していた私と綾乃で、愛子を必死に抑えていたんだけど、この一件以降、千絵は愛子を避けはじめ、廊下ですれ違っても声をかけることはなく、絶縁状態に。


なんとか二人を仲直りさせようと、愛子を廊下に呼び出し、綾乃と二人で頑張っていたんだけど…


「はぁ? 千絵が逆ギレしてるだけでしょ? 試合前なのに太ってきたみたいだし、体が重くて動けなかったんじゃないの?」


愛子は勢い余ったように容姿のことまで大声で言い始め、トイレにいた千絵の耳に入ってしまい、修復不可能な状態に。


あと少しで卒業だから、また4人で仲のいいまま卒業したかったんだけど、諦めることしかできなかった。



そんな愛子は、中学の卒業式を終えた後、綾乃までもを怒らせてしまった。


私がずっと片思いをしていた健太君を、公園に呼び出すことに成功し、『いざ告白!』と思っていたんだけど、卒業式が終わった後、愛子はなぜか私に付きまとい続けていた。


愛子に早く帰るよう言い続けている最中で、健太君がその場に現れたと思ったら、愛子は健太君に駆け寄り、いきなり切り出した。


「ずっと好きだったの! 付き合ってください!」


何が起きたのかわからないまま、ボーっと健太君のことを見ていると、健太君は横目でチラチラと私を見ながら答えていた。


「…別にいいよ」


『…え? いいよ? え? 愛子が告白? 呼び出したのは私だよね? え? どういうこと?』


突然のことに、何が起きたのかもわからないまま、二人は公園を後に。



しばらくその場から動けないでいると、千絵と綾乃が駆け寄り、私のことを心配する声をかけてくれていたんだけど、綾乃は一部始終を見ていたようで、今まで見たことのないくらいに大激怒。


「マジあいつ何なの? ありえなくない? ホントマジふざけすぎてんでしょ!?」


普段おとなしい綾乃の激怒っぷりを見て、呆気にとられるばかりだった。



その後の事はほとんど覚えてない。


ひたすら泣いて、千絵と綾乃に慰められて、後悔して…


気が付いたら毎晩のように、千絵と綾乃のどちらかと、電話で話し続けていた。




『なんで卒業式後に告ろうとしちゃったのかな… せめて、高校が決まる前だったらよかったのに…』



掲示されているクラス表を見て、ため息が零れ落ちる。


A組からH組までの全8クラスある中で、私はC組で愛子はH組。


千絵との一件以降、まともに話していなかったし、卒業後に顔を合わせるのも今日が初めてだったんだけど…



『同じクラスじゃないだけマシか…』



ため息を押し殺しながら『1-C』と書かれた教室に入り、退屈な担任の話を聞き流していた。



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