ウォーターサーバー 理性 YouTube
引っ越しをするとウォーターサーバーの設置代が無料だったためお願いした。進学を機に一人暮らしを始めたのであるが、都会の水道水は不味くて飲めないと噂だった。毎月送られてくる水代だけならば……、と思い家に設置したこいつだが、毎月も送ってもらうほど私は水を飲まなかった。サイトによると、配送の頻度を設定できるらしく、2ヶ月に1回へプランを変更した。
ミネラルウォーターがあるのだし、と水道水は料理や食器洗いにしか使わなくなった。水道代がこれで安く上がるのかと聞かれれば、水代を考えるとどっこいどっこいだ。
大学に入ってすぐに、私はビリヤードのサークルに入った。勧誘してきた先輩がタイプだったからだ。
なんやかんやあって、サークルに所属して数ヶ月、幸せな事にその先輩とお付き合いをする事になった。しかし、先輩は実家暮らしで、私は一人暮らしの上、大学の近くに住んでいるから先輩は半同棲生活のように私の家に入り浸るようになった。
暮らし始めは良かった。一緒に居る時間が多くて幸せだった。けれど、時間が経つに連れ、彼のだらしない部分が目に留まるようになったり、私の家にばかり居るくせに、家賃の負担や食費の負担も、何も考えずに好き勝手過ごしているのが少し、いや、だいぶ嫌になってきていた。
彼はよく水分を摂る人だった。実家にはウォーターサーバーはないらしく、私の家にいる時はそこからガブガブと水を飲んでいた。いつの間にか、水の注文も毎月のプランに変更する事になって、私の家での生活のお金は全部私持ちだから、実家からの仕送りだけじゃ心許なくなってバイトを始めた。
体の良いバイトがしたかった私は、歓楽街でバイトを始めた。昼間は大学へ行き、夜はバイト、そんな生活だ。夜、家には彼が独り、そう思っていた。好きだったからバイトも頑張れた。
とある日の朝、家に帰ると、玄関に見慣れないスニーカーがあって、彼の友達でも来ているだろうか? いつもは連絡や写真をくれるのに不思議だな、と思いつつ部屋へ入ると、彼は私のベッドで、同じサークルのメンバーの女の子と寝ていた。しかも互いに全裸で。
部屋に人が入ってきたと言うのに、二人共起きる気配はなかった。簡単に部屋を見渡すと、酒や食べ物で散らかったテーブルと、使用済みのコンドームが幾つか散乱していた。
私はヒュッと心臓が引き締まって、音を立てないように家から出る事にした。今日は土曜日。昨日の夜にでもあの子を家に連れ込んだのだろう。まさか彼が浮気をするような人だとは思えなかったけれど、人間、どんな裏の顔があるか分からない。
今まで、男友達を連れ込むたびに写真を送ってきて、私を安心させていたのは、さぞ浮気なんてしませんよ~、なんていうカモフラージュだったのかもしれない。
早朝から開いている駅前のスタバに入った私はソイラテを飲みながら彼にLINEをする
『ごめんねー、今バ先の先輩とお茶してるからもう少ししたら帰るー!』
そう送ると、10分後くらいに
『りょ! ゆっくり楽しんで帰っておいで~』
と返信が来た。きっと、女の子を帰して、部屋の掃除をしたりするつもりだから、ゆっくりしておいで、だなんて言うのだろう。
バイト先の先輩となんてお茶していませんよ。私は、全貌を見た後、自分の心を落ち着けるために一人でお茶をしているんです。そもそも、バイト先の他のキャストの子とはほぼ喋らないから先輩だーとか、友達だーとか、いないし。
ソイラテを飲みながら、少し大学のレポートについて考えた私は、家へ戻る。まだ部屋の片付けが終わってなかったら嫌だし、彼に
『家に鍵失くしちゃったからインターホン鳴らすから開けてね泣』
とワンクッション置く事にした。
家に着き、インターホンを鳴らすと
「おかえりぃ」
と笑顔の彼が出迎える。さっき見たスニーカーはもうない。無事に私の帰宅前に諸々の処理が終わったんだろう。
「ただいま、ごめんね、急に帰りが遅くなって」
嘘。
「大丈夫だよっ、お疲れ様」
彼は私を優しく抱き包むと、一緒に部屋へ戻った。部屋はゴミさえなくなっていた。女の子に持ち帰らせたのだろうか? それはそれでなんか酷いけど、用意周到だなと思った。
二人でベッドに座り、YouTubeを見る。彼の好きな動画投稿者が新しい動画を出していた。私も彼もプレミアムには入っていないから、今じゃ当たり前の、動画の前の広告が流れる。ダイエットサプリの広告だ。出だしは主人公の女性が旦那の浮気を目撃する所から。それを見て私は今朝の光景をフラッシュバックする。
今座っているこのベッドで、彼は何回、何人の女の子を抱いてきたのだろう。いつから私の部屋はヤリ部屋になっていたんだろう。そう考えると気持ちが悪くなって、ベッドには座っていられなくなった。
紅茶を淹れて、テーブルに向かおうとするが、彼が「俺も水飲む~!」と言うものだから、結局、彼の水も持って、ベッドへ向かう。ベッドサイドのテーブルにマグカップが2つ。彼はYouTubeを見ながら水を一気に飲み干す。
「ねぇありさちゃん……」
彼の横に座っていた私の名前を呼ぶ。甘ったるくて、セックスの前の声だ。
「うん」
彼は知らないだろう。私が今日、貴方の浮気を知った事を、それでも尚黙っている事を。だって、貴方の見た目が好きで付き合っているんだから、分かれたくない。バイトもこれからも頑張る。いくら私が都合の良い存在になったとしても、貴方の今の、その声と見た目には、理性が吹っ切れてしまうから。
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