浴槽 遁世 登校拒否
気付けば中学生の頃から不登校だった。理由が当時は分からなかったけれど、今は、周りに馴染めないのはADHDだというはっきりとした理由がある。
大学まで進学したはいいものの、結局行けず仕舞いで、学費は両親に払ってもらっているから尚の事申し訳ない。
私の家庭は恵まれていた。両親が居て、父が母を養って、子供は私しか居ないけれど、それで両親はきっと十分だったのだろう。たくさんの愛情を注いでもらって生活してきた。
不登校だった私に、両親は何も言わなかった。中学高校と、好きなゲームを買ってくれたり、私にできる事だけをさせてくれた。けれど、大学に上がる前に、流石に一度精神科で診てもらおうという事になって、診断を受けたのがADHDだった。私には努めて笑顔のままで居た両親だが、きっと自分たちの子供が病気だった事に多少の驚きを感じると共に、私の周りへの馴染めなさに理由があった事に少し安堵していただろう。
学期が変わっても相変わらず、大学への登校拒否が続いているし、バイトもしていない。隠居と言うか遁世と言うか、ただの怠惰のようだが、私は何もできない。
家の金銭の管理は母がしているのだが、最近はよく、財布から万円単位でお金をくすねるようになっていた。それだけの額だ、気付かない訳がない。それでも母は私に何も言わなかった。しかし、最近父に「パートに出ようか迷っている」と相談しているのを耳にした時があった。きっと父にも言わず、母1人で抱えているのだろう。
本当に出来損ないの娘でごめんなさい。引きこもりで、部屋から出ないで、食事すら家族ととる事はほぼなくて、毎日アニメにゲームにどっぷりで、ごめんなさい。
あの相談を聞いた数週間後から、母が朝から夕方までパートに出るようになった。8時間勤務だ。パートと言っても、もう普通の社会人と変わらないじゃないか。全部私のせいだ。
私がお金を使い込まなければ、母は専業主婦で居られる程度の収入はあるんだ。
朝9時。両親共に居なくなった家で、一人ぼっちやっと部屋から出る。リビングへ向かうと机に私の朝食が用意してあった。そしてメモ書きも添えられて。『たまにはご飯食べてね』母の優しさに涙が伝うが、食欲なんて、あの時を境になくなってしまった。元々太り気味だった私の体重は、ここ半年で20キロ以上落ちている。それも快感で堪らなかった。食事がほぼいらない、眠らなくていい、疲れを感じない。そんな生活を私は手に入れていた。
1グラム1万円のバスソルト。浴槽にお湯を張り、一週間ぶりの風呂に入る。髪の毛はギシギシで、2,3度シャンプーをしないとサラサラにはならなかった。丁寧にトリートメントを終え、しっかりと身体を洗って浴槽に入る。
最近風呂の度に持ち込むソレは、風呂に溶かすものではない。アイスやら、スピードやら、そんな名前でも取り扱われている。私はそれをいつもSNSで購入している。
注射器を使って、ソレを体内に入れた私は、深く深呼吸をして、頭の先までお湯に浸かる。だんだんと息が苦しくなってきて、ぷはぁと顔をあげる。
これが私の遁世。逃げ惑うだけの生活の言い訳。ボロボロになっていく身体と静かに終わっていく怠惰な時間潰し。
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