第一章 俺ってば無双主人公だったんだよ!

第1話 魔法剣士だった俺の話 1

 俺は転生者だ。


 このおいしい設定だけで俺は主人公の素質が充分なはずである。


 転生する前は、エシュケティットと呼ばれる国の魔法剣士だった。

 自分で言うのもなんだが、俺は超ド級に強かった。

 その上、超ド級にイケメンだった。

 おまけに高身長、まつ毛ばっさばさの青い瞳に金髪サラサラヘアーときたもんだ。


 どんな街や村に着いても真っ先にこなすイベントは、俺がへなちょこ優男だと思い込んで絡んでくる荒らくれ冒険者やチンピラを軽くいなすことだった。

 力任せに一直線に突っ込んでくるゴツいおっさん達をひらりとかわし、魔石が何個か埋め込まれた剣の柄の先で頭をコツンと叩いて気絶させるのが、いつもの俺のやり方。

 魔法を使うまでもない。

 もちろんイケメンだから、女の子の熱い視線を感じたが、俺は誰も誘わなかった。

 超ド級のイケメンだったが、超ド級に奥手だったのだ。

 自分のヘタれぶりに今でも夜になるとベッドの中で悶々と後悔している。


 俺はエシュケティットの第四王子によって集められた魔王討伐パーティーの一員だった。

 勇者の証の痣を持つ第四王子。騎士。剣士。弓使い。魔道士。僧侶。エルフの精霊魔道士。ドワーフの戦士。ハーフリングの盗賊。拳闘士。召喚士。獣使い。侍。忍者。吟遊詩人。踊り子。

 そして魔法剣士の俺。

 全員レベルカンスト。

 俺は美形魔法剣士として、王子の良き友として、魔王探索の旅で次第に名を馳せていった。


 旅は八年に及んだ。四大魔族将軍を次々と倒した後、ついに魔王の首を討ち取り、魔族の国を殲滅させることができた。


 長く苦しい試練を乗り越えた俺達はお互いを褒め称えた。

 全員満身創痍ながら国への帰路の途中、ある森で野営の準備をしている時にそれは起こった。


 俺と剣士は食料調達のため森の奥に足を運んだ。

 パーティーの野営地から千歩離れた大木が密集した暗がりの中、突然背中から何かがぶつかった衝撃を感じた。

 自分の胸の中心から赤い色の何かが飛び出してきたのが見えた。

 刀身だった。


「や、やってやったぞ……」


 背中から聞こえてきたのは、剣士の声だった。

 俺は何が起きたのか把握できず、自分の胸から突き出た分厚い刀身をぼんやりと眺めていた。まとわりついたものがぬらぬらと垂れていた。俺の血だった。

 そこかしこから出ている炎のようにうねった突起に見覚えがあった。剣士の魔剣だ。


「な、なんで……」


「国に帰ったら確実に王子の次に英雄扱いされるてめえが目障りなんだよ」

 

 あんなに憎々しげな剣士の声を聞いたのを初めてだった。


「そんな……ことで……」


「死んでくれればてめえに行く爵位や領地が俺の物になるんだ。俺にとっちゃ人生の成り上がりのための大事な決断だぜ?」


 魔剣が体から引き抜かれた。

 穴の開いた胸から血飛沫が吹き出した。俺は前のめりに生い茂った草の上に落ちるように倒れた。

 普段の俺なら同時詠唱で剣士に反撃しつつ、血を失わないように自分にヒールをかけただろう。だが何年も苦楽を共にし、戦友だと信じてきた剣士に殺されるほど憎まれていたと知ったショックで頭が回らなかった。


「友、だと、思って、た……」

 

「すまねえな。俺は会った瞬間からてめえのことが大嫌いだったよ。顔がいいだけじゃなく実力もあって、俺がどんなに努力しても注目を集めるのはいつもてめえだ。その場で殺してやりたいのを魔王を倒すまで必死で我慢してただけだ……」

 

 こんな男を心の友だと信じていた俺はどれだけ間抜けなんだ。

 生暖かい液体が服に染み込んでくる。出血が止まらないようだ。

 体がどんどん冷たくなり呼吸がしにくくなってきた。

 血の量からして剣士は俺の心臓を寸分違わず貫いたようだ。

 ふいに首筋に冷たい感触がした。

 

「さて、ずっと腹の底で溜めに溜めていたことも吐き出せたし、仕上げに首を落とすか」


 首に重く鈍い衝撃して、目の前が暗転した。

 斬首されたのだろう。俺は死んだのだ。

 視界が真っ白になった。

 もうあの世に到着かと思ったが、ところがどうやらそうではなかったらしい。

 右腹に強烈な魔力の発動を感知したからだ。

 空間能力付きの腰下げバッグの中から異質な魔力があっと言う俺の体全体を包み込んだのを感じた。

 この魔力の波動、思い出した。

 何年も前に腰下げバッグにしまった小さなスクロールだ。

 そういえば、転生魔法が記されたスクロールをダンジョンでもらったんだった。

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