機巧蛇オタフクと、友好的にしてくれている国へ遊びに行った。

 でも、まさか、捕まって幽閉されるとは。



 ● ● ●



ようか、とねっとりした響きで呼ばれた。醜く肥えて、尚も渇いた手が僕の柔肌を撫でた。僕の体をまさぐり、痛みも消えぬ間に貫いた。

 其だけでは足りないと、僕の全ての指を折った。

 其だけでは足りないと、僕の両腕も折った。

 堪えようとしても溢れる僕の悲鳴を聞いて、豚以上に醜い神経を持った男は悦び、もっと、もっと欲しい、と僕を厭らしい目で見下ろしていた。

 鉄よりも硬化の高い拘束具は、慣れたとなげやりになるには足らず異物的で、地の下にある男も国も、目にいたいほどの高価な宝石も、素直に気持ち悪いとしか言いようがなかった。

 土と檻の中は飽き足る程に長く感じて、僕ができることと言ったら、毎日毎日男の醜い悦びに付き合いながら、ぼんやりと、自分の幸運の花が現れる時を待つことだけだった。

 花が美しく咲き誇ってくれるか、惨めに散って終わってくれるかは未だ分からないけど、僕は、どっちでも良いんだ。

 ただ、僕は何となくの悪い予感と僕だからこそ知り得ている事実で、嗚呼、また生き残るのだろうと、虚ろ虚ろにでさえ思わずにはいられなかった。

 意識が落ちて戻らなくなりそうになっても、今までの奇跡とも言える生還が脳裏に過り、その通り、と笑ってしまいたくなる程に僕は、未だ絶望的な生の中に閉じ込められていた。

 足を片方落とされ反射的な絶叫で空間を裂いても、いや、生きているからこその絶叫だったのかもしれないし、そんなことをしても、どんな自由の光も決して僕に射すことはなかった。

 けれど、僕は嗤った。

 豚野郎にじゃない、この惨めな僕にすらない、時の流れでもなく、運命に自虐的した訳でもなかった。

 僕は、『確信的な希望』と言う名の絶望に嗤っていた。

 自由な花は確かに僕の未来に咲いてしまうのだろうと理解してしまったから、さあ。

 その糞性癖で、早く僕のもう片足も切り落とせ。


「ぐ、あ、あぁ、あああ、あああああ!」


 両足を失って、込み上げてくるのは痛みではなく力だった。

 叫びきった僕は、紫の瞳で敵を睨み付ける。


「な――」


 敵は、石になったように動かなくなってしまった。


「……オタフク、聞こえてるでしょ、僕を助けて地上まで運んでよ」


 通信機ではなく、魔力で機巧兵を呼ぶ。

 足の機械で封印されていたけれど、僕は本来、蛇を象徴に持つ魔人だ。両親は国を潰されたから、人間の国で生きようとしただけ。

 だから、僕も人間として生きてみたかった。

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