月光
月が特別大きい夜のこと。
瀕死の状態回復した僕は、かやねからの"お願い"で、すぐに機巧蛇オタフクと戦場に戻っていた。
「"八日"様、お怪我はもう大丈夫なのですか?」
明るく照らされた平地には、似つかわしくない赤が、赤が、赤が……広がっている。
僕は岩に座りながら、血がこびりついた鎖を落とさないように握りしめ、ぼんやりと、血溜まりに囲まれたその無垢な黄色を、汚れていない白を、見ていた。
……帰ったらかやねに錆を落として貰わないと、なんて、考えたり。
「大丈夫だけど……お前、何で実験室じゃなくて此処にいるの?」
「"カミサマ"と出会う為にと、研究員様達からのご教授です」
「天使実験の事情を知ってるみたいだけど、それも良いのぉ?」
「夕樹かやね研究員は仰いました、"外こそ天使の断罪が必要だ"と」
「ふぅん、でも、僕みたいな見張りは必要なんだねぇ」
片翼はないのに、もう片方は二つも生えている、軍服ワンピースの天使様だ。髪をツインテールに縛り、象徴の花で飾っている。
僕がこの天使を前に生きているのは、僕らは味方同士だからだ。
「それでも、ワタシは嬉しいんです、"月"からカミサマも見守ってくださってますから」
「"月"ぃ?」
「はい、"月"はワタシのカミサマです」
そう言って、天使は綺麗なまま僕に微笑んだ。
『罪を数えよ』
「……オタフク、そんなの」
「"八日"様、アナタに罪はありますか?」
「……よーかに聞くのぉ? あるんじゃないの、いっぱい、……いっぱいさぁ。僕はズルい奴だよ、だって、味方すら断罪されてしまえばいいと思ってるんだから。『
敵も自分も味方も、皆今すぐ死んじゃえばいいのに。
大切な人達の笑顔が浮かぶ。
守りたい、失くしたくない、でも、ぐちゃぐちゃに塗りつぶして今という全てを無かったことにすれば、きっと皆も心から笑えるようになる。それができるのは、カミサマだの天使だのの天国か、はたまた死者が煽りに来る地獄か、それとも全く関係ない来世かは分かりそうにない。
どうでもいい。僕にとって今という現実が消え失せてくれればそれで良かった。
「"八日"様」
気付いたら、飛べない天使が近くまで来ていた。
その白を赤く染めて、こんな僕に手を伸ばして、触れて、尚も綺麗に笑う。
「私がもし本当の『神様』を見つけて、この世界を見放す時が来たら。かぐや姫のように、月へ還る時が訪れたとしたら。私は赦さず、貴方と
「『
「では、『陽花』様、私と貴方の願いが叶うよう、いつでも祈っています。月は、太陽が見ているからこそ輝きを保てるんですよ」
僕は月を見上げ、彼女のように祈ってみた。
"全ての滅亡、を"。
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