弾ける火花
「八日様、対象にあまり乱暴な真似は……」
「うるさい。いいでしょ、僕は遊びたいんだから」
よーかは、かやねから部下ごしに捕縛した敵を渡すよう頼まれていた。
落ちていた小刀を拾い上げ、それを一振りして怪しく笑う。目の前には龍華の敵が揃いも揃った姿でこちらを狙い、ふらふらと足を向けて来ていた。
既に枷を外していた足で地を蹴ったのを合図に――よーかは一瞬で間合いを詰め空中で銀の光を舞わす。鮮やかな線を無差別に与え少々の動きで新たな体勢を取る。敵が大口を開けきるより早くその皮を裂いて――咲いて――
「お前らに恨みはないけどさぁ……道封鎖してるからやっぱ死ね」
「八日様!」
「何だよ!黙ってられないなら先にその口で遊ぶぅ!?」
かやねは部下を遣わせながらご熱中モード。……羽翠は何をやっているのか。
「わ、私は傷口が回復するような能力を持ち合わせていません! 八日様も」
「うるさいって言ってるでしょ!」
よーかは元いた地点に戻ると、彼の部下の軍服を掴んで引き寄せた。長い前髪の奥に潜む目で冷たく睨み、口角のみを大きく歪ませる。
「そんなに喋りたいなら喋らせてあげよぉか」
遠慮もなしに相手の腕を貫通させ。
「ぐぁぁあああああぁああ」
「キャハッ、ハハッ、ハハハッ!」
引き抜いて軍服の白に赤い落書きを施す。
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「帰ったらかやねに言っておいて。渡した分だけちょーだいよぉってね」
よーかも人間だ。兵器と並べるような殺傷能力は持ち合わせていない。しかし、だからこそ傷つけて遊べるというものだ。殺して終わりでは詰まらない。
地面へ落とした彼の部下の代わりに持参していた拘束具を掴み、身体を舞わせて敵へと向き合う。尚も口元を食べたそうに動かす敵の元に戻って鎖を派手に鳴らした。
「それができるなら遊び続けてあげる!」
慣れた動きで首輪を嵌める。弾んだ動きで目隠しを与える。軽快な動きでベルトをきつく重ねる。隙のない動きで猿轡を付ける。無駄のない動きで手錠をかける。いつもの動きで最低限の神経に傷を付ける。
気付けばすっかり拘束具だらけになった敵を遠慮のない動きで蹴っては転ばせる。念を入れた動きで身体中を縛り上げる。ついでにと言わんばかりの動きでりぼん結びを施してみたりする。少々やり過ぎたが問題はないだろう。
「捕縛かんりょぉ」
何事もなかったようにいつもの調子を浮かべ、敵に繋がる鎖をしっかりと揺らしながら主張した。
よーかは自由でありたい。自由に遊んで、自由に捕まえて。いけないことも気の向くままにしたいのだ。
「……」
ふと、脳裏過ぎった姉の姿に黙り込む。
戦争前に見たが、何とも言えない。少なくともよーかは関わる気がなかった。
ようかは姉のことが嫌いであり、それ以上に好きなのだ。守られている姉がくだらなく、だが、弱い姉は一生守られたらいいと思う。
自身は危ないのを分かっている上に仕方がないと認識していて、一度救ってもらった命だからこそ、あえて自由に扱いたいとも願っている。
死ぬのは当たり前、それがこの世界のルールだ。
「よーか行くから。かやねによろしくぅ」
辺りを見回し、外れにある道を見つけた。あそこを通れば比較的安全に戻れるだろう。此処は味方のいる場所からも離れすぎている。
軽快に手を振って歩き出す。機巧蛇や残りの荷物を何処に置いてきただろう、と記憶を探り、いいやと答えが見使える前に放棄した。
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