「おはようございます!」


 いつも笑顔のお姉さんが毎日部屋に来た。黒い髪と翡翠の目、そのちょっと奇抜な服はカワセミモチーフらしい、分かんないけど。

 機械のブーツを履いて、翼のエフェクトを広げて、元気に空中を移動して、よくお手製のご飯を届けてくれた。美味しかった。空いた時は料理とか教えてくれた、凄いと言って褒めてくれたことが誇らしくなった。

 屈折しないその笑顔がよく分かんなかったけど、"他"と比べたらマシだった。

 ちょっと変で、カワセミって自称していた、十隼羽翠とおばやうすい。この人には、感謝している。

 それだけじゃない相手だっただけど……だから、認めることはなかったけど。



 ● ● ●



 僕は陽花ぼくを捨てた。僕は僕を、自ら"よーか"と呼んだ。僕の一部を機巧蛇オタフクに捧げて、僕も機械のフリを始めた。近付いてやって、体目当ての奴とは"イケないこと"に溺れてやった。

 自棄もあったのかもしれない。それでも、これが楽だったんだ。馬鹿の中で、馬鹿みたいに生きられた。

 だって、まさか、お姉ちゃんまで軍に来ているなんて思わないじゃないか。

 視界を横切った、ニワトリ帽子に……気づかれない位置で守ろうと思った。


 身につけている拘束具を全て取って、リュックサックを下ろす。中に仕舞いこみ、背負わず片手で持つ。息を思いっきり吸って、吐く。

 決して良いものじゃないけど、それでも、この空気は嫌いじゃないなぁ。

 くすりと笑みが洩れる。焼ける肉、混じる血、澱む地、それでも、解放感のある『外』を感じて嫌いになれない。自分にとって、"あそこ"よりよっぽど良いものだ。


「よーかの死体は持ち帰らせる気ないんだ、材料にも廃棄にもさせてやんない」


 そう言って、くすくすと笑い続ける。でも、その瞳は暗さが戻っていた。

 どうして同じ世界の人類なのに、嫌わなければならないのだろう。こうも醜いことをしているから、争いはなくならないのではないか。

 沸き上がる憎みに好感が入り混じって、笑わずにはいられない。

 兵器として望まれて作られる、機械の方が安心感すら抱けた。


「オタフク、行くよぉ」


 よーかは捕縛兵として、戦場を駆け抜け出す。その両足だけは、機械が埋め込まれていたけれど。

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