小ネタを三つほど

 今回でこのエッセイは終わりです。最後に小ネタを三つほどお伝えします。



(1)タイトルとキャッチコピー


 タイトルとキャッチコピーが目立つものだと、読んでみようかなと思う確率は高いですね。両者は適当なものではなく、しっかり考えて採用してください。


 でも、タイトルやキャッチコピーと内容が違う作品があったりします。たぶん、内容を無視して、目立つためだけのタイトルやキャッチコピーをつけたんでしょうね。だから、内容と合わなくなっているんだと思います。


 そういうのは読んでいくうちに冷めた気分になります。騙されたような気分にも……。僕はそういう作家さんの作品は、その後読まなくなったりしますね。


 目立つタイトルとキャッチコピーは大切です。でも、内容と合ったものにしてください。読者を騙すようなやり方はよくないと思います。




(2)登場人物の名前は区別しやすいものを


 言わずもがなですが小説は文字だけの物語です。映像や画像がありません。だから、登場人物を区別するのは名前だけになります。つまり、登場人物の名前というのは、登場人物の顔と同じです。


 ほとんどの小説には登場人物が複数出てきます。それらの人物の名前が似通っていると、人物の区別がしにくいんですよね。すると、登場人物が頭の中でごちゃ混ぜになって、物語が理解できなくなってしまいます。で、結果的に読むのをやめることも……


 名前のつけ方というのはとても重要です。名前を一見で区別できるような(登場人物を区別できるような)、そういう名前を考えてください。


 区別しにくい名前の代表は、やっぱり字面が似たものでしょうね。たとえば「岩木」と「岸本」は字面が似ています。こういう名前を同じ作品上の登場人物につけてしまうと、読者としてはややこしいものです。「岩木」と「児玉」のように字面が全然違う名前だと、区別をつけやすいです。


 それから、読み方が似ている名前というのも、案外ごちゃ混ぜになりやすいです。「伊東」と「加藤」は読み方が「イトウ」と「カトウ」です。こういう名前も避けたほうがいいですね。


 また、以下のような名前だと区別しやすく、読み手を混乱させずに済みます。


 「山本」と「長谷川」のように文字数の違う名前。「瀧澤」と「三井」のように画数がまったく違う名前。下の名前であれば「奈々美」と「アキ」のように漢字とカタカナの名前。このような名前を登場人物たちにつけておくと、読み手は一見で登場人物を区別できます。


 ラノベなんかだと登場人物の性格にちなんだ名前をつけているのもありますね。妄想ばかりしている登場人物に『夢見勝妄子ゆめみがちもうこ』とか。これだと登場人物がごちゃ混ぜになることはないでしょうね。


 それからキャラクターの特性と字の雰囲気を合わせて名前をつけておくのもわかりやすいです。ふくよかな人には「伊藤」よりも「福本」みたいな感じでしょうか。


 区別しやすい名前をつけるというのは、小説書くにあたってわりと基本です。でも、意外と知らない人も多いみたいです。区別しやすい名前をつけるようにしてください。




(3)情報の提示


 少し前に公開した『冒頭は重要1・2』にも重なるところがありますが、主人公の情報はなるべく早く読者に提示してください。特に性別と年齢は重要です。ある小説ハウツー本には単行本だと十ページ以内に提示するべきだと説明されていましたが、僕は十ページでも遅いと思います。できれば一ページ目に、遅くても三ページくらいまでには提示しておいたほうがいいと思います。


 書き手は主人公のことをよく理解しています。でも、読者は情報がゼロです。提示されるまで主人公のことがまったくわかりません。主人公の性別や年齢を早く提示しておかないと、物語の中で起きることが、違う意味で取られてしまう可能性があります。


 極端な話になりますが、主人公が母親のことを「ママ」と読んでいたとします。その主人公が十代の女性だと普通かもしれません。でも、四十代の男性ならどうでしょう? マザコン男性という可能性が出てきます。同じ「ママ」でも十代の女性とは明らかに違う意味合いが出てきます。このように性別や年齢というのは物語に深くかかわってくるものです。なるべくはやく提示しておかないと、物語が成り立たなくなることもあります。


 以前に読んだ作品で、僕は主人公を二十代の女性だと認識していました。セリフの雰囲気からそんな感じかなとそう認識してたんです。でも、中盤になって四十代の男性だとわかりました。それまで読んできた話が総崩れです。続きを読む気が失せてしまいました。


 「私」というのは男性でも女性でも使う人称です。「しのぶ」や「はる」という名前も男性でも女性でもあり得ます。書き手は性別がわかっていても読者はわかりません。人称や名前で性別が判断できない場合は、ちゃんと劇中で性別を提示してください。


 年齢ははっきり何歳と提示しなくても問題はないかもしれません。でも、十代半ばや四十代後半など、ざっくりとすらわからない場合は物語に支障が出ます。


 それと、季節も意外と物語に影響します。たとえば「ひたいの汗をぬぐう」という描写があったとします。夏だとただ暑いだけかもしれません。でも、真冬だとなにか理由があるはずです。緊張するなにかがあるとか、全速力で走ったあととか。季節によって行動の意味が変わることもしばしばです。季節の提示も早いに越したことはありません。


 読者の性別と年齢。できれば季節も。なるべく早く提示して、読者を混乱させないようにしてください。



<続く>


 



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