冒頭は重要1

 このエッセイは以下のような趣旨で書いています。文章の良し悪しや物語のうんぬん以外のところで読みにくい作品がある。それってもったいない。


 でも、今回はその趣旨からちょっと外れて文章に関係する話です。そういえば、前回の文章作法も文章の話ですよね。だんだん最初の趣旨からズレていっているような……笑


 ズレてはいるのですが、小説において冒頭部分はなによりも大事と言われますので、今回はそのお話です。冒頭がちゃんと書けていないと、続きを読んでもらえませんからね。


 WEB小説でよく見かける冒頭で、箇条書きのようなものがあります。以下のようなものです。


――――――――――

 俺の名前は鈴木太郎。年齢は十七歳。高校に通っている。ひとつ年上の姉とふたつ年下の弟。それに父と母。家族五人で築十年の木造住宅に住んでいる。

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 俺の名前は○○からはじめて次に年齢、そのあとにあれこれを箇条書き。WEB小説ではよく見かける手法ですね。


 よく見かける手法なのですが、嫌われる手法でもあります。こんなのは小説じゃないという理由で、読まないなんて人も少なくないそうです。僕はわりと箇条書きの小説でも普通に読みますが、いやがる人がいるのがわからなくもないです。


 ちょっときつい言い方になってしまいますが、箇条書きというのは手抜きした書き方です。情報を列挙するだけの書き方ですから、小説ではなく資料に近いものですね。文章におもしろみをつけるのも難しいですし、冒頭に重要とされる臨場感もありません(冒頭に臨場感が必要な理由は後述します)。


 前述の例文は自己紹介的な冒頭ですが、情景描写や状況説明が入る冒頭でも、箇条書きはいやがられる可能性があります。


――――――――――

 時刻は午後八時を過ぎていた。

 太郎は家の近くの神社にいる。参道にはたくさんの屋台が並んでいた。夏祭りが行われているのだ。金魚すくい、かき氷、やきそば。屋台目当ての人でごった返してた。

 太郎の隣には幼馴染の花子がいた。花子は太郎と同じ高校に通っている。涼しげな紫陽花柄の浴衣が似合っている。太郎は花子に気があるが、それはみんなには内緒だ。

 そんな花子が「ちょっと聞いてほしいことがあるの……」と話しかけてきた。

――――――――――


 以上のような箇条書きでも意味は伝わります。でも、臨場感がほとんどないですよね。そこで箇条書きをちょっと改良してみます。


――――――――――

 いつもであればこの時間の参道は真っ暗で、不気味さをほの匂わすほど人けもない。だが、今日は夕方頃から地元の人間で賑わっている。ごった返し状態とまではいかなくとも、注意して歩かないと人とぶつかりそうだ。文芸の神様だという書籍化明神しょせきかみょうじんを尊ぶ夏祭りが行われている。


 太郎は自宅から徒歩十分の書読かくよむ神社にいた。時刻は午後八時を少し過ぎている。


 せせこましい参道の脇は煌々とした屋台で埋め尽くされていた。しかし、そのほとんどが去年の祭りでも軒を連ねていた屋台だ。金魚すくい、かき氷、やきそば――太郎はこの代わり映えのしない書読かくよむ祭りに、幼馴染の花子と連れ立ってやってきたのだった。


 しかし、太郎は少しばかり戸惑っていた。


 太郎と花子はお互いのことをよく知っている仲だ。幼い頃から隣同士の家に住んでいるうえに、今春からは同じ高校にも通っている。しかし、知己であるにもかかわらず、今日は花子が別人のように見えるのだ。


(こいつ、こんなに可愛かったっけ……)


 隣を歩く花子にこっそり目を向けてそう思った。


 高校の制服姿ならいつものことで見慣れている。だが、今日の花子は細っそりとした身体に紫陽花あじさい柄の浴衣をまとっている。その涼しげな姿がやけに可愛く見えて、太郎はどうにも落ち着かない気分だった。


 そのとき、花子の目が突然こちらに向いた。ドキっとする太郎に花子はこう告げてきた。


「あのね、ちょっと聞いてほしいことがあるの……」

――――――――――


 僕は描写が苦手ですから仕上がりが微妙かもしれません。でも、箇条書きよりは臨場感が出たと思いませんか? え、出ていない? まあ、それはおいといて……


 短編なんかで文字数が限られているときは箇条書きでもいいと思います。あと、重要ではないシーンなんかも箇条書きでOKです。あえて箇条書きを使っているような作品もあって、箇条書きを戦略的に使うこともできます。例文にも金魚すくい、かき氷、やきそば――と箇条書きを少し残してみました。


 だから、なんでもかんでも箇条書きがダメというわけではありません。そこは勘違いしないでくださいね。ただ、なにも考えずに箇条書きを使うと、臨場感を失うだけになってしまうということです。


 小説における臨場感を簡単に説明すると、物語の中に自分がいるかのような感覚です。その臨場感が冒頭にあるといっきに物語に引きこまれるものです。感情移入にもつながります。だから、冒頭に臨場感があるかどうかというのはとても重要になってきます。


 冒頭で臨場感をだして読者を物語に引きこめば、続きも読んでもらえる可能性が高くなります。反対に物語に引きこめなければ読まれない可能性が高くなります。箇条書きでは臨場感をだせませんから、冒頭で使うさいは注意が必要です。


 ただ、「コンテストでは一次落ち確実」なんて言われたりもする箇条書きですが、カクヨムを含めたWEB小説ではだんだん許容されつつあります。


 登場人物や状況の説明は箇条書きでもなんでもいいから、とにかく早く済ませてほしいという意見も増えてきてるんですよね。必要事項をさっさと提示して、早く本題の物語を進めてね、ということです。もしかしたら、今後は箇条書きが主流になっていくかもしれません。



<続く>





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