第23話 ユキノリの手紙

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 ケンスケへ


 手紙、ありがとう。


 本当、手紙とか新鮮だよね。


 年賀状ですら、やりとりしたことなかったもんね。


 こっちは、変わりないよ。


 強いて言うなら、お父さんとお母さんが、すんごく仲良くなっちゃってる。


 この前なんて、リビングで抱き合ってたりしてて、

 流石に、僕がいる時はいちゃつくの禁止!って言ったら、

 しょんぼりしてたくらいに、仲良くなったよ。


 驚きだよね。


 あんなに喧嘩ばっかりしてた昔がウソみたいだもん。


 食事もね、一緒に食べるのが当たり前になったよ。


 学校の話とか、ご近所の話とか、お父さんの会社での話とか、

 たくさん、おしゃべりするようになった。


 たまにだけど、ケンスケんちのおじさんとおばさんを誘って、

 みんなでご飯食べたりしてるよ。


 おじさんとおばさんも、少し寂しそうだけど

 (言っちゃダメって言われてるから、ナイショね)

 変わらずに元気だよ。


 オルゴールの話、すごく興味深いね。


 僕も、そこまで色んな知識が必要なんだって、全然知らなかったよ。


 出来上がったものを見て、作った人がどう考えてそれを作ったか読み取る、なんて

 確かに魔法みたいだね。


 一生懸命、その人の気持ちに寄り添うようにして考えないと、出来なさそう。


 知識とか、技術以外に必要なんだろうね、

 ちょっとクサイけど、分かり合おうとする気持ちってやつ。


 僕も、ケンスケと言葉がなくても分かり合えるような関係になりたいなぁ。


 でもそうなると、怒ってる、とか、悲しんでる、とかも

 バレちゃうってことだよね。


 ちょっと複雑かなー。


 僕も、ケンスケの声聞きたいよ。


 ネットかなんかで見聞きした話なんだけど、

 人が一番忘れやすいのは、声なんだって。


 だから余計に、恋しくなのかな。


 僕はケンスケの声、まだ覚えてるよ!


 忘れちゃう前に、帰ってきてよね。


 僕も、ケンスケのこと好きだよ。


 フジタ ケンスケって存在が好き。(文字にするとスゴく照れるね)


 僕が気づいてなかっただけで、守ってもらうばっかりだった僕は、

 もうとっくにいなくなってたのかもなって思うんだ。


 自分でなんでも出来るようになったら、

 ケンスケから構ってもらえなくなるかもって、

 無意識に、自分で何もできないように振る舞ってたのかもしれない。


 でももう、そんなことないんだって、分かってるから。


 ケンスケは、どんな僕も好きでいてくれてるんだって。


 僕も、自分のことをちゃんと見つめて、

 ケンスケと対等に、ずっと一緒にいられるように頑張るからね。


 工房でのお仕事も、無理しないように頑張ってね!


 ケンスケと、たくさんおしゃべりできる日を、楽しみにしてる。


 大好きだよ、ケンスケ。


 愛してる。


 ユキノリより


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 ケンスケからの手紙を片手に、一気に返事を書き上げた。


 便箋から、ケンスケの匂いがするような気がして、

 香りを嗅いで、抱きしめてみる。


 変態じみている自分に笑える。


 だけど、こんなこともしちゃうくらいに、

 ケンスケに会いたいし、愛おしい。


 ケンスケが長野に発って、まだ一週間ほどしか過ぎていない。


 ケンスケと離れてみて分かったことは、

 好きな人と離れても、死にはしないってことくらいだ。


 何も手につかなくなったり、食事も喉を通らなくなったり、

 そんな少女漫画みたいな想像をしていたけど、

 全然そんなことなかった。


 すっごく、すっっっごく、会いたいけど。


 わりかし普通に生活している自分自身に、自分で驚いた。


 ケンスケと気持ちが通じ合っているという、安心感のおかげだろうか。


「俺は、ユキを守ることで自分に価値を見出してたかもしれない」


 出発前のある日、ケンスケに言われた時はビックリした。


 僕とケンスケは、共依存かもしれないんだ。


 そもそも、愛情と依存って紙一重らしいし、

 判断は難しいけど、一つだけ確信は持っている。


 僕はケンスケを確かに愛してるって。


 依存する気持ちもあるかもしれないけど、

 それを越えて、フジタ ケンスケを愛している。


 だから、考えないといけないんだ。


 ケンスケに寄りかかりすぎないように、

 ケンスケを振りまわしすぎないように。


 できるかな。


 存外、僕って甘えん坊だから。


 ううん、やらなくちゃ。


 ケンスケが頑張ってるんだから、僕も自立しなくちゃ。


 ……でも、自立って、何をもってして達成したことになるんだろう。


 社会人なら、経済的な面で自分の力で生きていければいいのだから、

 分かりやすいけど。


 僕とケンスケが目指すのは、精神的な自立っていうやつだ。


 前に本で読んだなぁ。


 自責思考と他責思考。


 その意味では、今こうして自分の改善を図ろうとしているこの状況も、

 精神的自立に向けての第一歩なのかも……。


 好きだから、一緒にいたい。


 それだけじゃダメだなんて、本当に人間って面倒だ。


 だけど、この面倒もケンスケと一緒に笑い合える日々のためだと思えば、

 安いものなのかも。


「大切な人ができたなら、その人と同じくらい自分のことも大切に」


 ケンスケのおばさんが、前に言ってくれた言葉がずっと心に残っている。


 自分も大切に、か。


 ケンスケと同じくらいに、僕は僕を大切にできてるかな……?


「あ、もうこんな時間だ」


 ケンスケからの手紙を枕元に置いて、眠ることにした。

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