第4話

 翌日は講義が休講だったが、何もする気になれず家でダラダラすることにした。


 父さんは仕事に、母さんも朝から親戚の家に行った。


 母さんが子供の頃にお世話になったという遠縁の人が地方から訪ねて来たらしく、

 今頃は昔話に花を咲かせていることだろう。


 にわかにコツコツと窓に何かが当たる音がし始めたかと思うと、

 瞬く間にドウドウと水が押し寄せる音へと変わっていった。


 通り雨なのか、かなり降っているようだ。


 母さんは帰るの遅くなるって言ってたし、雨に遭わないで済むかな……。


 父さん、傘持ってるかな……。


 無数に落ちてくる棒状の雨に包まれ、白く煙った町並を窓際で眺めていると、

 学校帰りらしいユキが走っている姿を見つけドキリとした。


 傘を差していないので、持っていなかったのだろう。

 ずぶ濡れだ。


 家はすぐそこだし大丈夫と思っていたが、いざ玄関に着いてドアに手をかけた後、

 ユキはモタモタと鞄や制服のポケットを探り続けている。


 あのバカ……。

 鍵忘れやがったな……。


 母さんから、ユキのおばさんが今日から一ヶ月ほどの予定で

 海外に行ったとは聞いていた。


 ユキのおじさんの海外赴任先に会いに行ったらしい。


 常に鍵を持っておく習慣のないユキは、

 うっかり鍵を家の中に忘れてしまったのだろう。


「ユキ!」

 玄関に出て、雨音に負けないように大声で叫んだ。


 気づいたユキが駆け寄ってくる。


 濡れネズミもいいとこだ。


「ゴメン、ケンスケ。家の鍵忘れちゃったみたいで……」


 知ってるよ。


「いいから上がれ、風邪引く。

 あと鍵、おばさんが万が一の時にって家にも置いてってるから大丈夫だぞ」


 靴箱の上に、預かっていた鍵を置いて言った。


「ごめん、助かる」


「ほら、これで拭け。風呂準備してくるから、ここでちょっと待ってろよ」


 タオルを手渡してやり、速攻で風呂を沸かしに向かった。


 ユキを温めた風呂に放り投げ、着替えを用意、

 濡れた床をササッと拭いて、靴は乾燥機にセットした。


 制服は……水は平気みたいだけど、

 高そうな生地だしクリーニングに出した方がいいな……。


 タオルではさんで叩くようにして水気を取り、ハンガーに掛けておいた。


 下着類は洗っといてやるか。


 よし、このあとは風呂上がりのユキに飲み物でも用意しよう。


 頭の中で次の段取りを考えていたが、

 ユキがさっき脱いだばかりのボクサーパンツを手に取った時、

 ようやく俺は今の自分の状態を思い出した。


 俺のバカ!! バカ!! 大バカ!!


 いつもの調子で世話焼いてナチュラルに家に招き入れちまった!!


 パンツはとにかく視界に入れないようして高速で洗濯機にブン投げた。


 ダメだ、考えるな俺。


 無になるんだ。


 さっきまで平気だったじゃあないか。


 思考とは別に、俺の目は浴室のすりガラス越しに見えるユキに向いていた。


 シャワーの水音に合わせて艶かしい肌色がモヤモヤと動いている。


 あかん。


 洗濯機のスイッチを入れて俺はリビングへ走った。


 動悸がひどい。


 あとちょっとの刺激でやばそうだ。


 こういう時は素数を数えるといいとか言うけど素数ってなんだっけ。


 記憶にないぞ。


 スマホで素数を調べる。


 素数とは、1より大きい自然数で、正の約数が1と自分自身のみであるもののことである。正の約数の個数が2である自然数と言い換えることもできる。1より大きい自然数で素数でないものは合成数と呼ばれる。 一般には、素数は代数体の整数環の素元として定義される。


 いやもうほんと何を言ってるのか解らん。


 これだから数学は嫌いなんだ……!


 諦めるな、まだ手段はあるはず。


 賢者、モードに、なる、方法……と。


 なになに、ホルモン……、プロラクチン……、射精後に分泌……。


 やっぱり抜くしか方法がないのか……?


 嫌々ながら、するりと股間に手をやろうとした時、


「ケンスケ」


「キャー」

 突然声を掛けられて奇声を上げてしまった。


「!?」ユキもビックリしている。


 でも俺はそんなユキを見て更に驚くことになった。


 ユキは首にタオルをかけた、下着だけの姿だったのだ。


「お前……、俺、着替え出しといただろ……?!」


「ああ、お風呂上がりで暑いから……。ねぇ、お茶もらっていい? 喉乾いた」


「お、おお……」


 茶を入れながら、本当に自分はどうしてしまったのかと改めて思った。


 ユキの裸なんで珍しいもんじゃない。


 今まで散々見てるし、ふざけてパンツ脱がしたりとかしょっちゅうだったのに。


「ほれ」


「ありがと」


 麦茶を一気に飲むユキの全身を、

 無意識に舐めまわすように見ていた。


 口の中に溢れた唾を反射で飲み込んでしまい、喉がゴクンと鳴った。


 股間がどんどんと熱を帯びるのが分かる。


 気をそらせようと、スマホを見るフリをすることにした。


「何見てるの」

 ユキがひょいと身体を密着させるようにして俺の隣に座ってきた。


 風呂上がりの良い匂いとしっとりとした肌の温かさを感じて、

 張り詰めていた糸が切れた。


 頭がよく働かないままユキを組み敷いていた。


 そうなると、もう、止められなかった。


「ケンスケ、何、痛い……やめろって」

 ユキはまたふざけてると思ったのか、笑いながら言う。


 だがすぐさま、俺の様子が普通じゃないと悟ったようで、青ざめはじめた。


 何か言おうとしたユキの口を唇で塞ぐ。


 舌を使って唇をこじ開け、ヌルヌルと舌同士を絡め口中を犯す。


「っ……うぅ……んっ……んん……プハッ!ケ、ンスケちょっと!」


 俺は無言で、光るほど白い首筋に唇を当てて吸った。


 ユキの肌から甘い味がするような気がして、夢中でしゃぶりつく。


 桃のようなうぶ毛しかない脇、可憐な桜色の乳嘴も丁寧に舐めて

 俺の跡を刻むように吸う。


「ねぇ、ちょっと、……ア……」

 俺を止めようとしていたユキが、普段は出さないような高い声で鳴いた。


 自分の声に驚いたようで顔を真っ赤にして恥じらっている。


 その仕草も声も、あまりにも可愛らしくて、もっとたくさん鳴かせたくなった。


 ユキの下腹部が膨らんでいたので下着をズラし、露出させた。


 まだ柔らかさの残るユキの大事なところを右手で撫でながら、

 ツルリとして綺麗なそれの先端に舌を這わせる。


「あぁっ……!? 」

 腰をビクンと跳ねさせて、

 ユキが戸惑ったような、驚いたような声を出した。


「ケンスケ……っ、ウソっ……」


 舌と手の動きを止めないまま、ユキの胸に左手を滑らせると

 いじらしい膨らみがしっかりと固くなっていたので

 摘んだり弾くようにして戯れる。


「あぁっ……ケンスケぇっ……」

 縋るような声で名前を呼ぶと、ユキは快感に負けたのか抵抗をしなくなった。


 右手の中のユキ自身はみるみる膨張した。


 一気に根元まで咥え、吸い上げながら動かす。


 俺の動きと合わせるように声を上げるユキが愛おしい。


 漏らす声に愉悦の色が混じりはじめ、ユキの細腰が緩く動きだした。


 男のそれとは思えないほどふわりと柔らかな太ももの間で、

 急がしく上下運動を続ける俺の頭にユキが両手をのばし、

 髪をクシャリと軽く掴んできた。


 指で敏感なところをくりくりと撫でながら、

 大切な袋を優しく口に含んで舌の腹で包み、ふわふわと動かす。


 好かったのか、それがキュッと縮んだかと思うと

 ユキは脚を指先までピンと伸ばし大きく体を反らせた。


 痺れたように震えがちなユキの両足をぐいと持ち上げ、

 足首に引っかかったままだった下着を取り払う。


 恥ずかしい体勢にユキが嫌がって身をよじるが、

 かまわず更なる秘密の場所をクイクイと舌で舐めていく。


 ユキは吐息にも恍惚を滲ませだした。


 固く閉じられた蕾を舐めつつユキの熱いそれをしごくと、

 今までで一番いい反応が返ってきた。


 咽び泣くようなユキのよがり声は、

 今までのどの女たちの声よりも俺を駆り立てる。


 すぐに、ガクンガクンと全身を痙攣させて

 ユキから勢いよく快感の証明が吐き出された。


 切ない声と一緒に、何度かに分けて跳ねるように噴いた。


 眉間に少しシワを寄せ、上気した肌を晒し

 荒く震える息遣いでぐったりとするユキの姿は、

 この世界のあらゆる猥褻物よりも性的で、

 美しく妖艶で、露骨に淫らだった。


 俺は汗ではりつき不快だったシャツを脱ぎ捨てると、

 もう痛いほどに熱く反り返り、待ち望んでヒタヒタに濡れた渇望の化身を掴んで、

 煽情的に閉じられているユキの後蕾にズンと押し当てた。


「いたぁい! ケンスケ! やめて!」


 ユキの叫び声はもはや俺にとって、催淫剤でしかなかった。


「ユキ、好きだ……好きだ……」


 強すぎる興奮で息も絶え絶えに朦朧としながら、口走った。


 早くユキに入りたい、それだけだった。


 グイグイと無理やりに広げて入った。


 すごく遠くでユキの悲鳴が聞こえるような気がしたが、

 情炎で爛れ愛蜜に塗れた脳では何も考えられなかった。


 茹だるような互いの熱で、結合部は融け一つになった。


 波立つように動くユキの奥に刺激されて、腰が抜けそうになる。


「ああああぁ……っ」


 つま先から髪の先まで全てが甘美な悦びで満ち満ちて、

 俺は暗鬱な地下から解放され、陽だまりの暖かさと草花薫る風を生まれて初めて

 全身で感じた奴隷のように詠嘆した。


 悲願のカタルシス。

 産まれる前からこの時を待っていた。


 この感動をもっと享受しようと、

 俺は世界からそれ以外の行動がなくなってしまったかの如く

 腰を動かすことだけに集中した。


 小さな愛玩動物を撫で回すようにねっとりと優しく、

 引退試合を迎えたピッチャーが

 魂を込めて一球一球を投げるようにじっくりと力強く、

 力を誇示し非武装の民衆に向け

 無差別に機関銃を撃ちまくるように無慈悲に激しく。


 それらを望むがままに規則性なく繰り返し、縦横無尽に暴れ、

 存分に蹂躙し尽くした。


 やがて、身体中を電気が巡り

 脳天まで突き上がってくるような強烈な絶頂の波が訪れ、

 それに全てを委ねる。


 これまでの性交では出したこともない、

 獣の咆哮のような大声を出し全身を震わせながら俺は到達した。


 無上のオーガズム。


「ケンスケ……、苦しい……」

 力尽き倒れ込んだ俺の下敷きになっていたユキが、背中をタップしながら言った。


 その声で意識を取り戻し、ハッとユキから身体を離した。


 俺の目に映ったユキは涙で顔をボロボロにして、

 白い肌のそこら中に俺の歯形とキスマークをつけ、涎と白濁に塗れていた。


 そんな痛々しいユキの姿を見て、全身が縮むほど一気に冷えた。


「あ……? ごめ……お、俺……? え……?」

 言葉が言葉にならず、上手く出てこない。


 頭の中が真っ白だ。


 俺、ユキに何した?


 つらそうに身体を起こしたユキの股から、

 ドロリ、と赤と白が混じった液体が流れ出てきた。


 それを見た俺は蹴られた仔犬のような情けない声を出し、卒倒しそうになった。


 かろうじて尻もちで済んだが、両手で口を押さえたまま歯の根が合わず動けない。


 体中の血を抜かれたみたいに寒い。


 ヒューヒューと細く甲高く荒い自分の呼吸音がうるさい。


 冷や汗と涙がダラダラと流れ、

 胃や腸、体内の内臓全てが体内でひっくり返ったように

 気持ち悪い。


 ごめんなさい

 ナゼ?

 ごめんなさい

 ナンデ?


 壊れたオーディオのように同じフレーズがリフレインする。


 脳が咀嚼された食物にでもなったかのように混ぜこぜに回り続けて

 次第に激しい頭痛が起こり始めた。


「ケンスケ、平気だよ、すぐ治る……」


 ユキは俺の頭をひと抱きして頬にキスをすると、

「シャワー、また貸してね」と言い

 歩きづらそうにヒョコヒョコとリビングから出ていった。


 自分で自分が信じられない。


『俺、ユキを――』


「うああああぁぁぁ」


 自分の思考をかき消そうと全力で叫んだ――が声は出ず、

 弱ったネズミが事切れる寸前に出すような、か細い音にしかならなかった。


 そしてそれは無駄な労力で、事実は俺の脳みそに静かに力強く焼印された。


『――レイプしたんだ』

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