第4話 向き合わなきゃならない世間
有美の必死な訴えにしばらく絶句していた祖母だったが、生来仁義には厚い性分でもあり、
罪もない子どもの命を大人都合で奪ってもいいのかと思うと、居た堪れない気持ちにもなり、
考え込んでいたところから、
重い口を開く様に、
「産み月は来月の3月だって言ったわね…。」
「はい。来月の3月20日です」と、
有美が間髪入れずに告げると、
「だったら今は5カ月か…。
まだ中絶は可能な時期ではあるわよ…。」
と、敢えて中絶の言葉を有美に向けると、
「奥様のおっしゃりたいことは分かります。
でも…私は産みたいんです」
と、涙を滲ませて、唇を噛み締め有美。
そんな有美に祖母が、
「したたかに生きたいって言ったわね、さっき?」
「はい…。」と俯いたまま頷く有美。
「じゃ、どうしてしたたかにならなきゃいけないのか教えてあげる。
まず第一にあなたはまだ学生なの、
親の脛かじりで勉学させてもらってるのよね!
その親御さんになんて言って許してもらうの?
50男の指導教授と恋仲になりました。
お腹に子どもがいます。産みたいです。
相手の50男は妻子がある身です。
認知はするけど、離婚はしないと言っています。
でも、産みたいですって、あなた言える?」
と迫る祖母に有美は、
俯いて黙り込んだままで、返事をしなかった。
そんな有美に続いて祖母は、
「そもそも、何であのクソ男はあたしと別れないって
言ってるか分かる?
お金よ!お金の為よ。
だってあたしの実家が最大のパトロンですもの
大学の研究費じゃ賄えない分を、相当毎年援助して
るのよ!それで私と別れたら、その分だって相当
差っ引かれるでしょうねえ!
そもそも、そっちが100%悪いんですからね!」
と、俯く有美を煽る様に云う祖母に、
有美が顔を上げ
「貴方だって不貞を働いてきたんじゃない!」と、
祖母に掴み掛かってきた。
そんな有美の両腕をねじ伏せる様に掴んだ祖母が、
「あらあら、そんな証拠何処にあるのかしら?」
と嘲笑しながら言い、
有美が、ねじ伏せられた腕を必死に振り解こうと
しながら、
「あんたがさっき、あたしに言ったんじゃないのよ!」と声を上げると、
「バカねぇ!そんな話し誰が信じるのよ!
あんたが、あの男と一緒になりたいが為の
絵空事だって、みんなそう思うわよ!
あたしだって、そんな事、公では絶対に認めない
わよ!あんたが勝手に自分の首を絞めだけになる
って、どうして分からないの?」と、
遂には有美に馬乗りになる様な形で煽り立てる様に云うと、有美は堪らず泣き伏してしまった。
そんな有美の上から降りた祖母が、
「これがあんたが向き合わなきゃならない世間よ…。」と、云うと大きな溜め息を吐いて、
泣き伏している有美の隣りに座り込んだ。
「分かってる…。分かってるんだけど…。
どうしていいのか分からないの…。」と、
必死に泣き止もうしながら、嗚咽と共にそう繰り返す有美に、祖母が
「そんなあんたの味方になってくれる人って誰よ?」
と聞くと、有美はただただ首を振るばかりだった。
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