第30話 澄野望結の悩み

体を起こして、周りを見渡す。

私には絶対に合わなそうな、いかにも女子って感じの部屋だ。


眺めながら思う。


似合わねー。


「むにゃむにゃ」


床には、可愛い少女が寝息を立てている。私が男だったら、今頃無茶苦茶に襲ってるくらい、無防備で可愛い寝顔だ。

ちょっと残念な気持ちになりつつ、パジャマを整えて部屋から出る。妹さんをまたいだ時、足の袖を掴まれたのには流石にこらえきれなくなって頬をつついたが、それ以外何もしていない。

あの子かわいいなあ。


「ふああ。おお澄野。もう起きたのか?」


若干眠そうな声が、後方から聞こえる。

振り返らずとも分かる。

ゆきだ。


「おはよう、氷川くん」

「あー。ここではゆきって呼んでくれないか。ここの家ではほぼ全員が氷川だからさ」

「う、うん。・・・ゆき」

「なんかあれだな。付き合いだした手のカップルみたいだな。彼女いたことないけど。あははー。・・・はあ」


へ、変なこと言わないでくれますかね。さっき夢で、おぼろけだが、印象的だった記憶を呼び覚ます。

『好き』


やばい。直視できない。


「?早いけど朝食とるか?」

「う・・・うん」


夢だということは分かってる。それに、私が彼のことを好きになる資格なんてないことも。


光と闇は、交わることはできないのだ。


居間まで歩いていくゆきを見る。

今まで私を避けずに、受け入れてくれた彼は、私の正体を知ってもなお、こうして接してくれるのだろうか。


その答えは、明らかだった。


***

「うちの家族は全員起きるのが遅いんだよ。ごめんな」

「いや。寝顔を眺められる最高の習慣だから、別にいいと思う」

「あはははは。襲うなよ」

「もちろん。女の子同士だし」


ゆきの声が少し真剣さを帯びているのは気のせいだろうか。

気のせいだよね。

そう信じよう。


「おはよー望結ちゃん」

「あ、おはy・・・」

「?どうしたのー?ふあああ」

「起きたかゆーーー」


ゆきは瞬時に目を背け、私はじっと目に焼き付ける。

純白の生肌を。

通称谷間を。


「ん。二人とも―――ってお兄ちゃん。・・・お兄ちゃん!?」


さっと翻し、階段の奥へと行ってしまう。

もう少し見ていたかった。


「おい」


チョップが上から飛ぶ。

痛いじゃん。


「ここでそんな属性表さなくていいから。あんまりじっと見るな」

「別に・・・私にはないし」


胸に手を当てる。

凹凸のない、私の胸に。


「・・・飯、食うか」

「うん」


悲しい足取りで、私は先に席に着くのだった。

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ササラギアパートの物語 @prizon

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