第29話 短編集 ヒロイン&主人公編
*氷川ゆきはシスコンである*
「ねえ、妹様」
「何、兄さん」
「今度一緒にデートしようぜ」
「・・・・・・死ぬな、兄さん」
そこは死ねが来ると思っていたが、違ったのか。
これぞ、、、愛?
「どうして?」
「私がするなって言ったら、大体そうなるから」
俺の妹は、あまり俺に優しくなかった。
*澄野望結はオタクである*
7月28日。
とあるアパートのとある一室で、有る少女がじっと、写真を見つめていた。
「やべえ」
ラブコメのヒロイン、唯香ちゃんを眺めているのだ。可愛いは、正義である。
そして唐突に、ゆきに初めて見せた時を思い出す。
正直、知られた時点で、絶交される覚悟だった。それなのに、彼は私の友達であり続けた。
一緒に語り合ってくれたりもした。
気味悪がらずに、笑ってくれた。
私を受け入れてくれた。
「はあ」
胸が締め付けられる。
「・・・好きだよ」
誰に向けたのかは、心の奥底に。
*瀬川香織は変態である*
「香織ちゃーん。ご飯できたよー」
「はーい」
私こと、瀬川香織は、親戚の瀬川由紀の家に住んでいる。
正しくは居候だったけ。
そんなことを考えつつ、出していた宝物を箱に仕舞い、そっと自室の物置に隠す。これを見られたらあらぬ誤解を招くだろう。かすかに温かい男子高校生くらいのパンツがあれば、だ。
食卓に降りる。先に由紀姉さんは私をまっていた。
「そういえば香織ちゃん」
「何?」
オムレツを食べる前に、会話が始まった。シリアスな声だ。何かやらかしたかも知れない。この、黒髪でグリーンアイの女性は、怒ると本気で怖い。
「パンツって、好き?特に男子高校生の」
「ぱ、パンツですか。あの、股間部分を防護する、布製の衣類のことですね?まあ確かに女性用のパンツには言い知れぬ魅力がありますが、盗むほどでもありませんね」
「そこまで聞いてないし。それに怒るんじゃなく、私は応援しようと思っているのだよね」
「ほう。その心は?」
応援?いいい、いったいなんのことやら。さっぱりだなあ。
「私が男を落とす極意を教えるから、パンツはもう盗んじゃだめだぞ」
「ははは。何を仰る。盗むわけ無いでしょう」
極意だと?知りたい。できればパンツ以外も盗みたいし。
こうして私は、おとなしく姉の講義に2時間ほど付き合い、歩み寄る決意をしたのだった。
*氷川結は乙女である*
気持ちの良い朝を迎え、私は目を覚ます。時計に目をやると、今は五時らしい。私は中学生なので、化粧はNG。なのに早起きするのは理由が有る。
引き出しを開け、隠し箱を解除し、写真を取り出す。
そこには幼い兄さんと、恥ずかしそうな私が写っていた。
「兄さん。今日、ついに帰ってくるんだね」
胸が熱くなる。今まで写真越しだったが、ようやく本人に会えるのだ。兄を愛する妹としては、最高の記念日になる。
「兄さん。好き。大好きです。初めてあた頃から、ずっとずっと大好きです」
きっとこの想いは実らない。
「兄さんの笑顔が好きです。優しい所が好きです。いつも頭をなでてくるのも好きです。色々な表情を私に見せてくれるのが、大好きです」
でも、私は兄さんが好きだ。家族になる前、中学校のあの日から。あの、春の初恋の季節から。
きっとこの想いは伝わらない。でも
「ずっとあなたのことを、愛しています」
私は、彼が好きなのだ。これはとうに、ブラコンを超えている感情だった。
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