第22話 思い出
真夏の炎天下の中、エアコンの効いた部屋で二人の少女が黙々と書類に目を通していた。
その高校の生徒会は、地域共同の文化祭や、もともと厳しかった校則を教育委員会と対等に話し合ってほとんどの案を通したことで有名なコンビだ。
所謂レジェンド。
伝説の生徒会とか呼ばれているらしいが、だれが言い出したのかは分からないが、ものすごいスピードで定着した二つ名だ。いったい誰が広めたのやら、、、
「終わったあ」
親友のれんちゃん、こと華蓮が気持ちよさそうに背伸びした。ここは早瀬高校の一室。生徒会室と呼ばれる部屋で、私たちは達成感に満ちた表情をしていた。
つまりは、朝霧茉莉と秋村華蓮で、副会長と生徒会長。
サポーターと、主人公。
私の、私だけの役割。私たちだけの物語。
「ねえ、れん。今日くらいどっか行く?」
「れん、なんて呼ばないで。男っぽいじゃん」
すねたような口調で、私の親友は言った。やっぱり彼女は可愛いなあ。
「ごめんごめん。それで、今日暇?」
「ん。いやー。今日は家に親戚が来ててね。ちょっと重要らしくて。ごめん」
「別にいいよ。よくあることだし」
つまりは今日はボッチか。正直に言うと私は華蓮以外に友達という友達がいない。一応クラスのグループに入ってはいるんだけど、副委員長だからか、有名な生徒会長の友達だからか、なぜか遠慮がちだ。
やはり目立ちたくないのだろう。いい人なんだけど、やはり目立つからだ。
秋村華蓮。
私の親友であり、理想であり、初恋のような人。
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私が彼女と出会ったのはいつ頃だろうか。あいまいな記憶をたどれば、小学6年の時だと思う。何せ私は記憶力が低いのだ。彼女と違って。
6年生。
あなたは何を連想するだろうか。いつも笑って、グループなんかを気にしないでいられる最後の期間。まあその頃の私は、グループも何も、ボッチだったからあまり関係はないけれど。
悲しいかな、私は根暗だったのだ。
当然のごとく誰も話しかけてこない。いつも本を読んで、(その頃は知らなかったが)コミュ障ってレベルに人が苦手だった。
特に集団が。
まあ自分の黒歴史はここまでとして、彼女と出会った黒歴史に移ろう。
「今日は転校生を紹介します。どうぞ、入って」
ホームルームの時間に突然発表された転校に、クラス中がざわめいていた。無論、私は読書にいそしんでいたが。まあ聞いてはいた。私だって関わらないだろうけど気になるのだ。
「こんにちは。私の名前は秋村華蓮。どうぞよろしく」
不愛想なセリフでクラスに転入してきた彼女は、無表情だった。
“”“ここまでで、1182文字”“”
無表情というと、感情を表に出さないポーカーフェイスだが、そのイメージがぴったりと重なる人だった。長く伸ばしている赤い髪に、何の興味もなさそうな赤い目。まさしく外見に似合わないセリフだ。笑えばもっと可愛いのにと思ったけど、考えを改め、また読書に戻った。
どうせ関わりのない人だ。
そう割り切ったからこそできる行動だった。
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さて、彼女はというと、クラス中の生徒から囲まれた人気者―――ではなく、何人かのグループから声をかけてもらっても無視するか、あるいは塩対応だった。
男子遠巻きに見られているだけで、動じもしない。まさしくこのクラスから孤立しようとしていた。
どんな子だろう?
どんな子だろう?“”“”“”“”“”“”“”“”ここは文字の上に点々を!!
えっ私って彼女のことが気になっている?よりにもよってボッチの私が?かかわりのないひとに?
初めてではない。あの頃はまだクラスからも孤立していなかったか、転校生が来て、興味津々だった。だが結局私は勇気がなく、話しかけられなかったけど。
謎だ。ダークマターレベルだ。いや分かりにくいな。
事は私の嫌いな、体育の時間に起こった。
今日は水泳の三回目の授業だった。予想できるように、私は運動音痴だ。だが嫌いな原因はそこじゃない。いやなのはペア作り。別名ボッチいじめ。
まあ私の偏見だけども。偏見すぎるだろうけども。
けれどその日は違った。いつも通り先生と組むと思っていたけれど、そこが違った。細かく言うと相手はごつい教師ではなく、あの転校生秋村華蓮だった。かかわりのないと思っていた人だ。
「さあ、私と組んでくれない。てゆうか組む以外ないわよ、あなたには」
と、勝手に選択肢を決められました。いやもう選択肢じゃないよね?そう思っても口つぐむだけだけど。
第一印象は、少し高圧的な人だということだ。それ以外にはあまり目立ったところはないと思った。
「いや・・・あの。私は・・・」
「別にいいでしょ。暇そうだし、私友達いないし。あなたボッチだし」
自虐と悪口を同時にいう人とは珍しい。その感想しか心の中になかった。いや目をそらしてたともいえる。まあ自覚はしているけど。
自己主張が強い謎の転校生に、断れない気が弱いボッチ。なかなかシュールな組み合わせだった。
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その後も何度か会話した。というかほぼ一方的だったけど。このままいくと勝手に終わると思っていたし、やはり孤独は嫌だったのかもしれない。私は何もしなかった。
「ところであなたはいつも何を読んでいるの?」
私に話しかけてきた彼女に、私は戸惑いを覚えた。秘密。誰しも持っていると思う。それは私も例外ではない。
「なんでもないです」
「いいから見せなさいよ。たまにはあなたのことも気になるんだから」
かなり高圧的な口調で、私から本を奪いました。とても自然に、ナチュラルに。
「っっっ!」
ええ予想外だったでしょう。何せ私が読んでいたのは、学園物の、変態系ラブコメディだったのですから。
「終わった・・・」
そして、私は逃げた。
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