第18話 瀬川香織の休日
◆瀬川視点◆
私にとって本は、病院内での唯一とも言える暇つぶしだった。なにせ病院には何もないのだ。そしていつしか趣味の一つとなっていた。今日はそのラノベ、、、じゃなくて文庫本を買いにTSUTAYAに行く。昔じゃ考えられないことだ。
そしてこの瞬間私はそれを感謝することになる。
「あっ」
はもった。驚いた顔で、ゆきくんと。
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「偶然ですね。こんなとこで会うなんて」
あれから1時間、私はアパートへと帰りながらゆきくんと話していた。
別に今日彼が出かけるのを改めて知って、それで待ち伏せっぽくついたわけじゃないけど。
「ほんと、これは運命だねゆきくん。付き合おう」
おっと心の声が出ちゃった。いけないいけない。
「あ、そうですね」
すごいスルーされたな。まあ朝からずっと言ってるからか。
「そうだ。今日暇ですか?暇ならちょっと付き合ってほしいことが有るんですけど。忙しいんなら・・・」
「行きます。この傷が開いても絶対に行きます。」
若干引いた目で見られた、でもすぐにいつもの優しい雰囲気に戻った。
でも何するんだろう。まあ、二人きりなら別にいいなかな。
「それじゃ、来州水族館の手前で待ち合わせで。」
「来州・・・水族館。」
「はい。」
「つまりはデート?」
「いや普通に違いますよ。」
「ふふふ、デートデート」
「いやだから違うって」
くだらないことを話しながらアパートに戻った。最近よく疲れるとか、クラスであんまり友達ができないとか。一部悲しい話題もあったけどそれ以外は普通に楽しかった。
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「おおお。すげーでかいな、これ」
「たしかに綺麗だね。でも他の人の迷惑にならないでね。」
「す、すみません。なんか神秘的で。」
興奮する幼馴染に、それをなだめる黒髪ロング系美少女。これは絵になる。てかデートじゃん。
壁一面に広がるガラス壁の奥に広がる深い海。たしかに神秘的。でも水族館二度目だし、結構疲れてきた。少し呼吸も荒くなってきた私に
「瀬川さん。ちょっと休憩しましょう」
心配そうにゆきくんが覗き込んできた。目が合う。そこにはさっきまでの興奮した雰囲気じゃなく、心配するような雰囲気があった。
本当に、優しすぎるよ。昔から相変わらず。だから私は救われたし、こんな気持ちも感じることができた。ありがとう。
「はいこれ。好きかどうかわかりませんけど」
そんなことを考えているといつの間にか飲み物を買っていてくれた。ゆきくんが気を利かせて、カフェにて休憩中だ。そのおかげか、体調もずっと楽になった。
「ありがとう。お陰でだいぶマシになったよ。」
「いや、こっちこそ無理させてすみません。まだ入院してから間もないのに。」
「ううん。大丈夫。結構体力も治ってきたし、それに今日は楽しかったしね」
カフェの時計を確認すると、もうすでに4時を過ぎていた。約3時間。この短い時間でも、ずっと心に思い描いていた想像よりも楽しかった。
帰り道の途中はあんまり話をしなかった。お互い疲れていたんだろう。
「今日はありがとう、ゆきくん」
「いいえ。こちらこそ」
見上げた青空は、さっき見た海のように綺麗で清々しかった。こうして私は一日をおえた。
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